キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2024年12月12日(木)
[ デュポン・サークル便り ]
先週から今週にかけてのワシントン近郊は、10日間の寒暖差がなんと40℉。先週、気温零下の日が続いたと思ったら、先週末から今週の頭は、上着いらずの天気に。ですがこれを書いている今日は大雨・強風、更に、荒れ模様の天気が通過した後は、一気にまた、零下の毎日に戻るようです。雨が止んだ後、路面が乾く前に冷え込んでしまうと、明日は、スケートリンク状態の道路と格闘しなければなりません。そうならないことを祈りたいものです。。。日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。
感謝祭あたりから、韓国での戒厳令発令、シリアのアサド政権転覆、といったい世界はどうなってしまったんだろうか、という感じの毎日が続いています。どちらも、完全に予想外の出来事だったので、ワシントンでも大きな驚きをもって受け止められています。
特に、韓国の、尹大統領による戒厳令宣言に端を発した政治的混乱に陥ったことは、ワシントンの韓国ウォッチャ―の間ですら予想されていなかった事態。日本と並んで、民主主義という価値を共有するアジアの同盟国として韓国を位置付けていたアメリカには、大きな衝撃となりました。こちらで話したどのアメリカ人も「国内で重要法案可決などの目標がうまく達成できず、尹大統領にフラストレーションがたまっていたのは事実。しかし、だからと言って、戒厳令のような乱暴な手段に出るのは、逆切れに等しい」というのが、総じて私の周りの韓国ウォッチャーの感想です。もちろん、尹政権の後を継ぐ政権が、米韓同盟や日本との関係、あるいは日米間3か国間協力にどのような姿勢で臨んでくるかも、重大な関心を集めています。その一方で「尹大統領が国内ではあまり支持されていないことを知りながら、アメリカの国益に叶う路線を推し進めてくれる大統領だったから、意図的に尹大統領が抱える国内的課題に我々は目を背けてきたのではないか。アメリカ側にも反省の必要がある」と、私に話してくれた元駐韓米大使もいます。いずれにしても、アメリカの対韓政策を支えてきた人たちの想いは複雑なようです。
韓国情勢も衝撃的でしたが、シリア情勢についてはさらに大きなショックが走っています。バイデン大統領の声明にも表れていますが、自国民に対する非人道的な扱いを続けてきた独裁政権であるアサド政権の転覆そのものは、アメリカにとって悪い話ではありません。ですが、問題はそのあと。「シリアが新たなISIS国家になってしまうのでは」という懸念が大きいのです。その懸念を裏付けるかのように、今日既に、アサド政権時代の政府関係者の処刑に関するニュースが出回り始めました。こちらについても、予断を許さないところです。
その一方、アメリカ内政ではトランプ次期大統領により国防長官に指名されたピート・ヘグセス氏の指名承認に日に日に暗雲が立ち込めています。彼の指名については、民主党上院議員が、ヘグセス氏が指名された直後から反対していましたが、その後、同氏の飲酒癖や、女性蔑視発言、過去の女性に対する不適切な行為、さらに金銭問題などがつぎつぎとメディアで報道されるに従い、女性の共和党上院議員の間でも、「ヘグセス氏の国防長官指名をサポートできる段階には至っていない」と公言する議員が出てきました。
このため、最初に女性に対する不適切行為や飲酒癖に関する報道が浮上して以来、ヘグセス氏は連日、上院議員会館参りをして、共和党上院議員と相次いで面談、釈明行脚に追われています。
特に、今回、ヘグセス氏が国防長官として指名されるかどうかのカギを握っていると言われるのは、スーザン・コリンズ上院議員、リサ・マカウスキー上院議員、ジョニ・アーンスト上院議員の3名です。特に、上院軍事委員会の委員であり、自身にも軍歴があり、さらに元夫からの身体的暴力や米軍在籍中に性的嫌がらせを受けた経験があると公言し、議会で軍内の性的嫌がらせや性暴力を防ぐための法案を推進するのに熱心なアーンスト上院議員から支持を取り付けることができるかどうかが、きわめて重要であると言われています。また、軍事委員会を無事通過しても、上院本会議で確実に過半数を取るためには、穏健派のベテラン共和党上院議員であるコリンズ、マカウスキー両上院議員の支持もしっかり取り付けておく必要があります。
ヘグセス氏、これらの議員を連日、議員会館での面談に臨んでいますが、身内のはずの共和党議員の支持を取り付けるのに精いっぱいで、民主党上院議員との面談は、手が回らないのか、そもそも必要性を感じていないのか、未だにアポは一件も入れていない様子。今朝、ローカル局のラジオ番組に生出演した、バージニア州選出のケイン上院議員は、民主党上院議員の中でも年次が上の議員ですが、これまでのところ、次期政権の閣僚として指名された候補者の中で自分のところを訪れたのは、マルコ・ルビオ国務指名長官だけ」と明言しました。ケイン議員は、ルビオ国務長官指名について「外交委員会で一緒に仕事をしていた時から、実直に仕事をしていた。また、彼が国務長官になった暁には、アメリカの中南米政策によるフォーカスが当たると思うので、非常に期待している。彼は問題なく承認されるだろう」と絶賛する一方、「僕は、外交委員会だけじゃなくて、保健衛生委員会と軍事委員会の委員もやってるんだけどね。ヘグセスとかRFKからは何の連絡もないな」と一言。
上下両院で過半数を占めたと言っても、上院でも下院でも、その差は僅か。指名承認には民主党議員からも支持を得る姿勢を見せないとだめだと思うんですけどね・・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員