外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年7月22日(月)

デュポン・サークル便り(7月22日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントン近郊は、先週後半の夕立のあと、少しだけ過ごしやすい日が続きましたが、今日は、また蒸し暑さが戻ってきました。ですが、来週は、ウィークデーはずっと、午後になるとにわか雨の予想、と不安定なお天気が少し続きそうです。日本は猛暑が続いているようですが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

さて、7月13日(土)のトランプ前大統領暗殺未遂事件を皮切りに、15~18日まで盛り上がりに盛り上がった共和党党大会が終わったばかりだと思ったら、今日、これを書いている21日(日)にようやくバイデン大統領が「大統領選撤退宣言」をしました。

遡れば、6月27日のトランプ前大統領との討論会で大コケしてからというもの、民主党の中では「本当にバイデンで、選挙を戦えるのか」という声が表面化し始めました。特に、2年に一度、全ての議席が改選される下院では、バイデン大統領が「選挙の顔」では、大統領選でバイデン大統領が敗けるだけではなく、バイデン大統領と道連れで落選する民主党議員が出かねません。これまでは僅差の議席数だったことで、種々の議案でジョンソン下院議長以下共和党に妥協を強いてきた下院で共和党が大勝するリスクや、上院でも共和党に多数党の座を奪還されるリスクが、かなりの本気度で懸念され始めたからです。その懸念は、民主党の大口献金者の間でも共有されていたようで、人気俳優ジョージ・クルーニーさんがニューヨーク・タイムズ紙に、バイデン大統領に「名誉ある撤退」を促す論説を寄稿したことや、この論説が寄稿されるという連絡が事前に入っていたにも拘わらず、オバマ元大統領が、クルーニーさんの論考の掲載を黙認したこと、などは日本でも話題になったと思います。

さらに民主党の危機感をあおったと思われるのが、前述の共和党党大会だったでしょう。当初は泡沫候補に過ぎないとみなされていたトランプ前大統領があれよあれよという間に予備選で勝利、トランプ前大統領とは絶対に与したくない共和党有力者の多くが出席を見送ったこともあり、ネガティブな雰囲気が充満していた2016年の共和党党大会や、トランプ氏が周囲の制止に耳を貸さず再選を目指して出馬を決めたため、完全に「身内受け」で終わった感の強かった2020年の共和党大会とは雲泥の差。会場を見渡しても、「トランプ支持=白人」というイメージとはずいぶん違って、黒人やヒスパニック、アジア系の出席者がかなりの数見受けられました。

7月13日の暗殺未遂事件が一気に党内融和を目指す動きにつながったこともあり、党大会でも、最後の最後までトランプ前大統領に対抗して予備選を戦っていたニッキー・ヘイリー元国連大使を始め、予備選でトランプ前大統領を批判しまくっていた他の候補者のほとんど全員が、応援演説をしました。会場に姿を見せなかった大物はマイク・ペンス前副大統領ぐらいだったのでは。しかも、演説を通じて

  • 常識的な言動が許される社会を取り戻そう、
  • 極左リベラルが子供たちに、『アメリカは人種差別的な国だ』といったネガティブな教育を刷り込むのを止めよう、
  • 真面目に働く普通の人たちが、安定した暮らしを送り、家が帰るぐらいの余裕を持てる社会を取り戻そう

といった、無党派層でも共感できるようなメッセージがちりばめられてしました。また移民問題でも、「合法的な移民の皆さんは、アメリカ社会を豊かにしてくれる大切な仲間。共和党が問題視するのは不法移民」という立場を前面に押し出し、誰の目から見ても、伝統的な民主党支持層である移民やマイノリティ、教育問題に関心が強い知識層などの票も取りに行っているのが明らかだったからです。

共和党大会が近年にない盛り上がりを見せている最中にコロナに罹ってしまい、自宅隔離を余儀なくされてしまったバイデン大統領。地元でゆっくり静養している間にいろいろ考えることがあったのでしょうか。あるいは、各種世論調査の結果をようやく直視したのでしょうか。21日にようやく撤退を決めたことは冒頭述べた通りです。

ですが、「バイデン大統領撤退」=「ハリス副大統領への禅譲」と自動的に行かないのが、アメリカ政治の複雑さ。なんといっても、バイデン大統領は「予備選で勝利→みなし大統領候補」というプロセスをきちんと通っていますが、ハリス副大統領は、選挙戦の立場上は「おまけ」のような存在。たとえ民主党の重鎮議員やクリントン元大統領夫妻、オバマ元大統領夫妻といった名だたる人々が明日、全員揃って「ハリス支持」を公式に発表したとしても、彼女が正式に大統領候補になるためには、1か月弱後に迫る民主党党大会で大統領候補に指名される必要があり、そのためには選挙人の過半数が「ハリス支持」を表明する必要があるのです。

しかも、本人が大統領候補になるに際して、副大統領候補も指名しなくてはなりません。このため、ハリス副大統領の身辺は、にわかに騒がしくなっていると言われます。

いやはや、「オクトーバー・サプライズ」どころか「サマー・サプライズ」。一体、これから今年の大統領選挙、どのように展開していくのでしょうか。。。。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員