外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2025年6月24日(火)

デュポン・サークル便り(6月24日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントン近郊は、今週は、今年の熱波第一号が到来。ワシントン特有の「3H(hazy, hot, humid)」が週の半ばまで続くことが予想されるため、予想最高体感気温は、先週の時点からさらに上方修正されて、40℃に近づく勢いです。週末も決して涼しかったわけではありませんが、今週まで持ち越してしまうよりは「まし」、ということで、熱中症のリスクと背中合わせになりながら庭仕事に精を出したひとは、私だけではないでしょう。東京都議選終了後、政局が流動性を増してきた感がありますが、日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

先週の「デュポン・サークル便り」を書いていた「Juneteenth」という連邦政府の休日(6月19日)の段階で、まさか週末の真っ只中に米軍がイラン国内の地下奥底に潜むフォドール施設を含めた3つの核施設を攻撃するなんて、誰が予想したでしょうか。確かに、6月18日に「トランプ大統領、米軍による対イラン軍事攻撃計画を承認」というニュースがメディアを駆け巡ってはいましたが、6月19日朝に「軍事計画を実行するかどうか決める前に、外交努力を、あと2週間継続させて、状況を見たい」というトランプ大統領の発言が報じられて以降、焦点は、6月24~25日にかけてオランダのハーグで開催されるNATO首脳会議でどのような議論がされるかだったはず。当のトランプ大統領本人も、土曜日の日中は、ニュージャージー州に自分が持っているゴルフのカントリークラブに「オープンAI」社の経営者を招待してゴルフに興じる様子が報じられていました。午後にはワシントンに戻り「安全保障問題についてブリーフィングを受ける」という日程が既に組まれてはいましたが、連日、中東情勢に関するブリーフィングを受けているので、この日もそれだろう、ぐらいにしかとらえられていませんでした。

それなのに・・・夕食を済ませてリラックスモードでテレビをつけた私を待っていたのは「トランプ大統領、自身のSNSでイランの核施設を爆撃したことを発表」という臨時ニュース。夕方7時50分にトランプ大統領が「トゥルー・ソーシャル」に出したメッセージが、私の目に飛び込んできました。さらに夜の10時ごろから、トランプ大統領がホワイトハウスから記者会見をするというニュース。昼間、ゴルフしてたよね・・・・

予告どおり夜10時半ごろ、バンス副大統領、ルビオ国家安全保障担当大統領補佐官兼国務長官、ヘグセス国防長官の3人を従えて登場したトランプ大統領は、意気揚々と「攻撃は素晴らしい成功だった」と宣言、「イランが和平への道を選ばない場合、イランにとって悲劇が待っているだろう」と述べました。

そして、日曜日には朝8時から国防省でヘグセス国防長官とケイン統合参謀本部議長が一緒に、軍事作戦の詳細をブリーフ。先週、当地でちょっと毒のあるユーモアで人気のコメディアンのビル・マーハーさんが、自分のトークショーで「アメリカにはバンカーバスターはあるけど、作戦の成功にはトム・クルーズが必要」と、昨年、アメリカで久々の大人気になった「トップ・ガン:マーベリック」にかけたジョークで笑いをとっていましたが、あの映画で描かれた作戦行動をはるかに上回る緻密な作戦の全貌が明らかになりました。なんといっても、目くらましでインド太平洋方面にもB2爆撃機を飛行させるという念の入れようだったわけで・・・

とは言え、誰も予想しなかったこの事態に、ワシントンは大騒ぎ。特に、議会では、大統領が議会に許可を求めずに今回、イランに対する爆撃に踏み切ったことは「戦争権限法」に反する!宣戦布告の権限は議会にしか与えられていない憲法上の権利だ!と、特に民主党議員から大きな反対の声が上がりました。さらに今回、興味深かったのは、トランプ大統領の岩盤支持層のはずのMAGA派、つまり共和党保守派の議員の中からも、大統領決定に異を唱える議員が出たことです。彼らが反対した理由は民主党議員とは大きくことなり、「この戦いは米国の戦争ではない。イスラエルとイランにやらせておけばいい、なんでアメリカがわざわざ介入しなくちゃいけないんだ」というもの。ただでさえ今後数か月、議会では上下両院とも席数の差が一桁しかなく、たった数人、共和党議員から造反者が出ただけで、予算法案が可決できなくなるという綱渡りの状況が予想される中、外交政策をめぐってトランプ大統領に反対する共和党議員が出てきた、というのは、ジョンソン下院議長にとって、これから新たな頭痛の種になるかもしれません。

もはや中東情勢ですら、トランプ大統領の気まぐれに振り回されているような様相を呈してきましたが、こちら、最新ニュースは、これまた突然、トランプ大統領がこれを書いている今日(6月23日)の夕方、自身のSNSで発表したイスラエルーイラン間での停戦合意の成立。ほんとうにこんなにあっさり、停戦って成立するものなんでしょうか・・・

というわけで、6月25日にワシントンDC時間6月25日朝9~10時(日本時間同22~23時)にスティムソン・センターで開催するオンライン・セミナー(https://www.stimson.org/event/america-first-changing-world/)では、このあたりも含めて、3人のパネリストの皆さんにお話を伺う予定です。ぜひ、ご参加いただければと思います。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員