キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年6月30日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
一気に「3H(hazy, hot, humid)」がやってきたワシントン近郊。私は今日(6月29日)から、空軍の友人の指揮官交代式に出席するため、息子と一緒にニューメキシコ州のアルバカーキに来ています。交代式は7月1日なので、明日6月30日には、まだ松葉づえを使って歩いている息子のペースに合わせて、いつもよりゆっくりと、いろいろなところを見て回る時間に充てるつもりです。ただ、こちらに来て気になるのは、泊まっているエリアのせいかもしれませんが、ショッピングカートに荷物を詰めて歩いているホームレスの人の姿が目立つことです。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
先週から週末にかけて、いよいよ議会では、トランプ大統領肝入りの「大きくて美しい法案」、つまり2025~26年度連邦政府予算に向けた交渉が大詰めを迎えています。減税の財源を、福祉や教育などの予算の大幅カットと債務上限引き上げで乗り切ろうとするこの予算法案、民主党は最初から一枚岩の「反対」でまとまっています。このため、上下両院どちらも、わずか数名の共和党議員が反対票を投じるだけで法案を可決することができなくなってしまうという「ギリギリライフ」をジョンソン下院議長は強いられてきました。この予算案を、ジョンソン下院議長が、薄氷を踏むような僅差でなんとか可決、上院に送付したわけですが、上院では、今もこの予算案に反対の立場を崩さない共和党上院議員がいるため、混乱模様となっています。
興味深いのは、下院と上院で、この予算法案に反対する議員の毛色が若干異なること。下院でトランプ大統領の予算法案に反対していた議員は「財政赤字が増えるだけだから」という主張の議員が殆どでした。ですが、上院議員でこの予算法案に反対している議員は、「メディケア(低所得者層を対象にした医療保険支援制度)を削りすぎだ」、「財政赤字が大幅に増える」などなど理由はバラバラ。このため反対派は、もともとトランプ大統領との関係が微妙なメーン州選出のベテラン、スーザン・コリンズ上院議員やノース・カロライナ州選出の比較的穏健なトム・ティリス上院議員から、テキサス州選出の保守派やランド・ポール上院議員まで、実にバラエティに富んでいることです。
さらに、ここにきて、イーロン・マスク氏も予算法案への反対のボルテージを上げてきました。土曜日以降、
「最新の上院で審議中の予算案は、アメリカ国内の何百万という雇用を破壊し、わが国にとって甚大な戦略的ダメージになる」
「とち狂っていて、全く生産的じゃない。過去の遺産のような産業を生きながらえさせる支援をばらまく一方、未来の産業に重篤なダメージをあたえている」
などなど、先月、「X(ツイッターの前身)」や「トゥルー・ソーシャル」などのソーシャルメディアでトランプ大統領とガチに批判合戦になったエピソードを彷彿とさせる書き込みが再びみられるようになりました。今度は、この二人の対決、どのように展開していくのでしょうか・・・・
いずれにせよ、上院での予算法案を成立させるためのロングラン審議は、ワシントンDC時間で6月30日(月)午前9時から開始されます。さて、どのようなドラマが議場で繰り広げられることになるのでしょうか・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員