外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年8月13日(水)

デュポン・サークル便り(8月12日)

[ デュポン・サークル便り ]


アメリカは、早いところでは、すでに新学期が始まりました。ワシントン近郊も、来週から公立・私立を含めほとんどの学校が新年度を開始します。が、なぜか私の息子の高校は、1年生のオリエンテーションに数日間かけるため、学生全員がそろって登校するのは8月26日。そうです、なぜか、今年高校2年生になる息子は、夏休みが1週間長いのです。本人はガッツポーズですが・・・日本もお盆休みムードだと思いますが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

実は先週はオーストラリアに1週間出張に行っておりました。ちょうど、オーストラリア政府が、日本の「もがみ」型護衛艦をベースにした新型艦ををオーストラリア海軍に導入することを決定したタイミングと重なったため、キャンベラで懇談した豪外務省、国防省など諸政府機関の皆さんがお祝いモード。日豪関係、ひいては日米豪の防衛協力のための大きな一歩となる可能性を秘めたこの決定、プログラムが無事に進むことを祈りたいですね。

ほんの数日でしたが、日豪安全保障関係にとって大きな吉報に触れ、またオーストラリア人のおおらかな気質とおいしい食事に癒され、あわただしくも楽しく出張日程をこなしてワシントンンに戻ってきた私を待っていたのは

「トランプ大統領とプーチン大統領がアラスカで8月15日(なんで終戦記念日なの)に頂上決戦」

「ワシントンDCの警察を少なくとも30日間、治安維持の目的で司法省の傘下に吸収することをトランプ大統領が決定」

という2つのメガトン級ニュースでした・・・加えて「主要欧州諸国に続いてオーストラリアもパレスチナの国家承認を決めました」というプチ特大ニュースもありますが・・・

アラスカでの「トランプ対プーチン」会談については、欧州諸国もウクライナも一斉に反発していて、バンス副大統領が慌てて、とってつけたような協議の場を設けた、と報道では伝えられていますが、このような場所でどのようなやり取りが行われたかは容易に想像できます。しかも、直接対決したところで、トランプ大統領とプーチン大統領が合意に至る可能性は未知数。「とりあえずトランプ大統領との直接会談をゲットして、ロシア国民に『トランプと堂々と渡り合うプーチン』のイメージをアピールして時間を稼いで、その間、ガンガン、ウクライナ攻撃を続けるつもりだろう」というのが大方の見方です。

また、DC警察を司法省の指揮下に置く、という決定は、相当いろいろなところでハレーションを起こしています。が、実はワシントンDC警察官組合だけは「トランプ政権の決定を歓迎」という冷静な声明を出しているんです。そして、大変言いにくいことではありますが、私も今回の決定には、DC政府側の「身から出たさび」的な面があると思っています。

というのも、マリファナが合法化されてからというもの、最近のワシントンDC市内はどこにいってもマリファナのにおいにさらされない場所はほぼ皆無。しかも、学校が夏休みに入り、若者がDC市内でうろうろし始めてからは、店舗荒らしや、車上荒らし、さらにはレストラン荒らしなどが頻発、地区によっては夜11時以降、保護者に引率されていない17歳以下の未成年は翌朝まで基本外出禁止、さらに大人数で公共の場で集まることも禁止、という規則が発動されているからです。この規則の発動時間が夜9時になっているエリアもあるほど。かくいう私も、ここ数年は、夜、知り合いと食事をするためにDC市内に入らないといけないときには、路上駐車は可能な限り避け、タクシーで「door to door」にするか、少し割高でも屋内駐車場を利用し、駐車場所から待ち合わせ場所もできるだけ短くなるようにしています。正直、私が初めてアメリカに来た30年以上前に逆戻りしたような治安状況を肌で感じていましたし、あんなマリファナの空気が充満する場所に子供を連れて行きたくない、と思っていました。

なので、もし司法省がDC警察を指揮下に置き、州軍の投入などを行った結果、DC市内が再び、夜でも安心して歩け、子供も安心して連れていけるエリアを取り戻せるのであればハッピー、と思っているのは、きっと私だけではないと思います。

ただ・・・2つのメガトン級ニュースのうち前者は「ピースメーカーとしての自分を、中間選挙前に何としても演出したいトランプ」の意向が色濃く反映されており、後者は「法と秩序を守るトランプ大統領」のイメージを強調したいトランプ大統領の意思が強いものと思われます。でもこれって・・・やっぱり・・・中間選挙対策っぽい感じがしますよね・・・


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員