外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年5月8日(木)

デュポン・サークル便り(5月8日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントン近郊は、初夏を思わせるお天気の日も出てきました。ですが、この地域の夏につきものの湿気はまだ。なので、カラリとした気持ちの良い日がこのところ続いています。母の日もまたとない「お天気」になるという予報です。日本の皆さんは良いゴールデンウィークを過ごされましたでしょうか。

日本がゴールデンウィークでお休みモードの間も、アメリカは通常の毎日。しかも、こういう時に限って、盛沢山な一週間となり、もう何が何だかわかりませんが、とりあえず、今回は外交・安全保障面での話題にフォーカスしたいと思います。

政権発足100日を迎えたトランプ大統領を待ち受けていたのは、「新政権発足後100日時点での支持率が過去70年で最低」というニュース。主要メディアによる全ての世論調査で支持率は40%を割り、得意分野のはずの経済政策でもトランプ大統領の方針を支持すると答えた有権者は半分を割る、という何ともアレな雰囲気の中で、トランプ政権は発足後100日という、いわゆる「ハネムーン期間」を通過しました。

そんなどんよりした空気が漂う中で出てきたショッキングなニュースは、5月1日に発表されたマイク・ウォルツ国家安全保障大統領補佐官の異動人事。実は、「シグナルゲート」や、共和党のトランプ支持層の中でも極右の活動家のローラ・ルーマーさんとトランプ大統領が4月3日にホワイトハウスで面会した直後に、「この人たちなら第二次トランプ政権でも外交・安全保障政策は、まぁ大丈夫かな」と諸外国を少し安心させていた人たちが相次いで更迭されるなどの事件が起き、それ以降「ウォルツはホントに大丈夫なのか?」と心配されていたのです。

そんな背景もあり、トランプ大統領が5月1日に自身のSNSサイトの「トゥルー・ソーシャル」で「ウォルツさんをアメリカの国連大使に指名することを名誉に思う」と発信した後も、この異動人事は「昇進にみせかけた更迭じゃないの?」という憶測があとを絶ちません。

というのも、国連大使は上院による指名承認が必要なポストで、アメリカの大使の中でも、少し格上の閣僚級ポスト。なので、通常であれば「ウォルツさん昇進おめでとう」と素直にお祝いしたくなるところです。が!ウォルツ氏は、「シグナルゲート」の渦中も渦中、イエメンをベースに活動するフーシ―への軍事攻撃に関する詳細をやり取りするチャットの中に、「ザ・アトランティック」誌の編集長を誤って加えてしまった張本人。事後、ウォルツ氏は、自己弁護することもせず、速やかに「ごめんなさい」をし、トランプ大統領も彼を更迭する考えはない、と明言してはいたものの、誰かが引責しないわけにはいかないだろうと言われていました。そして、なんといっても、とくに今のトランプ政権の中では大統領との距離がそのまま影響力に直結します。ひと昔前、日本にも「最後に聞いた人の話」に一番影響を受けてしまう総理大臣がいらっしゃいましたが、トランプ大統領もまさにこのパターン。なので、ニューヨークが本拠地になる国連大使ポストは、形式上は「昇進」ではあるものの、実態は「降格」と見る向きが殆どです。

当面の間は、なんとルビオ国務長官が国家安全保障担当大統領補佐官の仕事を兼務。既に「クビ」を言い渡されているアレックス・ウォン次席補佐官は、ルビオ国務長官が兼務のペースをつかむまで、という期限つきで居残りになります。国務長官が国家安全保障担当大統領補佐官を兼務するのは、あのヘンリー・キッシンジャー御大以来とか。更に、それ以上に大事なのが、ウォルツさんの後任が誰になるのかということ。政策担当国防次官に就任したばかりのエルブリッジ・コルビー氏がトリプル昇進する、という話や、現在既にホワイトハウスで政策のほとんどで主導権を握るスティーブン・ミラー氏が兼務して、内政から外交までの一切を取り仕切るのでは、とかいろいろな噂が出てきています。私の周りで聞く反応は「ウォルツを中心にしたチームがAチームだったのに・・・」という悲壮感漂うものです。

そんな中、日本からゴールデンウィーク返上で赤澤大臣が訪米、ベッセント財務長官と二度目の交渉に臨みました。異次元の追加関税が一旦、フリーズされている90日間の期限がくる6月までには、なんとか合意に持ち込みたい、という思惑は、日本はもちろん、90日後に「どの国とも交渉まとまらず→追加関税再発動→市場大混乱→米国債売りがひろがる」という最悪の結果を回避したいトランプ政権との間で一致していますが、あとはどのような妥協をお互いにできるか。ちなみに、日本で価格が高騰して「アメリカから輸入すれば?」という話も出ているカリフォルニア米ですが、こちら、生産地がカリフォルニア州、つまり民主党の票田なので、ここで「輸入拡大」と言っても、あまりトランプ政権の皆さんの琴線には触れないような気がします。むしろ、交渉がようやく始まる中国の市場から締め出される可能性がまだまだ高いアメリカ産の大豆やトウモロコシなどを「うちが買います!」と先に手を上げてしまう方が、トランプ政権との関係ではポイントにつながるとは思うのですが、そこは日本のニーズにマッチしない感じですし・・・難しいですね。早ければ今月中旬にも再度交渉、という話が出ていますが、担当者の皆様には、当面、休日も週末も無しですが、頑張っていただきたいです。

政権発足100日たったばかりで早くも「トランプ劇場第2シーズンエピソード2」が始まった感が出てきた第二次トランプ政権。既に内政でも予算、不法移民問題に関する司法からの巻き返しなどなど、低支持率に追い打ちをかける事態が内政面でも出てきました。こちらについては、週明けに別便でお伝えしたいと思います。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員