キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2024年11月25日(月)
[ デュポン・サークル便り ]
今日のワシントンは晩秋を思わせる寒さ。先週末はなんと!DC近郊でも小雪がチラつきました。日本の皆様、いかがお過ごしでしょうか。
11月18日付の「デュポンサークル便り」で、第二次トランプ政権幹部人事がものすごいスピードで進んでいるとお伝えしましたが、政権が発足するまで2か月もあるというのに、早くも人事をめぐって「トランプ劇場」が全開しています。
外交政策とは無関係なので、日本では国務長官や国防長官の人事ほど関心を集めていないと思いますが、実は、ワシントンで一番、物議を醸していた人事は、マット・ゲイツ前下院議員の司法長官の指名と、ロバート・F・ケネディ・ジュニア氏の保健衛生長官の指名でした。このお二人、どちらもお騒がせな方々です。が、この二人の「お騒がせ」度は、かなり質が違います。
ケネディ氏の「お騒がせ」度は、「健康原理主義」とでもいえるような主張をしている程度。具体的には、予防接種の効果に懐疑的だとか、水道水に入れているフッ素(歯磨き粉にも入っており、虫歯を予防する効果があると言われているため、貧困家庭でもなんとなく虫歯予防ができるように、ということで、全米の多くの州で、一般家庭で使用される水道水にはフッ素が入っています)は健康に悪いから一切、除去すべきだとか、近年の児童肥満の増加の理由は、お母さんがちゃんと手料理を作らず、子供たちができあいのものばかり食べているから(←これは実は、共鳴する人が多い論点です)だ、など、ちょっと極端な主張だとは思いますが、他人に害は与えていません。
ですが、ゲイツ前議員の「お騒がせ」度は話が別。彼は、数年前に、当時未成年だった女性とパーティーで不適切な関係を持った、同じパーティで違法ドラッグを使用していた・・・などの疑惑で、下院倫理委員会の調査を受けており、司法長官への指名が発表されたのは、倫理委員会による調査報告書が公開される直前でした。ゲイツ元下院議員は、「閣僚ポストに指名された」ことを理由に、報告書が公開される前に下院議員を辞職。ですが、閣僚の指名承認にむけた公聴会を開催する上院司法委員会の民主、共和両党の上院議員から、「一般公開をするかどうかはともかく、上院司法委員会に対しては下院倫理委員会の調査報告書の内容をリリースするべき」という声が一斉に上がったのです。このため、下院倫理委員会の中では、ゲイツ前下院議員に対する疑惑に関する調査報告書をどのように取り扱うか、などをめぐり、大激論。ゲイツ前議員本人も、上院司法委員会委員の共和党上院議員と個別面談をして「チャンスをくれ!」と訴えたようですが、承認される目途が立たず、結局、指名は辞退し、11月22日にパム・ボンディ元フロリダ州司法長官が新たに指名されました。
これだけではありません。国防長官に指名されたピート・ヘグセック氏も大炎上中。指名された当初から、女性が戦闘に直接関係する職種に就くことに疑義を呈している(実際の米軍は、既に女性の爆撃機や戦闘機のパイロットなど、戦闘職種バリバリの士官や兵士が既に任務に就いており、彼の発言のはるか先を進んでいることはよく知られています)などに代表される彼の知見が問題になりました。また、大した軍歴もなく、官民問わず大組織を指揮した経験もない彼が、「世界最強の米軍」を統率できるのか?といった、本人の資質そのものも疑問視されていたました。更に、2017年に女性に性的暴行を働いた、のではないかという疑惑まで浮上。被害を届け出た女性との間で既に示談が成立したようではありますが、こちらも指名承認への道のりは険しそうです。
政権発足までまだ2か月もあるというのに、さっそく、閣僚人事で躓いている感じがするトランプ陣営ですが、「経験・知見度外視」「トランプに忠実」の共通項は変わりません。これからさらに、お騒がせ人事が増えるのでしょうか・・・・
辰巳 由紀 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員