キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2025年2月3日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
ワシントンは、「トランプ劇場2.0シーズン1」が毎日、豊富な話題を提供してくれるので、連日テンテコマイです。トランプ政権の動きを追いかけるだけでも大変なのに、1月30日には、国内短・中距離路線を主に扱うレーガン・ナショナル空港に隣接する水域で陸軍ヘリと中型民間機が衝突、翌31日には、患者輸送の小型機がフィラデルフィア郊外で墜落という大事故が立て続けに発生。どちらの事故も「生存者ゼロ」というなんともやりきれない結果となりました。いずれも今後、原因究明に向けた調査が続くと思われますが、トランプ大統領は既に一連の事故の責任を取らせるとして空港警備にあたる交通安全局(Traffic Security Authority)の局長をはじめとする、この種の事件対応に習熟している実務家レベルの幹部を一斉更迭。政権発足早々緊急事態への対応に追われるトランプ政権、引き続き、注目です。
このような悲しい事故の他にも、先週1週間は連日、トランプ政権関連ニュースが世間を賑わせました。連邦政府職員全員に対して「2月6日までに辞職を決めたら、8か月分の給料は保証してやる。でもそれ以降は仕事があるという保証はないぞ」という半ば脅しに近い「早期依願退職」を募ってみたかと思えば、連邦政府機関の施設の補修や管理を行う一般調達庁(General Service Administration)が施設の老朽化や今後の連邦政府職員数削減の見通しなどを理由に、連邦政府が占有するオフィススペースを可能な限り速やかに50%縮小する予定であることが発表されたり、同じく連邦政府職員の退職金その他を扱う管理予算局(OMB)の職員数を7割削減すべしという通達がホワイトハウスから出されたことが明らかになったり・・・と、いわゆる「公務員イジメ」としか思えない措置がつぎつぎと発動されています。
さらに、2021年1月6日の連邦議事堂襲撃事件関連捜査を担当していたFBIの捜査官に対し「早期退職を選択しなければ階級を下げる」と脅して退職に追い込んだり、トランプ大統領に批判的な言動をしていたマイク・ミリー前統合参謀本部議長の(極秘情報を読める)セキュリティ・クリアランスをはく奪、さらに、彼の身辺警護についていた警護官も引っぺがす、という荒業まで。ちなみに、ミリー前統合参謀本部議長がセキュリティ・クリアランスを剥奪されたことは、ヘグセス国防長官により伝達されましたが、その数日前トランプ大統領は別の大統領令にも署名し、ジョン・ボルトン元国家安全保障問題担当大統領補佐官を含む、計50名余りの元国防省及び情報機関の高官のセキュリティ・クリアランスをはく奪。第2次世界大戦後、原爆開発に深く関与したオッペンハイマー博士が共産主義者ではないかとの疑いをもたれてクリアランスを剥奪されるという事件がありましたが、その時以来の明確な政治的意図を持った「パージ」だとして、関係者の間では衝撃が走っています。
そんな中、先週は、ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健衛生長官指名や、クッシュ・パテルFBI長官指名、トルシ・ギャバ―ト国家情報官指名などの「お騒がせ閣僚候補」の指名承認公聴会も行われました。ケネディ保健衛生長官指名に対しては、彼の従妹のキャサリン・ケネディ元駐日大使が、上院議員全員に対して、彼の指名承認を認めないように嘆願するレターを出し、その内容を公表したことが大きく注目を集めました。パテルFBI長官指名については、彼が以前から「仕返し人事」やバイデン前政権関係者の「捜査対象リスト」を内々考えているのではと噂されていたこともあり、「FBIの政治化」に対する強い危機感が持たれています。また、ギャバ―ト国家情報官指名についても、彼女が下院議員時代に陰謀説をたびたび吹聴していたことや、これまで情報コミュニティでの経験が皆無であることなどが問題視されています。当然ながら、それぞれの指名承認公聴会はどれも緊張感に満ちたものとなり、主管委員会所属の民主党上院議員と彼らの間で何度も緊張に満ちたやり取りが行われました。
まだ政権が発足してからたった2週間でこの大騒ぎ。これから、まだまだ、いろいろな話題を提供してくれることでしょう。それにしてもこんな騒ぎの中、石破総理は今週末にも訪米、トランプ大統領と初対面するようですが、大丈夫でしょうか・・・。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員