外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年7月7日(月)

デュポン・サークル便り(7月7日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週のアメリカは、7月4日に独立記念日を迎え、来年の建国記念250周年までのカウントダウンが始まりました。週の前半は、連日ゲリラ豪雨に悩まされましたが、独立記念日当日から土~日と連なった3連休は、真夏を思わせるようなお天気。実は、私自身は、息子の一時帰国同伴で東京にいたため、独立記念日は日本で迎えたのですが、私が住んでいるバージニア州のご近所では、かれこれ40年以上、家の持ち主が世代交代しても続いている由緒正しい(?)伝統行事である、ご近所一丸となっての独立記念日合同バーベキュー・花火大会が、盛大に行われたという楽しい報告が、花火大会のビデオ録画とともに送られてきました。日本も、今日の都内は猛暑日警戒アラート2日目となりましたが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

第2次トランプ政権が発足してから、毎日のイベントが多すぎて、安心してワシントンを離れられませんが、先週のワシントンもお約束の通りでした。私が息子と一緒に東京に向かう前、家族ぐるみのお付きあいをしていた空軍の友人の指揮官交代式に出席するためにニューメキシコに向かい、アルバカーキで友人家族と旧交を温めている間に、ワシントンでは「大きくて美しい予算案(Big Beautiful Bill, いつのまにかBBBという略語で呼ばれるようになりました)」の成立・不成立をめぐる激しい攻防が、トランプ大統領が極めてランダムに設定した「7月4日」という成立期限に向けて激化しておりました・・・

このBBB法案、先々週にかな~りの僅差で下院に可決された後に上院に送付されていたわけですが、上院であまり修正条項が加えられてしまうと、下院でもう一度、再可決する際に問題が発生する可能性があるため、危険を察知した(?)ジョンソン下院議長がテレビの政治番組に出演しまくり、上院議員の皆さんに「あんまり内容いじらないで!」という必死のお願いをしていました。そんな微妙な状況で上院に送付されたBBB法案、結果は、なんと6月30日から審議入りした上院が徹夜で作業を続けた挙句、「賛成51票,反対50票」。そうです、上院議長でもあるバンス副大統領が賛成票を投じたことでようやく「賛成51票、反対50票」となり、文字通り薄氷を踏むような僅差で可決され、下院に再可決のために送られました。

こうして上院が審議・可決したBBB法案を再可決→大統領署名というレールに乗せるために受けとった下院ですが、ジョンソン下院議長も自分のクビがかかっている局面です。必死に賛成票を投じることを渋る「下院自由コーカス」という名前の共和党保守派のグループに対する説得工作を続け、最後には、このグループとトランプ大統領が直々に面会、法案賛成を働きかけるところまでヒートアップ。

その結果、7月3日には「賛成218票、反対214票」というほぼ造反なしの投票結果で可決、この法案は無事にトランプ大統領の署名を経て通称「一つの大きくて美しい法律」として成立する運びとなりました。

ですが、この法案、所得税などの恒久減税、さらに高齢者の方が受給する年金に対する所得税免税など、一般の有権者にとってお助けになる面がある一方で、低所得者対象の健康保険支援制度である「メディケイド」などを大幅に削減。さらに、国庫に与える影響も甚大、ということで、これから法律の影響が出るにつれてどのような事態が生じるかは未知数。さらに、この法律を成立させる過程で、トランプ大統領の「ファースト・バディ」から完全に「天敵」となったイーロン・マスク氏が、第3党の結成に向けて意思表明。マスク氏は中間選挙での候補者擁立を目指して早速動き始めているとも言われ、マスク氏の動きが、トランプ大統領に昨年投票した支持層の一部にどのような影響を与えるかも見逃せません。今、日本で、自民党の支持層の一部が参政党支持に・・という報道も見かけるようになりましたが、これと似た動きになっていくのかもしれません。

さて、民主党はこの「大きくて美しい法律」を中間選挙に向けた攻撃対象とし、来年の中間選挙での勝利に結びつけることができるでしょうか・・・


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員