外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2024年12月26日(木)

デュポン・サークル便り(12月26日)

[ デュポン・サークル便り ]


皆さん、クリスマスはいかが過ごされましたでしょうか?アメリカでは、クリスマス・イブはおろか、日本でもお盆・年末の風物詩の「帰省ラッシュ」が早くも12月20日には出現。そんななか、クリスマス・イブにアメリカン航空の運航計画が大幅に乱れるなど、てんやわんやです。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

11月の大統領選挙以降、我々のような仕事の人間の週末や祝祭日を台無しにしまくってくれているトランプ次期大統領。なんといっても、ウクライナ問題担当特使を発表したのが「アメリカ版お正月」といっても過言ではない、感謝祭前日ですからね。今週も例外ではありませんでした。なんと、クリスマス休暇直前の12月16日の週、内政で最大の懸案となっていた「連邦政府一時閉鎖を回避できるか事案」への参戦や、帰省ラッシュが始まろうかという週末にかけて相次いで国防省の幹部人事を自分のSNS「トゥルー・ソーシャル」で正式(?)発表。ここまでくると「ゴルフしながら考えまとめて、一気に決めてるんでしょ!」と突っ込みたくなる感じです。

ですが、少なくとも先週発表された国防省幹部人事を見て、「よかったぁ・・・・」と思った人も多かったのではないでしょうか。12月22日にトランプ次期大統領が「トゥルー・ソーシャル」で発表したのは、スティーブン・ファインバーグ氏を国防副長官に、エルブリッジ・コルビー元国防次官補代理を政策担当国防次官にそれぞれ指名すること。調達・維持担当国防次官にはマイケル・ダフィー氏が、研究・エンジニアリング担当国防次官にはエミール・マイケル氏が既に指名されているので、これで国防省の主だった幹部は全員、指名された形です。

この人事の中でも、ひときわ日本を含めアメリカの同盟国が「ほっ」としたのではと思われるのが、エルブリッジ・コルビー氏を政策担当国防次官に指名した人事です。我々の間で「ブリッジ」と呼ばれ、親しまれているコルビー氏は第1次トランプ政権では国防次官補代理として「核体制見直し(NPR)」作成に主導的役割を果たしました。さらに、第1次トランプ政権が明確に対中強硬路線に向けて舵を切った2018年国家国防戦略の形成においても中心的役割を果たした1人でもあります。

そんなコルビー氏は、典型的な「ワシントンの外交・安保エスタブリッシュメント」。おじいちゃんのウイリアム・コルビーさんは、ニクソン・フォード両政権の下でCIA長官を務めました。お父さんのジョン・コルビーさんも、キッシンジャー氏の下でNSCスタッフを務めたあと、民間に転出、現在はワシントンで最も有名な大手戦略コンサルティング・投資会社の一つであるカーライル・グループの常務を務めています。でも、このお父さんのジョンさん、ニクソン政権時代のNSCで勤務した経験がある割に、ブルッキングス研究所で評議員などを務めていらっしゃるところを見ると、ご本人は民主党寄りみたいですね。

そんなコルビー氏、日本語を話すわけでもありませんし、いわゆる「ジャパン・ハンド」でもありませんが、お父さんのジョンさんがその昔、日本に駐在していた関係で、実は、とっても「親日家」なんです。でも、「親日家=日本に優しい」というわけでは決してありません。むしろ、日本の安全保障や日米同盟の将来を本気で心配しているからこそ、日本に対しては、「防衛費は今のレベルの増額じゃ足りない」など「愛のムチ」的な論陣を張っています。

そんな彼の主張のベースラインは、「アメリカに必要なのは『機能する同盟(alliance that works)』というもの。なので、基本的には、アメリカの同盟国が自主的に自国の防衛力強化のための方針を打ち出すのは大歓迎。ですが、その姿勢が前のめり過ぎるきらいもあり、特にワシントンの一部の米韓関係ウォッチャーの間では、「韓国の『自前核装備論』を変に勢いづかせてしまうんじゃなかろうか」と少し警戒されていました。まぁ、肝心の韓国が、いまみたいな内政大混乱状態だと、どうなるかわかりませんが・・・

これはつまり、「同盟の重要性」についてはしっかり認識しているものの、「同盟は双務的でなければならない」という信条持っているコルビー氏が、第2次トランプ政権では同盟関係のマネージメントの実質的責任者になるということを意味します。なので、日本との関係でいえば、例えば、現行の防衛装備計画の財源を、増税時期をこれ以上先送りせずに確保することや、現行の計画に続く次の防衛装備計画の中でどの程度の防衛費総額を確保するか、自衛隊の態勢強化に向けて既に打ち出されている政策がちゃんと実施されていない!と彼が思ってしまったら、かなり厳しい姿勢で日本に臨んでくる可能性があるということ。彼が「親日家」であることに甘えることは、おそらく許されないでしょう。

それにしても興味深いのは、国家安全保障担当大統領次席補佐官に任命されたアレックス・ウォン氏といい、政策担当国防次官に指名されたエルブリッジ・コルビー氏といい、第1次トランプ政権に仕えた経験がある若手の2階級、3階級特進的人事が相次いでいることです。で、こういう人事で幹部に指名されている人は、もれなく若い!ウォン氏は今年44歳。コルビー氏も年末でようやく45歳。私の妹より若くて、しみじみしてしまいますし、日本の各省庁の局長級の皆さんより余裕で一回りは若いです。こんなところに、アメリカの政治任用制度のダイナミズムを感じます。

最後になりますが、今年も「デュポンサークル便り」をご愛読いただき、ありがとうございました。私も早いもので、在米生活30年を超えました。「政策コミュニティに身を置く主婦」としての立ち位置からの発信を来年も続けていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員