キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年3月31日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
ワシントンは、今週末、一気に暖かくなるようです。ということは、桜の開花のペースも早くなります。が!週末にはにわか雨という予想が・・・・雨に弱い桜、週末を越えることができるでしょうか・・・日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。
今週もワシントンでは、保健福祉省が、既に早期退職を受け入れた1万人に加え、さらにもう1万人の人員削減を決めるなど、相変わらず「DOGE旋風」が吹き荒れています。また、バンス副大統領が突然、奥さんに同行してグリーンランドを訪問すると言い出し、グリーンランドとデンマークから猛反発を食らった結果、グリーンランド内の米軍基地の視察に、急遽訪問中の日程が大幅変更になるなど、こちらは相変わらず話題豊富ですが、今週はなんといっても「シグナルゲート」。
「シグナル」は、既に使ってるよ~という読者の方も多いと思いますが、LineやWhatsApp、メッセンジャーなどのチャットアプリに比べると情報保全が比較的しっかりしているということで、ちょっと機微なやり取りをする人によく使用されているアプリです。米政府・軍関係者でのこのアプリを使用して同僚とやり取りしている人は多く、私の周りにも、例えば、米軍の図上演習中のやりとりはシグナルを使うことが義務付けられている、という友人の話もよく聞きます。
とはいえ、どこまで機微な話をこのアプリ上でしていいのか、と言われれば、それはやはり、誰でも入手可能なアプリである以上、いくら保全に優れていると言っても限界があるわけです。それなのに、今回の「シグナルゲート」は、イエメンの武装勢力フーシに対する軍事攻撃作戦の詳細という、普通の人が考えても、最低でも秘匿がかかった電話回線を使ってのやり取りで、対面の会議でしか話せないもの、とされてもおかしくない機微な話を、マイク・ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官、ピート・ヘグセス国防長官、トゥルシー・ギャバード国家情報官、ジョン・ラトクリフCIA長官が、なんとこのアプリを使って議論していたという仰天なお話。しかも、そのチャットグループの中に、全く無関係の政治・外交専門誌である「アトランティック」誌のジェフリー・ゴールドバーグ編集長が誤って含まれていた、という驚愕の事実が発覚したのです。
この話が出た当初は、トランプ大統領はすぐに、「機密情報のやり取りやされていない」「軍事計画などの詳細についてはやり取りされていなかった」と主張。ウォルツ氏も「私があのチャットグループは作った。自分に責任がある」と火消しに走りました。ですが、やはりそこは、自分たちの非は絶対に認めたくないトランプ政権の体質が出てしまい、ゴールドバーグ氏が「チャットの内容を大げさに報じている」というカウンターパンチで反撃。この対応に業を煮やした「アトランティック」誌は、ゴールドバーグ氏の携帯の「シグナル」アプリ上で交わされたチャットのスクリーンショットの写真とともに、チャットのトランスクリプトを公開して応戦。その結果、「どの戦闘機が何機、いつのタイミングで出撃するか」といった軍事計画の詳細がこのチャットでやり取りされていた事実が発覚してしまったのです。
さすがに「機密情報のやり取りはなかった」で突っ切れなくなってきたトランプ政権、現在は、このチャットのやり取り全てが「リベラル系メディアによる捏造」だという、これまた仰天の主張をしています。ですが、ここまで暴露されてしまうと、さすがに共和党主導とはいえ、議会が黙っていません。既に上下両院の軍事委員会や情報委員会に、ラトクリフCIA長官とギャバード国家情報長官の二人が揃って呼ばれ、民主党議員だけではなく、共和党議員からも厳しい質問に連日晒されている様子が、テレビでお茶の間に流れました。しかも「そんなチャットグループの存在、私は知らない。自分がそのチャットグループのメンバーだったのは知らなかった」と公聴会で発言したギャバード国家情報長官も、実はチャットグループの一員だっただけではなく、チャット上で積極的に発言していたことが、「アトランティック」誌が公開したトランスクリプトで明らかになってしまい、かなり恥ずかしい展開に。ついに、これを書いている今日(3月27日)は、上院軍事委員会のウィッカー委員長(共和党)が、民主党筆頭委員のリード上院議員との連名で、国防省監察官に対して、ことの次第を調査して議会に報告することを求める書簡を出しました。
このままでいくと、遅かれ早かれ、誰かが責任を取らざるを得なくなりそうな雰囲気ですが、さて、ここで責任を問われるのは誰になるでしょうか。興味深いのは、この件に関し、トランプ大統領はこれまでのところ、ウォルツ国家安全保障担当大統領補佐官「しか」弁護していない、ということ。つまり裏を返せば、いくら他のアプリに比べれば保全性が高いとはいえ、普通は対面の会議でしか話さないような軍事計画の微に入り細に入りを軽率にもチャットに乗せてしまったヘグセス国防長官、議会公聴会で前述のような頓珍漢な受け答えをしてかなり恥ずかしい感じのギャバード国家情報長官あたりが、詰め腹を切らされて辞任に追い込まれる可能性もありそうです。
当のヘグセス国防長官、ハワイ経由フィリピン・日本訪問の真っ最中ですが、これがもしかすると最初で最後の外遊になってしまうのでしょうか・・・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員