キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年8月4日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
ここのところ、東京に負けずとも劣らない蒸し暑さが続いていたワシントンDCエリア。これを書いている今日(7月31日)は、午後から夕方にかけてゲリラ豪雨となり、どうやら明日以降は、ようやく暑さも蒸し暑さも、少し落ち着きそうです。日本は太平洋側に津波警報が出るなど、落ち着きませんが、みなさん、いかがお過ごしでしょうか。
今週のワシントンは、さすがに少し、夏休みモード。とはいえ、「トランプ劇場関税編」は、いよいよ高関税率発動まで秒読みとなり、待ったなしの状況です。日本に続いてEUがなんとか交渉を妥結。そしてこれを書いている今日(7月31日)、韓国がかけこみで交渉をまとめました。韓国も15%の関税率で話をなんとかまとめたところを見ると、「15%」という数字を勝ち取った日本の赤沢大臣の功績はかなり大きいようです。
が!カナダ、オーストラリア、インドなど、まだまだ関税交渉がまとまらないまま8月1日を迎えてしまいそうな国は多数のようです。これからは、関税発動以降、これらの国からの輸入品が軒並み値上がりすることが、どのようにアメリカ国内の消費者物価に跳ね返ってくるのか、関税を一気に引き上げられた国が報復措置をとるのか・・・この騒動、当面続くのでしょう。そうこうしているうちに、中間選挙の季節もあっという間にやってきますし・・・・
そんな中、今日は地元の「ちょっといい話」を一つご紹介したいと思います。地元の大学に通う男子大学生が、アルツハイマーを発症してしまったおばあちゃんのお世話をしていた時に着想を得て起業したビジネスが話題になっている、というお話です。この男子学生は、今年の秋からジョージ・メイソン大学3年生になるザッカリー・スーさん。小さいころからお料理が大好きで、お手伝いの一環で「6,7歳ぐらいから家族と一緒に料理してた」という彼、高校3年生になるころには、レストランでもコックとしてバイト。そんな彼は、おばあちゃんがアルツハイマーの診断を受けて以来、身の回りの世話を手伝うようになりましたが、その時に、おばあちゃんが健康な食生活を送ることができるようにいろいろと手助けをしているうちに、「健康な食生活を送るための支援が必要なお年寄りはうちのおばあちゃんだけじゃないはず」と、お年寄りのみを対象にして、持病などからくる食事制限などを踏まえた健康的な食事のメニューを栄養士のアドバイスを受けながら作成、それをプロのシェフが1週間分作り置きをして、自宅まで配送する・・・というビジネスモデルを考え付きました。このアイデアを、自分が通っているジョージ・メイソン大学の経営大学院主催の「起業コンテスト」に提出したところ、何と優勝して賞金も獲得。ゲットした賞金7000ドルで起業した「Elderly Eats (Uber Eatsをもじっているみたいですね)」は起業後、100名を超す地元のお年寄りに、食事の宅配サービスを提供、徐々に話題になってきているということで、最近、地元メディアに取り上げられるようになってきました。毎日トランプ劇場に振り回されていると、こういうほほえましい話を聞くと、本当にほっとします。
そして今回の「デュポンサークルだより」ではいつもご愛読いただいている皆様にもう一つ、大事なご報告があります。私、この21年間、ワシントンではスティムソン・センターというシンクタンクに所属して活動しておりました。が、勤続20年という節目を超えたこともあり、新天地で挑戦しよう!と一念発起、「インド太平洋安全保障研究所(IIPS)」という、名前のとおりの、インド太平洋地域の安全保障問題研究を専門にするシンクタンクに移ることとなりました。
そして、転職のご報告をしていたら、非常に面白い現象が。スティムソンは総員60名を超えるシンクタンク、対するIIPSはインターンもいれて20人いるかいないか、の超アットホームなシンクタンクです。それなのに!ワシントンで私が転職の報告をした相手はほぼもれなく、IIPSのことをよく知っていただけでなく、「ステップアップおめでとう!」とまで言ってくれたのです。半分は外交辞令だとしても、シンクタンクの知名度とコミュニティでの「評価」は、組織の「大小」とは必ずしも関係がない・・・という「目からうろこ」の瞬間でした。
今週以降、ワシントンでは新天地で引き続き頑張りますので、よろしくお願いいたします!
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員