外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年5月19日(月)

デュポン・サークル便り(5月19日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週のワシントン近郊は、毎日、午後から夕方にかけて「にわか雨または雷雨」。しかも、湿度が着々と高くなり、5月中に「暑くて、(湿気で)霞がかって、蒸し暑い(hot, hazy and humid)」いわゆる「3H」で知られるワシントンの夏に突入してしまうのか?!と瞬間、心配しましたが、昨日、とんでもないゲリラ豪雨が通り過ぎたあとは、空気が少し軽くなりました。スーパーは「母の日」セールに引き続き、従軍中に命を落とした、あるいは戦時に行方不明になったままの軍人の方を偲ぶ「メモリアル・デー」セールに、ほぼ秒速で模様替え。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

なかなか、「デュポンサークル便り」で内政ネタを取り上げることができていませんが、現在のアメリカ内政で最大の話題は不法移民問題をめぐるトランプ政権とアメリカ司法とのバトル。この問題、そもそも、「移民」というコンセプトになじみのない日本の皆さんには、なんで移民問題がこんなに大ごとなのか、今一つピンとこないとのではないでしょうか。

さらに、現在、トランプ政権は、政治的その他の理由で難民としての地位を申請中か否かといった事情を一切考慮せずに、「現在の滞在資格が違法」という基準でひとくくりにして該当者を一斉拘束、彼らに移民法廷で審査を受ける時間を与えずに大量強制送還している状態。しかも、その中に、実際に、難民としての地位を申請中で、いわゆる「不法移民」ではないのに、逮捕→強制送還になってしまい、事後、トランプ政権が「あの人を逮捕したのは間違いでした」と認めているのに、アメリカに送還し直そうとしない人がいます。また、学生ビザや永住権など、合法的にアメリカに滞在する資格を有している人たちを、「反ユダヤ的言動をしたから」「パレスチナ支援のデモを大学で煽動したから」などの理由で拘束、滞在資格を取り消そうとする、などの動きもあります。このように話が完全にごっちゃになり、ただでさえ分かりにくい話がもっと分かりにくくなってしまっているのです。実際、現在の法廷バトルの係争点も

「現政権の不法移民一斉逮捕・強制送還という措置が合法・合憲か」

「トランプ政権が『1978年米国の敵法』を今回の措置の法的根拠として挙げているのは合法・合憲か」

という「そもそも論」から

「連邦地裁の判決で全米での行政府の動きを縛ることができるか(現在、トランプ政権が取ろうとしている措置は、全米複数の州の連邦地裁が「執行差し止め命令」を出していることで、実質的にこれ以上、手続きを進めることができない状態です)」

という「連邦裁の管轄権」という法的概念の話までが混在する、純粋に法的側面からだけ見ても本当に複雑な事態。これにさらに政治的な要素が加わり・・・と、一言でいうと、もはや複雑すぎて「分かり易い解説」がほぼ不可能なレベルになっています。

なので、今日は、メインテーマをそこではなく、「トランプ政権報道の『第二文』」つまり、ヘッドラインの裏側について少し触れてみたいと思います。

一番分かり易いのは、第二次トランプ政権発足100日後の世論調査に関する報道でしょう。4月20日に政権発足100日を迎えた第二次トランプ政権の支持率については、報道機関はほぼ(FOXニュース以外の)全機関が

「第二次トランプ政権発足後100日目の支持率、近年まれにみる低支持率」

を第一報として報じ、さらに、トランプ大統領の得意分野であるはずの経済政策でも不支持が支持を上回っていることや、イーロン・マスク氏率いる「DOGE」チームによる連邦政府省庁大再編の試みがとりわけ不人気であることなどを伝えています。日本のメディアの一部では、「早くもトランプ政権に逆風か」という報じ方をしていたところもあったように記憶しています。

確かに、歴代の政権の支持率などが一目で分かる「American presidency project」という、カリフォルニア州立大学サンタバーバラ校が運営するウェブサイトを見ても、1953年のアイゼンハワー政権以降、100日目の世論調査で「不支持」が「支持」を上回っているのは、第一次トランプ政権と第二次トランプ政権のみ。2000年大統領選挙で、フロリダ州の選挙結果確定までに1か月以上費やしたブッシュ(子)政権でさえ、政権発足後100日の2001年4月の世論調査では「支持62%、不支持29%」です。これに「政権発足当初から最初の100日間で支持率を下げた政権」という切り口を加えると、カーター政権、第一期クリントン政権、第一期オバマ政権、第一次トランプ政権、ともう少し増えますが、それでも、支持率が50%を切っているのはトランプ政権のみ。確かに、上記の報道は事実です。

ですが、この報道の「第二文」、すなわち「トランプ政権不支持=共和党不支持=民主党支持率アップなのか否か」、という問いに答える報道はアメリカメディアでも、実は多くありません。というか、あるにはあるのですが、分析記事を意図的に探さないと見つけるのが難しい、という方が正しいかもしれません。

そんな記事の一つ、ABCニュース電子版4月27日付の分析記事を見てみると、民主党にとってはトランプ政権への支持率が低いというだけでガッツポーズをしている場合ではない、という重い現実が見えてきます。この記事は第二次トランプ政権が100日目を迎えるに際して、同社がワシントンポスト紙と共同で行った世論調査の結果のより細かい分析を紹介したのですが、今のアメリカの全体像を見る上で欠かせないデータがこれです。

img01.png

(出典:https://abcnews.go.com/Politics/trump-lowest-100-day-approval-rating-80-years/story?id=121165473


ここにあるのは回答者に「あなたが心配していることに誰が寄り添ってくれていますか」という趣旨の問いに対する回答です。全体としては、共和党支持層はトランプ政権や共和党に好意的で、民主党支持層はその逆です。しかし、毎回選挙で焦点になる無党派層の中では、民主党が「自分たちの懸念に寄り添ってくれていない」、つまり「現実離れしている」と感じている人たちがなんと76%もいて、トランプ大統領や共和党に対して同じように感じている無党派層と比べてもダントツに高いのです。来年の中間選挙や2028年大統領選挙で重要になる無党派層では、「トランプ大統領低支持率=民主党支持率アップ」では決してありません。彼らは、トランプ大統領のこれまでの政策にがっかりした人に「次は民主党に一票を入れるか」と思わないどころか、「トランプ大統領もいただけないけど、民主党はもっと駄目よね」という声が増えているのが現状なのです。

要は、好き嫌いは別にして、今のアメリカ政治の全体像を把握するうえで欠かせない「トランプ政権不支持=共和党不支持=民主党支持率アップなのか」、という問いに対する回答は「ノー」、すなわち「トランプ政権に逆風」どころか「現実離れ路線を進み続ける民主党に大逆風」なのです。

不法移民問題をめぐる論争も然り。冒頭で書いたトランプ政権の強硬な政策や、トランプ大統領自身の「合法移民」と「不法移民」を完全に混同した言葉遣いが余計に事態をややこしくしているという点については既にご紹介しましたが、この問題についての「深堀りの試み」はまた別の機会にしたいと思います・・・

それにしても、中東歴訪中もビックリな展開の連続、ホントに付いて行くのが大変です・・・


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員