外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2024年1月9日(火)

デュポン・サークルだより(1月5日)

[ デュポン・サークル便り ]


新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願い申し上げます。新年早々、能登半島地震、羽田空港における日航機と海上保安庁プロペラ機の衝突事故など、胸が痛む出来事が続いていますが、日本の皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

日本の年明けには、とても「あけましておめでとうございます」と言える感じではない出来事が続いていますが、こちらアメリカでも、日本が直面している状況とはくらべものになりませんが、それでも物騒な年明けとなりました。まず、元旦早々、ワシントンDC市内で殺人事件が発生。また、全米でクリスマス・年末年始休暇明けとなり、学生が学校に戻り始めた今日、アイオワ州の学校で発砲事件が発生、死者を含め2桁の死傷者が出たことが、アメリカのトップニュースを飾りました。

しかも、今日(1月4日)、ワシントン・ポスト紙が発表した世論調査では、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件はFBIによる謀略だったと考える人が、事件が発生した当初より増えている、という驚きの結果が。つまり、事件発生当初よりも、あの事件が「でっちあげ」だったと思うに至った人が増えているということ。

ここまでくると、もはやアメリカの有権者の民度を疑うレベルですが、それでも11月の大統領選挙に向けて、時間は粛々と流れていきます。まず注目の的になるのは、1月15日に予定されているアイオワ州党員集会です。民主党は、バイデン大統領に対抗しようという対立候補がいないため、党員集会はあってないようなものですが、共和党サイドの事情は全く違います。世論調査で圧倒的支持を得続けるトランプ前大統領に、他の候補がどれだけ迫ることができるか、が最大の焦点です。また、アイオワ州党員集会からわずか1週間後の1月23日にニューハンプシャー州で予備選挙が行われることもあり、気が早い選挙ウォッチャーの間では、「3月5日のスーパー・チューズデーが終わるころには、トランプ前大統領が共和党大統領候補になることが確定するでしょう」と予測する人も出てきています。

ですが、ここにきて、興味深い世論調査結果が。NBCニュースやABCニュースなど、全米規模の世論調査では、アイオワ州党員集会ではトランプ前大統領の圧倒的優勢が伝えられていますが、アイオワ州内の各郡(county)の共和党支部長を対象にした世論調査では、トランプ前大統領優勢に変わりはないものの、ニッキー・ヘイリー元国連大使が、ロン・デサントス・フロリダ州知事を抜いて2番手に躍進、「トランプ以外の候補」を探している共和党支持層のサポートを急速に集め始めている、というものです。

また、2021年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件にトランプ前大統領が果たした役割に注目し、コロラド州とメーン州の裁判所は合衆国憲法第14条3項に基づいてトランプ前大統領の名前が投票用紙に記載されること自体を認めない、という判決を相次いで下しました。もちろん、トランプ前大統領陣営は徹底抗戦の構えですので、連邦最高裁に判断がゆだねられることはほぼ間違いありません。トランプ政権期間中に保守系判事が多数を占めるようになった連邦最高裁がどのような判断を下すのかが注目されます。

かたや民主党は、バイデン大統領が再選を表明していることで、対抗馬が出にくい雰囲気が満々。このままでいけば、バイデン大統領が対立候補による挑戦を受けることなく、夏の党大会前に民主党大統領候補としての地位を固める、というシナリオがほぼ確実視されています。ですが、内政では1月17日に迫る連邦政府一部閉鎖や国民の家計を圧迫し続けるインフレ、外交ではイスラエルーハマス間紛争の激化に伴い、紛争の火の粉がイランやレバノンまで既に波及している一方、ウクライナーロシア戦争も打開に向けた糸口が見えない状況。当然ながら、政権支持率も常に50%を切る状態が続いています。加えて、今年81歳になったバイデン大統領についてまわる「健康不安説」。本人の意思はともかく、本当にバイデン大統領が再選運動に乗り出すことができるのでしょうか。

とにもかくにも大統領選挙の行方を占う上で最初の山場となるアイオワ州党員集会はすぐそこまで来ています。トランプ前大統領がぶっちぎりで圧倒的支持を獲得するのか、それともヘイリー元国連大使が少しでも肉薄できるのか。1月は共和党予備選挙が熱い月になりそうです。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員