キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年8月29日(金)
[ デュポン・サークル便り ]
まだ8月最終週だというのに、ワシントンDC近郊はすっかり初秋を感じさせる天気になり、朝晩は肌寒い日も。今週は、まだ連邦議会が閉会中ということもあり、休暇を取っている人やリモートワークの比重を増やししている人も多く、ワシントンはまだまだ閑散としています。日本は残暑なのか、まだまだ暑中なのか、相変わらず蒸し暑い天気が続いているようですが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。
第2次トランプ政権発足から早くも8か月たち、1週間に、何かしら話題になる事件やハプニングが複数発生するのがもはや日常。だんだん感覚がマヒしてきてしまっている感は否めません。これだけ連日、外交に内政に話題を提供してくれるトランプ大統領、もはや有難迷惑な存在です。メディアの皆さん、本当に連日ご苦労様です。
今週はまず、李在明・韓国大統領の初訪米で1週間が幕を開けました。訪米そのものは、もはや「アジアの首脳あるある」と化した戦略国際問題研究所(CSIS)でのスピーチ以外は、ワシントン滞在中はほとんど露出がありませんでした。唯一のCSISでの演説も、日中、トランプ大統領との首脳会談など一連の公式予定を終えたあとに、さっときて、演説して、司会のハムレ所長からの2,3問の質問に答えて、1時間もしないうちに会場を後にする、というあわただしいもので、会場にいた聴衆も、ざっと見たところ、最前列に陣取っていたCSIS理事や評議員、歴代の在韓アメリカ大使などを除けば、在ワシントン韓国人や、日本人を含むその他のアジア人のかたがほとんど。日本の国会議員がCSISで演説するときとほとんど変わらない光景が広がっていました。
正直、話題にならないようにあえてこの時期を選んだんじゃないのか、とつい勘繰りたくなるような時期の訪米となった李大統領、会談前からトランプ大統領に、韓国内政をあてこすったような「パージが起きてんのか?革命でもやってるのか?危なっかしくて韓国でビジネスとか無理だろ」という先制パンチを食らう中、緊張MAXでトランプ大統領との会談に臨みました。しかし李大統領、ここからの巻き返しがお見事でした。プレスの冒頭撮りの場面では、トランプ大統領が金ぴかにした会談場所を「とても明るい。アメリカのダイナミズムが感じられて素晴らしい」とほめちぎり、トランプ大統領本人に向かっても「(朝鮮半島の)ピースメーカーになってほしい」「北朝鮮にトランプ・タワーを立てて、トランプ・リゾートでゴルフをしていただきたい」などなど、ひたすらヨイショ。ここまでおだてられては、トランプ大統領も悪い気はしません。「金正恩と議論したいことについて、ここまで前向きに考えてくれる指導者は初めてだ」と会談前のビーンボールすれすれの先制パンチはどこへやら、自分から李大統領に手を差し出し「選挙での勝利、おめでとう。素晴らしい勝利だった」と祝辞。固い握手を交わして、和やかな雰囲気で無事、米韓首脳会談は始まりました。
そしてここでもバンス副大統領の横にしっかりと陣取っていたルビオ国務長官。これからも首脳会談の場では、かならずバンス副大統領のお目付け役として陣取るつもりでしょう。個人的には、並んで座っている間、一度も言葉を交わすことも視線を合わせることもなく、静かに横並びで火花を散らしていた「ルビオVSバンス」の方が興味がありましたが・・・
今回の李大統領の訪米準備に関与していた韓国側の知人によると、「2月のゼレンスキー・トランプ会談の惨劇」が繰り返されたらどうしよう・・・というのは、リアルな懸念だったようで、なんとしてもその事態を防ぐべく、入念な準備がされたようです。もちろん、「冒頭発言の最初から、とにかくほめてほめてほめまくる」というのもその入念な準備の結果だったのでしょう。「具体的に成果って言われるとよくわからないけど、とにかくポジティブな雰囲気で会談を終えることができた」というのが、李大統領にとっては今回の最大の成果だったと言えるのかもしれません。
そんな中、ワシントンDCでは、相変わらず、共和党知事を持つ州から派遣された州軍がワシントンDC警察や移民取り締まりの業務をサポートするために、市内のパトロールを含めてプレゼンスを示しています。ですが、大統領が大統領令でこれを続けることができるのはあと1週間ほど。レーバー・デーの連休後、早々に、もともと「ワシントンDC自治法」で認められている30日の期限を超えても連邦政府がDCの治安業務を統括し続けるか否かをめぐり、議会でバトルが始まります。
そしてそれだけでも話題は十分なのに、昨日はついに、「運輸省がワシントンDCユニオン・ステーション駅の運営権掌握に向けて動き始める意向」というニュースまで入ってきました。1908年に工事が完了したユニオン・ステーション、1940年代ぐらいまでは、鉄道交通を担う全米主要駅の一つとしてにぎわっていました。ですが、第2次世界大戦後、老朽化が急速に進み、1980年代以降、再開発の動きは続いているものの、今はお世辞にも駅の状態がいいとは言えません。なんといっても、連邦議会と目と鼻の先の距離にあるというのに、付近の治安があまりにも微妙なため、駅の構内にもレストランやお店がいつかず、ショッピングモールとしても、レストラン街としてもイマイチどころか「イマサン」ぐらいの状況が長らく続いていました。せっかく建物自体は、古き良き時代のアメリカを想起させる立派なものなのに、もったいないなぁ、といつも思っていたので、運輸省が駅の運営に関与することで、駅付近の治安を含め、利用者にとって優しい状態になるなら、個人的には大歓迎です・・・。
ただ、以上の話題はあくまでワシントン近郊ならではの話題。それ以外の全米大多数の人にとっての今週の最大の話題は、超大物人気歌手のテイラー・スウィフトさんとこちらのアメフトのスター選手のトラビス・ケルシー選手の婚約。全米女性のアメフト観戦人口がこのビッグカップルの誕生で激増したといわれていますが、これからは、このビッグカップルの結婚式の会場、ゲストに呼ばれる人、スウィフトさんのウエディング・ドレスなどなどをめぐる話題が当分、続いていくのでしょう。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員