外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年5月7日(火)

デュポン・サークル便り(4月26日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週のワシントンは、肌寒い日が続き、夕方になるとセーターが必要?と思ってしまうぐらい冷え込んだ日もありました。が!4月23~25日の3日間は、地元プロ野球チームのナショナルズとの3連戦のためドジャーズが来訪、大谷選手がワシントンに現れました。というわけで、例年より肌寒いお天気もなんのその、この3日間は、ワシントン近郊在住の日本人がワシントンDCに大集合。スタンドは、ナショナルズ、ドジャーズ、それぞれのチームの固定ファンよりも、大谷選手を応援する人の方がはるかに多く、大変な盛り上がりを見せました。ですが、今週は打って変わって、一足早く真夏が到来したかのようなお天気です。日本の皆様は、いかがお過ごしでしょうか。

今週もアメリカ内政は話題がてんこ盛り。中でも、トランプ前大統領が愛人に対する口止め料の支払いに関連して不正会計処理をしていた疑いをめぐる刑事裁判が公判入りしたことで、文字どおり「トランプ劇場」が、連日、メディアでは展開中。どのメディアもオンライン版にいくと、裁判の進行状況を文字通り、分刻みでアップデートしています。週4日間、被告人としてこのニューヨークの法廷に出廷しなければいけないトランプ前大統領は、当然、選挙運動が非常にやりにくくなってしまったため、超アンハッピー。ですが、どうしようもありません。毎日、不満そうな表情で法廷入りするトランプ前大統領の姿がテレビでは放映されています。

しかも、先週は、連邦最高裁判所でも、トランプ前大統領の「大統領任期中、公務(official act)として取られた行為については100%免責」という申し立てについて審議入り。3時間続いた審議の中で、バイデン大統領により指名され、黒人女性として初めて最高裁判事の仲間入りをしたカタンジ・ブラウン・ジャクソン判事やオバマ政権時代に最高裁判事に加わったエレーナ・ケーガン判事の「『公務』の定義は何ぞや」という問題意識に基づいた質問を発端に、最高裁の場で「政敵の暗殺は『公務』か?」「大統領が軍を使ってクーデターを企てることは『公務』とみなされるか?」など、あまりにシュールな議論が展開されました。

また、先週ぐらいから、全米各地の大学キャンパスで、イスラエル・ハマス紛争により、パレスチナ民間人の犠牲者が増え続けていることについて、大学に在籍するアラブ系学生に対するメンタルケアなどの支援の拡充や、紛争そのものの即時停戦などを求める学生による抗議活動が激化。構内にテントを張って、24時間体制で抗議活動に出る学生が出始めました。このため、今週に入り、コロンビア大学やコーネル大学をはじめ、構内にキャンプして抗議活動を続けようとする学生に対して、大学当局がキャンパスの敷地内から別の場所に抗議活動の場所を移すように提案し、その提案を無視して構内で抗議活動を続けようとする学生に対しては、停学処分の手続きを開始する大学が出始めました。ですが、この大学からの処分通達に学生がひるむ気配は全くなく、今後の展開がどうなるのか、全く予測がつきません。しかもとうとう4月30日未明に、コロンビア大学でテントを張って抗議活動をしていた学生が暴徒化。ベトナム戦争時にも学生が反戦運動を展開した校舎になだれ込み、内側からバリケードをはって立てこもる事態に発展しています。

このように、中東情勢がアメリカ国内に飛び火し、ベトナム戦争時の反戦活動をほうふつとさせる映像がメディアで流れる中、先週末は、バイデン大統領にとってあまりありがたくないニュースが飛び込んできました。4月26日付のオンライン記事で世論調査を専門とするギャロップ社が報じたところによれば、なんと、任期4年目の第1四半期終了時点の支持率を歴代大統領と比較すると、バイデン大統領に対する支持率が際立って低いのだそうです。この記事によると、バイデン大統領の支持率は4月末時点でわずか38.7%。トランプ前大統領の支持率について2020年に行われた与論調査の結果と比較しても、トランプ前政権への支持率を10%近く下回るものです。

しかも、国内を見ても、一時期落ち着きを取り戻していたガソリン価格が再び上昇を始め、インフレも鎮静化の兆しが見えないなど、厳しい状況が続くバイデン政権。そんな中、先月の岸田総理の公式訪米は、バイデン政権にとって数少ない明るいニュースだったことを考えると、アメリカ側の歓待ぶりも、納得です。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員