外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年11月18日(月)

デュポン・サークル便り(11月18日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは先週から、めっきり冷え込んできました。年間降雨量が平均をはるかに下回る中、先週末は久しぶりの雨模様。おかげで通勤ラッシュはぐちゃぐちゃでしたが、自分の庭にお花を植えている人や、家庭菜園にいそしんでいる人にとっては、まさに「恵みの雨」。日本も急に冷え込んできたと聞いていますが。みなさんはいかがお過ごしでしょうか。

アメリカでは11月5日大統領選挙後、トランプ前大統領が次期大統領になることが確定した時から、とにかく、ものすごいスピードで次期政権の幹部人事が始まりました。本人ですら勝つと思っていなかった2016年と違って、今回は、トランプ陣営が選挙での勝利を視野に入れて着々と準備していたことが分かります。

大統領選挙からまた10日しか経っていないのに、政権移行チームが発足した直後から、大統領首席補佐官を皮切りに、国家安全保障担当大統領補佐官、国連大使、国務長官、国防長官、国土安全保障長官、国家情報官、CIA長官、駐イスラエル米大使、司法長官、保健福祉長官、エネルギー長官・・・と着々と閣僚人事を進めています。また、選挙前は「いくらなんでも、そこまでしないんじゃ・・・」と言われていた政策公約実現を目指した人事も確実に固めています。例えば、「不法移民の大量強制送還」を目指して不法移民対策問題をホワイトハウスから総括する立場になる、いわゆる「国境問題帝王(Border czar)」にトランプ前政権時に国土安全保障省で移民・関税執行局(ICE)長だったトム・ホーマン氏を指名。「連邦政府の大規模改革」ではヴィヴェック・ラムスワミー氏とテスラやスペースX社の創業者であるイーロン・マスク氏を新設される予定の「連邦政府の効率化諮問委員会(トランプ自身はこの組織を「省」と呼んでいますが、実際は大統領諮問委員会に近い)」の共同議長に任命。

ここまで発表されている人事の全てに共通するキーワードは2つ。「経験度外視」「トランプに忠実」の2つです。また、幹部人事発表の順番を見ると、不法移民対策や、連邦政府再編などの国内問題が外交・安全保障問題より優先度が高そうであること、また外交・安全保障問題の中では中東問題が当面の最優先課題になりそうなこと、が窺えます。

お騒がせ人事を連発しているトランプ政権移行チームですが、1つだけトランプ支持者からもトランプが嫌いな人からも絶賛されていることがあります。それは大統領首席補佐官人事。前政権ではH・R・マクマスター退役陸軍中将やジョン・ケリー退役海兵隊大将など、退役軍人が任命される傾向になったこのポストに、トランプ陣営の選挙運動の要としての役割を果たしたと言われるスージー・ワイルズ氏を任命したのです。

このワイルズさん、趣味は自宅でのお菓子作り、人前に出ることが大嫌い・・・とトランプ次期大統領とは真逆のキャラ。また、「支持」と「反対」が真っ二つに分かれるトランプ次期大統領とは対照的に、民主、共和両党の議員や関係者から好かれているという点でも真逆。見た目も、トランプより10歳以上若いとはとても思えない、小太りで人の好さそうな「おばあちゃん」的雰囲気で、「大統領首席補佐官」というよりも「スージーのお菓子」みたいな冠料理番組持っていそうな感じの女性です。過去にはミット・ロムニーを始め、「アンチ・トランプ」の政治家の選挙運動を仕切っていた経験も豊富で、自分への忠誠心を重視するトランプ次期大統領が、大事なポジションにはおよそ起用しそうもないタイプです。

いろんな意味でトランプらしからぬ人事なわけですが、これは裏を返せば、トランプがそれだけ彼女の手腕を買っているということ。それもそのはず、彼女の号令の下に、「どう考えても無理そうな無党派層の支持を取り付ける努力は止める。その代わり、これまであまり政治に参加していない、保守的な有権者を取り込むことで、岩盤支持層の裾野を広げる」という選挙戦略を最初から最後まで貫き、最終的に激戦州全7州をトランプが制覇し、上下両院も共和党が多数党になる「トリプル・レッド」という結果をもたらしたからです。

色々な意味で意外な人事を着々と進めるトランプ次期大統領ですが、11月13日(水)には、ホワイトハウスでバイデン大統領とも会談。自分が敗けた時には引き継ぎ会談のオファーなんてしなかったトランプ次期大統領ですが、この日は満面の笑顔。「選挙の最中はお互いに対してかなりひどいことも言い合ったりするもの。今日はその日ではない」と終始、にこやかにバイデン大統領と会談していました。まぁ、自分が勝ったからだと思いますが・・・・・

来年1月の政権発足に向けて着々と準備を進めるトランプ大統領とは対照的に、退任まで約2か月となったバイデン大統領は、着々と店じまいの準備。来週にかけて、おそらく大統領として最後の外遊になるAPEC首脳会議に出席しますが、そこでは米中首脳会談や日米首脳会談が行われる予定です。

だんだん、ワシントンの住人にとってはソワソワする季節となりました。。。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員