外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年8月6日(火)

デュポン・サークル便り(8月6日)

[ デュポン・サークル便り ]


この1週間のワシントンは、とにかく暑い!連日気温は90℉を超え、湿気もMAXのため体感温度は連日100℉(約38℃)を超えています。プールに行っても、油断してプールサイドを裸足で歩いてしまおうものなら、コンクリートで足の裏をやけどしかねません。日本の皆さんも、暑い毎日をお過ごしと思いますが、お元気でしょうか。

バイデン大統領が再選運動を辞め、今年の大統領選から撤退することを決めたことで、俄然、面白くなってきたアメリカの大統領選挙。「ようやく(バイデン大統領が)自分から辞めるっていってくれた」という安堵感も手伝い、ハリス副大統領があれよあれよという間に党内の支持を固め、8月19日からエマニュエル駐日米大使が愛してやまない、彼の地元の「シカゴ」で開催される党大会でのハリス大統領候補正式指名に向けて着々と準備が進んでいます。党大会に先駆けて行われた、選挙代理人によるバーチャル投票で、ハリス副大統領が新しく民主党大統領候補になることが8月3日(金)に確定しました。

というわけで現在の焦点は、ハリス副大統領が自身の副大統領候補に誰を選ぶのかです。

その副大統領候補ですが、2008年にオバマ氏が当時ベテラン上院議員だったバイデン氏を副大統領候補に選び、2020年にバイデン氏が自分にはない「若さ」と「女性」であり「有色人種」であるハリス上院議員(当時)を副大統領候補に選んだように、ハリス副大統領も彼女と相互補完性のある人物を選ぶ可能性が大きいと言われています。そんな中最後まで選考に残っているといわれているのがプリツカ・イリノイ州知事(白人男性)、シャピロ・ペンシルベニア州知事(白人男性)、ウォルツ・ミネソタ州知事(白人男性)の3名です。

特に、ウォルツ・ミネソタ州知事は、トランプ前大統領やバンス副大統領候補が往々にして不規則発言をすることを称して「変なの(weird)」と表現。さらに「彼らの発言の真意をくみ取ろうと、みんな必死になりすぎだよ。だいたい、彼らの言ってることは、単に、『変な政治家が何か言ってる』で片付ければいいんだよ」と独自のトランプ批判を展開。いまでは、この「weird」という言葉が、トランプ前大統領・バンス上院議員の組み合わせの共和党大統領・副大統領候補のチケットを形容する一言としてすっかり定着した感があります。

加えて、最近、話題を集めているのが、民主党側の大統領選挙戦の「秘密兵器」。そうです、2020年大統領選挙予備選で一躍、「時の人」となったピート・ブティジェッチ運輸長官です。「ピート市長(Mayor Pete)」として知られていた彼をひそかに応援していた私が、ミーハー根性が抑えきれずつい、岸田総理が訪米された際に国務省で開かれた昼食会の会場で見かけた彼に声をかけてしまったエピソードは数週間前にご紹介しましたが、この「ピート市長」、最近、FOXニュースなど、共和党寄りのメディアに進んで出演、そこで共和党寄りのアンカーとガチに論戦して、なんと、共和党支持者しかいないと思われる聴衆からスタンディング・オベーションを受け、それを苦々しい顔でFOXニュースのアンカーが見守る様子を放映したビデオが拡散、ちょっとした話題になっているのです。

そもそもブティジェッチ運輸長官のFOXニュースとのご縁は2020年大統領予備選までさかのぼります。当時、予備選に出馬した彼は全く無名。そのため、とにかく、出演させてくれるメディアに片っ端から出演して知名度を上げる、という作戦をとっていました。多くのメディアが彼のような弱小候補には見向きもしない中、声をかけてくれたFOXニュース他保守系のニュースに、完全なアウェーであるにも拘わらず果敢に出演していた経緯があるのです。もともと大学時代に全米で1,2を争うディベータ―だった彼。保守系メディアのアンカーが浴びせる意地悪な質問に動じるどころか、穏やかな口調で立て板に水のごとく反論、質問したアンカーが、二の句が継げなくなり絶句する状態が相次ぎました。

そんな彼は、今年の大統領選挙では、すっかり「保守系メディア担当」になった感があります。FOXニュースのインタビュー番組に積極的に出演、しかも舌好調。「第2期トランプ政権がどのような政策を取るかは、前回大統領だった時に、トランプ大統領がどの選挙公約をかろうじて守ったのかを見れば、一目瞭然」「とにかく、トランプ前大統領も、バンス副大統領候補も、変なことばかり言っているなと思いますね」、さらにバンス副大統領については「彼は、本当はエリートな自分の経歴をごまかすために、自分の出自を利用しているだけ」など、鋭いコメントを連発。アンカーがフォローアップの質問をしたくてもできない勢いで話し続け、インタビューがすっかり彼のペースになっている様子が、ユーチューブで大人気になっています。

そんな中、トランプ前大統領陣営側にも変化が。なんと、9月10日に予定されていたABCニュース主催の第2回大統領候補討論会への参加を見送る、という声明を発表。トランプ陣営は「バイデン大統領との討論に合意したのであって、候補者が差し替えられた今、このコミットメントを遵守する義務はない」と苦しい言い逃れをしていますが、あっという間に民主党内で支持を取り付けたハリス副大統領を攻めあぐねているのは明らか。民主党は、すかさず「トランプ前大統領が討論会に出席しないのは、(ハリス)副大統領が、彼にとって選挙戦上の最大のネックになったからだ」「トランプ大統領は、ハリス副大統領との討論会を避けている」など、コテンパンに共和党を批判、ハリス自身も「9月10日の討論会に、トランプ前大統領が来ても来なくても、私は出席します」と宣言。はてさて、どうなることやら。

しかし、6月27日の大統領候補者討論会から1か月半もしないうちに、大統領選挙の力学は大きく変化。その口火を民主党で切ったのは、メディアとのインタビューに答えて「バイデン大統領は、自分の進退について自分で判断することが許されてしかるべきだと思う」という極めて間接的な表現でバイデン大統領に撤退を促し、党内の「バイデン降ろし」の口火をきったナンシー・ペロシ元下院議長。すっかり「ゴッドマザー」いえいえ、「ラスボス」の貫録を漂わせていますね。。。。

「トランプvsハリス」対決が実際に行われるかどうかも含め、まだまだアメリカ内政の混乱は続きそうです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員