外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2025年1月24日(金)

デュポン・サークル便り(1月24日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは、1月20日の大統領就任式前日の1月19日以来、一日の最高気温が余裕で零度を下回る日が続いています。本稿を書いている今日(1月23日)は、「今日は昨日より寒くないかも」と思いましたが、それでも一日の最高気温はようやく零度でした。しかも、大統領就任式の翌日は、寒すぎて(朝の気温が余裕で-10℃を下回っていました)、路面がアイスリンク状態ということで、ワシントンDC近郊の学校は、どこも最低で2時間遅れの始業となりました。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

さてさて、ワシントンでは1月20日の大統領就任式と共に「トランプ2.0劇場シーズン1」がいよいよ始まりました。就任式も、約40年ぶりに、外気温の余りの寒さに屋内に場所を移して行われるという異例のスタートとなりましたが、早くも第1期目とは全く違うトランプ政権が姿を現しました。

今回は、とにかく第1次政権とは比較にならない速さで猛烈なスタートダッシュをかけているというのが第1印象です。なにしろ、就任式直後に、わざわざ、前日「祝勝会」を開催したキャピタル・ワン・アリーナに場所を移して始まった大統領令への署名ですが、あそこで署名したものだけで40本超、全て署名が終わってみれば、なんと、総数200本以上の大統領令に署名しているという勢い。内政問題で選挙公約として掲げていた「不法移民の大量強制送還」「連邦政府省庁の効率化」「多様性、公平性、包含性(*DEI)関連政策の停止」などを進めるための大統領令に次々と署名。その結果、不法移民の大量強制送還に向けた移民局の活動を支援するために、メキシコと国境を接するアメリカの南部諸州に州軍だけではなく正規軍を派遣。メキシコとの国境まで正規軍が出たのは、米墨戦争以来?!かと思うぐらい超異例の事態です。

また「DEIに配慮した政策の執行停止」については、主に人事管理面で次々と政策を導入。連邦政府内のDEI関連のプログラムを遂行するためにだけ雇われた人間は即座に有給休暇に追い込まれ、60日後をめどにした解雇通告の対象に。また、常々「米軍にDEIへの配慮なんかいらん!」と豪語していたとおり、早くも、バイデン政権時代に女性初の軍組織の最高司令官に任命されたリンダ・フェイ沿岸警備隊司令官を更迭。リサ・フランチェッティ海軍作戦部長が次なる標的では、という噂が既に拡散しています。

ですが、これだけものすごい勢いで発出した大統領令の中には、合憲性という観点からみると「?」なものも多数。中でも今週の話題は、アメリカ国籍を取得できる要件として憲法第14条に掲げられている「出生地主義」の行方。この「出生地主義」の原則は、親の滞在資格に拘わらず、アメリカで生まれた赤ん坊は皆、生まれながらにしてアメリカ国籍を持つ、というものです。これをトランプ大統領は「不法移民の親に生まれた子供は、片親が米国市民か永住権保持者でない場合は、アメリカ国籍を付与されない」に変更することを目指す大統領令に署名、交付したからさあ大変。全米22州の司法長官がこの大統領令の執行差し止めを求めて集団訴訟を連邦裁に対して起こしました。タイミング的にはワシントン州の連邦裁判事(レーガン政権時に指名された人なので、保守系判事ですね)が、トランプ大統領によるこの大統領令は違憲なので、執行を差し止める、という判決を出したばかり。この件については、まだまだ法廷闘争が繰り広げられるでしょう。

このように、毎日毎日、何か大ニュースがある第二次トランプ政権の滑り出し。まだ正式に政権が発足してから3日しか経っていないのに、もうこれだけいろいろな政策が打ち出されています。これから変化についていくのが大変そうです・・・。

*DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン):Diversity(ダイバーシティ/多様性)、 Equity(エクイティ/公平性)、Inclusion(インクルージョン/受容・包含性・包括性)の頭文字をとった言葉


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員