外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2025年1月20日(月)

デュポン・サークルだより(1月20日)

[ デュポン・サークル便り ]


これが「1月20日号」として出ている時は、アメリカは大統領就任式前日の1月19日夜になります。ですが、大統領就任式に向けた各種イベントは、既に始まり、さっそく、今日(19日)はトランプ・バンス次期大統領・副大統領夫妻が、アーリントン墓地で無名戦士の墓に献花するという就任式前日の恒例行事に臨みました。

ですが、既に1月20日の大統領就任式は話題に事欠きません。最大の話題は「天気」。実は今日は、今年既に2度目の雪模様で、明日の大統領就任式のお天気は、1985年のレーガン大統領就任式以来の寒さ。通常、就任式は連邦議事堂の外で行われますが、外で長時間動かずに立っているのは危険な気温になることが予想されるため、就任式が1985年以来、屋内で行われることに。屋内で就任式が行われる場合、場所は議事堂内のロタンダになるため、出席できる人が大幅に減ります。

このため、就任式前日の今日19日と就任式当日の20日の両日、トランプ陣営は、主に自分たちの支持者を対象にした大きなイベントを、ワシントンDC市内のキャピタル・ワン・アリーナで開催。このアリーナは、バスケの八村塁選手がワシントンDCのチームに在籍していた時に、彼がプレーする姿が日本で放映されていたアリーナです。

そのアリーナで今日開催されたトランプ陣営によるイベントは、一言でいうと「祝勝会」。支持者に囲まれたトランプは、「トランプ節」全開で、就任式直後に署名する100本以上とも言われている統領令に触れ、「不法移民の大量強制送還」やエネルギー政策、連邦政府公務員のステータス、バイデン政権下で推し進められてきた「多様性、平等性、内包性(Diversity, Equity and Inclusion, DE&I)政策の廃止など、選挙公約に掲げたアジェンダを如何に進める意向かを明らかにしました。また、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件やマーティン・ルーサー・キング牧師暗殺事件に関する記録も全て公開することなどにも言及しました。

ただ、祝勝会では興味深い現象も。例えば、スピーチ中の「Tik Tok は今日からサービス再開だ!」という発言。日本でも広く報道されていたと思いますが、アメリカでは動画共有アプリのTik Tokが中国資本であることを問題視されています。アメリカで使用される部分を中国資本から100%切り離さない限り、米国内で実質的にTik Tokの使用が禁止されるという内容の法案は既に議会で超党派の支持を得て可決されています。その後バイデン大統領の署名を得て法律として成立、Tik Tok 社側の差し止め請求も米最高裁で退けられた結果、19日未明を以って、Tik Tok アプリはアメリカ国中では使えなくなっていました。今回トランプ氏はそれを復活させる!と宣言したのです。

さらに、政権内でのイーロン・マスクの存在感も明らかに。というのも、トランプ次期大統領がスピーチ中に、壇上に招いてスポットライトをいわば「シェア」したのは、マスク氏だけなのです。普通はこういう場合は、自分の副大統領を壇上に招くもの。それをあえてマスク氏を招いたことが、マスク氏が政権の、特にこれから発足する「政府効率化省(Department of Government Efficiency、既にDOGE(ドウ―ジ)という略語でアメリカでは呼ばれています)をけん引する存在としての彼の存在の大きさを暗示しています。同時にこのエピソードは、トランプ氏とバンス次期副大統領の関係の生ぬるさを実感させる出来事ともなりました。

ワシントンが20日からの第2次トランプ政権発足に戦々恐々とする中、世界では、イスラエル・ハマスの一時停戦が成立した結果、人質の解放が始まるという大きな動きがありました。そのため、特にCNNなどでは最初に解放されたイスラエル人女性3名の到着を、文字通り「国を挙げて」待ち受けている光景が、トランプ次期大統領の「祝勝会」と画面を二分して、同時に生中継されていました。

いよいよ明日は大統領就任式。「アメリカ政治史上、最大のカムバックの一つ」とも言われるトランプ氏の大統領職復帰が実現します。これはもう、今週も特別号は確実です。

(了)


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員