外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年1月22日(月)

デュポン・サークルだより(1月22日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週のワシントン近郊は雪に悩まされました。まず、週明けの15日、マーティン・ルーサー・キング・デーという休日に初雪が・・・。降った雪そのものはフワフワとした、スキーに最適な軽い雪だったのですが、何しろ、降雪前の数日、零下の気温が続いていたため、またたくまに路面は凍結。休日明けの16日は近郊の学校だけではなく連邦政府や州・自治体政府も全面閉鎖。さらにとどめを刺すように、19日の金曜日も一日、雪。今週、学校は実質1日半しか空いておらず、子供たちは狂喜乱舞ですが、親はリモート勤務すらやっとの状況が続きました。日本も寒い日が続いているようですが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

アメリカ政治ウォッチャーの皆さん、お待たせしました。1月15日、アイオワ州で行われた党員集会を皮切りに、2024年大統領選挙がいよいよ、本格始動いたしました。

党員集会前から圧倒的優勢が伝えられていたトランプ前大統領でしたが、全米複数の州をまたいで刑事・民事訴訟を戦う傍ら、コロラド州、メーン州などで、そもそも、トランプ前大統領の名前を投票用紙に乗せることを認めるのかどうかをめぐり、法廷バトルも継続中です。そんなトランプ前大統領に、最近、各種世論調査で勢いを増していることが伝えられていたニッキー・ヘイリー元国連大使と、アイオワ州党員集会で2位をとれなければ、事実上、大統領選撤退を余儀なくされるだろうと言われていたロン・デサントス・フロリダ州知事がどの程度迫ることができるかが注目されていました。

結果は、トランプ前大統領が約51%の票を集めトップ。デサントス知事は、21%強の票をなんとかかき集めて2位に、ヘイリー元国連大使は約19%の票を集めて3位となりました。また、アイオワ州党員集会終了後、ヴィヴェック・ラミスワニー氏とエイサ・ハッチンソン前アーカンソー州知事が大統領選からの撤退を正式に表明。共和党側の大統領選挙は「トランプvs デサントスvs ヘイリー」で当面、進むことになります、と書いたところへ、何と「デサントス、大統領選から撤退」というビッグニュースが飛び込んできました。デサントス知事は撤退し、トランプ支持を表明しましたが、これが共和党内の反トランプ勢力の終結に繋がるのかどうかも、今後気になるところです。デサントス不出馬の影響については次回書くことにして、今回は現時点までの流れと見立てを書くことにします。

アイオワ州党員集会の結果を受けて、トランプ前大統領は完全に「俺様が本選候補者」モードに。確かに、数字だけ見れば、一人で51%の票を集めたトランプ前大統領が「圧勝」したように見えます。ですが、「トランプvs トランプ以外の候補」という視点でみると、2,3位にそれぞれ入ったデサントス知事とヘイリー元国連大使に投票した人だけ合わせても40%がトランプ前大統領以外の候補に入れているわけで、この結果を以って「圧勝」というかどうかはやや、メディアが先走ってイメージ操作し過ぎな気もします。

ともあれ、次の焦点は、1月23日のニューハンプシャー州予備選になります。この州の予備選がユニークなのは、共和党員として登録していない人も予備選で投票できる点。このため、州内で人気のあるスヌヌ州知事の支持を既に獲得し、無党派層にもアピール力があると言われるヘイリー国連大使が、既に大統領選からの撤退を表明したクリス・クリスティー元ニュージャージー州知事の支持層を囲い込むことができれば、トランプ前大統領にどうかすると僅差で勝つ可能性もあるのでは、とも言われています。既に、1月9日には、ニューハンプシャー州立大学が実施した世論調査で、ヘイリー元国連大使がトランプ前大統領を支持率で6ポイント差まで追い上げており、クリスティー元知事の支持層(12%)を丸ごとヘイリー元大使が持っていくことができれば、ニューハンプシャー州で勝てることを示す結果が出たことを、CNNが報じています。

このような状況を意識してか、ヘイリー元国連大使は、自分がデサントス知事の後塵を拝して3位に終わったアイオワ州党員集会の結果を受けて「共和党予備選は2人の戦いに(←「トランプVSヘイリー」)なることをアイオワ州の結果がしめしてくれました!」と強気の発言(実際にそうなりつつありますが・・・)。しかも、「トランプ前大統領が出席しない討論会には出ない」宣言も行いました。ヘイリー元国連大使が「トランプ前大統領とガチンコ対決できるのは私だけ」というアピールをし始めた証左として受け止められています。

ニューハンプシャー州での支持率が一桁台だったデサントス知事は、ニューハンプシャー州予備選の次の大きな目玉として注目されるサウスカロライナ州予備選に目を向けていました。方や、アイオワ州党員集会後に大統領選からの撤退を表明したラムスワミー候補は、早々とトランプ前大統領支持を表明、ニューハンプシャー州でもトランプ前大統領の応援演説にいそしんでおり、早くも「副大統領候補狙いか?」という憶測を呼んでいます。

民主党側では、いつまでも支持率が上がらないバイデン大統領が、機会を捉えては接戦州を訪れ、ファミレスや地元のアイスクリーム屋などを訪れる典型的なドブ板選挙をしている様子が頻繁に報じられるようになりました。既に80才の大台に乗ったバイデン大統領、ヨーロッパと中東の2カ所でそれぞれの地域の将来をかけた戦争が続く中、ドブ板選挙活動をするのも楽ではありません。しかも、ここにきてもハリス副大統領の存在感は、悲しくなるほどゼロ。共和党大統領候補が誰になっても、民主党は厳しい戦いになることはほぼ確実です。

どんどん、これから大統領選挙をめぐる動きが加速化していきますので、当面、約週1回の頻度にこだわらず、どんどん状況をお伝えしていこうと思います。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員