外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年7月8日(月)

デュポン・サークル便り(7月8日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンは一度熱波をやり過ごしたと思ったら、再び独立記念日の休日直後から熱波に襲われています。しかも、通常、これだけ気温が上がると、夕方は雷雨に見舞われるのが「ワシントン近郊の夏あるある」のパターンなのですが、今年に限って言えば、雨がびっくりするほど降りません。このままいけば、カリフォルニア州を彷彿とさせる節水令が州政府から出されてもおかしくない状態です。日本では、七夕の日に行われた東京都知事選で小池百合子知事が3選を決めましたが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

先週の6月27日に行われたバイデン大統領VSトランプ前大統領の「後期高齢者老人ガチンコ対決」第1回戦となった初回の大統領候補討論会で、バイデン大統領のパフォーマンスが、見ている方が辛くなるぐらい惨憺たる出来だったのは、先週、お伝えしたばかりですが、それを受けた民主党内の大混乱は、まだまだ続きます。

というのも、6月27日の大統領候補討論会でのバイデン大統領の惨憺たるパフォーマンスをなんとか挽回すべく、バイデン陣営がABCニュースの最も著名なアンカーマンの一人であるジョージ・ステファノポロスの単独インタビューの申し込みを受ける、と発表。ステファノポロス氏は、今でこそABCニュースの「日曜日の朝の顔」として定着していますが、第1次クリントン政権期(1993~1996年)には、30才そこそこの若さでホワイトハウス入り、今や日本で「乗り鉄大使」として地方都市に出かけまくっているラーム・エマニュエル駐日大使の後任(彼も、当時は若干、30代半ばでした・・・・若い!!)の「政策・戦略担当大統領上級アドバイザー」を務めた人です。バイデン陣営としては、彼のようなバイデン大統領と昔からの知己で、民主党に優しいことが期待できる報道関係者と1対1のインタビューを行うことで、バイデン大統領があと4年、大統領職を問題なく遂行できる人物であることを証明したい!という狙いがあったに違いありません。

ところが、実際のインタビューは、そのようなバイデン陣営の期待とはかけ離れたものになってしまいました。インタビュー収録時のバイデン大統領は、「先日のディベートの出来が散々だった責任は、他のだれでもない、私にある」と討論会でのパフォーマンスの悪さは率直に認めたものの、「大統領職をあと4年間、滞りなく遂行する能力があることを証明するために、認知能力のテストなどを受けるつもりはありますか」と詰め寄るステファノポロス氏に対して「私は、大統領として今、既に毎日、認知能力のテストを受けている」と述べ、その他は、自分が政治家としていかに様々なハンデを乗り越えてきたか、この3年半、どのような政策で成果を上げたか、など、一言で言えば「後ろ向きの話」に終始。大統領として職務を遂行する能力に影響はない、大統領選撤退なんてあり得ない、の一点張り。かといって、インタビューの出来が、ディベートと比べて段違いによかったのか、と言われれば、確かにディベートの時と比べれば声にも張りがありいくぶん「マシ」ではありましたが、「年齢不安説」「まだらボケ疑惑」を一掃するにはほど遠いパフォーマンスだったのです。

大統領候補討論会以降、パニック状態が続いていた民主党内も、ここにきてようやく「バイデンおろし」の動きが少しずつ出てきました。既に民主党下院議員の数名が、公けに「バイデン大統領は身を引くべきだ」と発言。表向きの発言を控えているハキーム・ジェフリーズ民主党下院院内総務も、7月7日には、休暇中の民主党下院議員と電話で協議したとが報じられました。また、上院でも、チャック・シューマー民主党上院院内総務は沈黙を保っているものの、マーク・ワーナー上院議員が、バイデン大統領との直接対話を求めるべく、民主党上院議員の間で「大統領選挙の今後」について話し合うべく場を設けようとしている、といったニュースも伝わってきています。

このように上下両院の民主党議員の間で動揺が走っていることを窺わせるニュースが続いていますが、当のバイデン大統領はどこ吹く風。この週末はウィスコンシン州やペンシルベニア州などの、いわゆる「激戦州」をくまなく回り、活発な選挙活動を続けています。

ですが、民主党内の「バイデンおろし」の動きは収まる気配を見せません。それどころか、7月7日には、オバマ元大統領の側近の一人であるデービッド・アクセルロッド氏が、CNNに出演、大統領候補討論会とABCニュースのインタビューを受けて「バイデン大統領は、米国民の本質的な懸念を理解していない」「バイデン大統領は、政治家としてのこれまでの人生で、いくどとなく身内の死を含む、数々の苦難を乗り越えてきた。だから討論会のパフォーマンスが悪かったことも、これまでのような『乗り越えられる壁』と受け止めているのだろう。だが、大統領は「加齢」という誰も逆らうことができない時の流れが最大の課題であることを理解していないようだ」と述べ、「彼が本当にこの秋の選挙でトランプ前大統領を破り、アメリカの民主主義を救いたいのであれば、今一度、彼自身の身の振り方について考える必要がある」などと発言、バイデン大統領に、大統領選撤退を促すような発言をしたほどです。一部メディアでは、早くもフライング気味に「ハリス副大統領が大統領候補になった場合、誰が副大統領候補として有力か?」という観測記事を掲載するところも出てきました。

バイデン大統領にとっては今週から来週にかけてが、自らの政治生命を決めるヤマ場になるという見方が大。「名誉ある撤退」を選ぶのか、石にかじりついてでも大統領選を継続し、トランプ前大統領に惨敗するリスクを負うのか・・・民主党にとっては「ポスト・オバマ」時代を占うことにもなる1~2週間となりそうです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員