キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2024年12月2日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
感謝祭を迎えると同時に、一気に冷え込んできたワシントン。あっという間にクリスマス商戦も到来し、いよいよ歳末の慌ただしい季節になりました。日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。
感謝祭の休日中もニュースが続くトランプ政権。なんとトランプ氏は感謝祭の翌日、まだ大部分の人がのんびりお休みを満喫している11月29日に、ケース・ケロッグ退役陸軍中将をウクライナ問題担当特使に任命することを、自身のSNSプラットフォームの「トゥルー・ソーシャル」で発表、かなりの人の週末を台無しにしてくれました。
このケロッグ退役陸軍中将、第1次トランプ政権時に、H・R・マクマスター、ジム・マティス、ジョン・ケリー・・・と「強い軍人大好き」なトランプに仕えていた人がつぎつぎと職を辞して公然とトランプと距離を置く中、唯一、トランプ陣営のインナー・サークルにとどまった人です。80歳という高齢にも拘わらず、大統領選挙期間中、予備選時も含め、トランプ氏に常に同行したと言われており、大統領選直後は彼が国家安全保障担当大統領補佐官の第一候補ではないかとすらささやかれていました。
そんな彼、やはり「私、もう年なので、いくらなんでも24時間は戦えません」とトランプ氏に打ち明けたのかどうかは定かではありませんが、ウクライナ問題に集中できる「大統領特使」という立場を政権内に得たことで、ある意味、省庁横断的な動きができるようになります。見方によっては、「ウクライナ情勢にとって重要」という論理さえ作れれば裁量の余地がかなり広くなるポストです。ケロッグ氏がこんなポストに指名されたことは、翻せば、選挙期間中から「俺が大統領になったら、24時間以内にウクライナとロシアの間で停戦を実現させる」という公約を連呼していたトランプ氏が、実はかなり本気だったことを表しています。
そんなケロッグ退役陸軍大将の主張は、「シンクタンクというより、第二次トランプ政権への移行チームの準備場所」であったことが日に日に明らかになる米国第一政策研究所(America First Policy Institute, AFPI)(ケロッグ氏も研究所のメンバーとして名を連ねていました)のウェブサイトに2024年4月に掲載された論文「America First, Russia & Ukraine」(https://americafirstpolicy.com/issues/america-first-russia-ukraine)を読むと明解です。すなわち、
というもの。ただ、停戦合意の要素としては
などとしており、見方によっては戦闘が停止され、停戦に向けた交渉が始まるのであれば、ロシアがウクライナの領土一部を占領したままの「現状固定化」を容認するとも解釈できる主張であるため、懸念を呼んでいます。
この他にも、既に、カナダ・メキシコ・中国からの輸入品については追加関税を10%課すということを既に発表、ここ1,2日に至っては、ブラジル、ロシア、インド、中国及び南アフリカを主軸にするいわゆるBRICS諸国に対しては「独自通貨を設定したら、100%課税だ!」とぶち上げるなど、選挙公約を本気で実現する気らしいことが明らかなメッセージが相次ぐトランプ氏。2025年が波乱の年明けになることが既に予想されています。
そんなトランプ氏の動きを見て「今のうちに停戦しておかないと、来年以降、何されるかわからないから、ここら辺で手を打とう」という判断が働いたのでしょうか。中東ではイスラエルとレバノンのヒズボラの間で停戦合意が成立したことが発表されました。これも逆説的な「トランプ効果」と言えるのでしょうか。。。。
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員