外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年6月20日(金)

デュポン・サークル便り(6月20日)

[ デュポン・サークル便り ]


季節外れの涼しい日がしばらく続いていたと思ったら、連日、夕方から夜にかけて大雨が降り、そのたびに、確実にお天気はワシントン特有の「3H(hazy, hot, humid)」に近づいていきます。しかも、早くも来週は、高気温+高湿度という最悪の組み合わせが少なくとも週の前半は続き、体感気温が早くも38℃に近づくという週間予報。これだけ短期間で一気に気温が上昇すると、体がついていけません。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

実は、これを書いている今日(6月19日)は「Juneteenth」という連邦政府の休日。1865年にテキサス州で、最後の奴隷が、自分たちが解放されたことを告げられたのがこの日に当たることから、奴隷解放記念日として、バイデン政権期間中の2021年6月17日に、連邦政府の祝日に制定されました。トランプ政権が真っ向から反対する「DE&I」の象徴のような趣旨の休日なので、実は私は、トランプ政権発足後、大統領がさっさとこの休日は取り消し、平日に戻すのでは?と、内心、ドキドキしていました。ですが、休日のプラス1はそのままオッケーということなんでしょうか・・・

とはいえ、連邦政府は休日かもしれませんが、国際情勢は動いています。特に、6月12日にイスラエルがイラン国内の核開発プログラム関連施設を標的に軍事攻撃を始めてワシントンだけではなく全世界を驚愕させてからというもの、アメリカ国内のニュースは、明けても暮れても、中東一色になりました。

しかも、この数日間、「トランプが対イラン軍事攻撃に向けて準備を始めた」という報道がワシントンを駆け巡り、米・イラン直接対決のリスクがここにきて一気に上昇。さらに、トランプ大統領は、「イラン・イスラエル紛争への対応に集中するため」として、6月15~17日まで出席を予定していたカナダのカナナスキスG7サミット滞在をまるまる一日早く切り上げ、さっさとワシントンに戻って、シチュエーション・ルームで会合を続けています。

しかも昨日は、「トランプ大統領、米軍による対イラン軍事攻撃計画を承認」というニュースがメディアを駆け巡りました。また、実際に攻撃命令を下すかどうか、決めたのか、という質問をメディアから受けたトランプ大統領は「その命令はいつでも下せる。ギリギリになってから下すことだってできる。」と質問をはぐらかし、最後の最後まで何の発表もせずに、突然決める可能性をムンムンと漂わせる、思わせぶりな口調。今朝(6月19日朝)のニュースでは「軍事計画を実行するかどうか決める前に、外交努力を、あと2週間継続させて、状況を見たい」というトランプ大統領の発言がトップニュースで報じられました。

そもそも、アメリカとイランの関係は、1953年にイランで、民主的選挙を通じて選ばれた当時のモサデグ首相がクーデターにより失脚、パフラヴィ―王朝による独裁体制に移行してからというもの、この70年以上、常に緊張状態。特に1979年のイラン革命でパフラヴィ―王政が転覆、現在のような最高宗教指導者を頂点にしたイスラム教共和国へと政治体制が移行してからは、1980年に国交を断絶、実質的に没交渉の状態が続いています。

そんなイランに核兵器開発疑惑が浮上して以来、イランの核兵器開発プログラムをなんとかして停止すべく、欧米諸国は懸命な外交努力を重ねてきました。満額回答とは言わないまでも、国際原子力機関(IAEA)による査察受け入れを含む多国間合意がやっと成立したのは、第2次オバマ政権もラストスパートに入った2015年のこと。ですが、トランプ政権は2018年にこの多国間合意からあっさり、アメリカを脱退させてしまい、以来、実質的にイランの核兵器開発プログラムはどこの国もモニターできない状態が続いて現在に至っています。

このような状況でアメリカとイランの間で直接軍事衝突が起こるような事態になれば、事態は一気に中東全体に波及します。「原油価格が上がる~」と嘆いているだけでは済まなくなることだけは確実です。だからこそ、EUもイランに外交交渉の場に戻るよう、懸命な働きかけを、先週以来ずっと行っているのです。

現在、イラン側がアメリカとの外交交渉の場に出てくる可能性が少しだけ出てきました。これから、全世界が固唾を飲んで見守る中、アメリカとイランの間で本当に外交交渉が始まるのか、また、2週間たっても外交交渉がなんとか続いている場合、イラン攻撃にはやるイスラエルをトランプ大統領は抑えることができるのか・・・・まったく気が抜けない時期がしばらく続きそうです。

そんな中、週明けの6月24~25日は、NATO首脳会議がオランダのハーグで開催されます。ただでさえ、この機に乗じているとしか思えない動きをロシアが見せている中で開催されるこの首脳会議、アジェンダにさらに中東問題も加わり、厳戒態勢の下、各国首脳が集います。近年、NATOとの関係強化を進めている日本やオーストラリア、ニュージーランド、韓国、所謂「IP4」の首脳も参加を予定するこの会合。IP4各国にとっては、欧州と中東の2地域で紛争が現在進行形で起こっている今、これらの情勢に対する対応ももちろんですが、より気になるのは中国や北朝鮮の動きです。特に、この1~2年、ロシア、中国、北朝鮮間の連携が進み、更にこれにイランも加わって、国際秩序全体を揺るがしかねない事態が生まれています。

夏休みが・・・とか言っている場合ではなくなってしまいました・・・

普段はこのような宣伝は一切、しないのですが、ここでちょっと宣伝です。私のワシントンと東京、それぞれの活動拠点であるスティムソン・センターとCIGSのコラボ企画で、CIGSからは宮家理事、スティムソン・センターからはリンカーン・ブルームフィールド第二代理事長とエレン・ライプソン前所長の計3名をパネリストにお迎えしたオンラインセミナーをワシントンDC時間6月25日朝9~10時(日本時間同22~23時)に開催します。お三方とも中東の専門家であるだけでなく、ヨーロッパやアジア情勢にも通じていらっしゃいますので、タイムリーな議論になることは確実です。ご関心あるかたは、ぜひこちらのリンク(https://www.stimson.org/event/america-first-changing-world/)から参加登録してみてください。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員