外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年12月27日(水)

デュポン・サークルだより(12月26日)

[ デュポン・サークル便り ]


アメリカは、先週から完全にクリスマスモード。殆どのオフィスは季節のご挨拶のメールをほぼ22日(金)までに出し終えているようです。特に、今年は、クリスマス当日の12月25日が月曜日、慣例として休日となる翌26日(ボクシング・デーとも呼ばれます)が火曜日に当たり、来週の月曜日は1月1日で再びお休みとなるため、27~29日の3日間だけ有給休暇を取れば10連休も取れてしまいます。このため、12月27~29日は開店休業となってしまうところも多いようです。日本は、仕事納めまであと数日ありますが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

バイデン政権は、内政、外政ともに厳しい状況に置かれたまま、2023年を終えることになりそうです。共和党保守派がウクライナとイスラエルに対する軍事支援という二つの外交問題と不法移民対策のための予算をリンクさせて議論し始めたことから、前者2つが内政問題化していることは既にお伝えした通りです。先週のワシントンではこの点が改めて実感されます。というのも、12月18日に、バイデン政権は再度議会に対し、イスラエル、ウクライナ両国に対する軍事支援が含まれた緊急予算法案を送付したのですが、12月14日の本会議を最後に下院は既に年末年始休暇入りしており、政権の要請に応え同法案だけ審議を行う姿勢は一ミリも見せず。一方、上院では本来なら既に休暇入りする予定だった12月15日後も交渉は続きましたが、こちらも19日にチャック・シューマー民主党上院院内総務とミッチ・マコーネル共和党上院院内総務が連名で「両党の交渉担当者が交渉を続ける中、年明け早々に法案を可決することができる状態になることを希望する」という声明を発表して交渉は中断。年内にアメリカの対ウクライナ軍事支援が可決される可能性はゼロになりました。

しかも、来年1月早々に審議を再開する議会は、1月19日にやってくる連邦政府一部閉鎖の危機という最大の課題に直面します。最優先課題は2024年度連邦予算法案審議ですが、この予算法案審議をめぐる交渉にウクライナ及びイスラエルに対する軍事支援のための予算措置の議論も飲み込まれる形となるため、各種交渉が難航するのは必至。両国に対する軍事支援の予算措置に関する合意がいつできるかは見通せない状態にあります。ウクライナに対するアメリカからの軍事支援は年内に資金が尽きると言われており、ウクライナがロシアに押し戻されるリスクが相当高まるという点は、日本でも小泉悠氏を含む専門家が分析されているとおりです。つまり、「ウクライナの生命線」ともいえるアメリカからの軍事支援が滞ってしまうと、既にロシアからのエネルギー輸出が途絶え、厳しい状態にあるヨーロッパ諸国の間で、ますます「ウクライナ支援疲れ」が加速してしまう恐れがあり、欧州安全保障の将来にとって大きな危機が訪れることになります。

2024年にバイデン政権を待ち受ける内政問題は、予算法案審議だけではありません。そうです、いよいよ1月15日、アイオワ州で共和党党員集会が行われるのを皮切りに、大統領選挙が本格化するからです。

共和党側の予備選挙状況を見渡すと、ドナルド・トランプ前大統領の圧倒的優位が揺らぐ気配はありません。とはいえ、「トランプVSバイデンのリベンジマッチ」になると決めつけるのは、時期尚早かもしれません。というのも、ここにきて、これまで「どんぐりの背比べ」「団子状態」と言われていたトランプ前大統領候補者以外の候補者たちの間の力学にようやく変化が出てきました。「トランプ前大統領の対抗馬」を模索する動きは、遅まきながら、ようやく、共和党支持者の間でも候補者同士でも出てきたからです。

2023年に予備選挙に向けた動きが始まった当初はロン・デサントス・フロリダ州知事がトランプ前大統領の対抗馬として最有力視されていました。ところが、最近の世論調査によれば、アイオワ党員集会のわずか1週間後の1月23日に行われるニューハンプシャー州予備選挙ではトランプ前大統領に続く2番手候補にニッキー・ヘイリー元国連大使が急浮上しています。例えば、この州で手堅い支持を持つクリス・クリスティー元知事が今後数週間以内に大統領選からの撤退を表明し、ヘイリー元国連大使の支持を呼び掛けた場合、トランプ前大統領とヘイリー元国連大使のニューハンプシャー州における支持率はほぼタイになる、という調査結果すら出ています。

11月には、保守派財閥のクリス・コッチ氏が、12月12日にはクリス・スヌヌ・ニューハンプシャー州知事が、それぞれヘイリー元国連大使支持を相次いで表明しました。このことは共和党支持者の間、特にトランプ前大統領を来年の大統領選共和党候補と見たくない人たちの間でヘイリー元国連大使が、「本選で一番勝てそうな候補」として浮上しつつあることを示しています。また、ヘイリー元国連大使は、本選挙で重要になる「好感度」でトランプ前大統領とはじめとする他の共和党候補を圧倒的に上回っているという調査もあり、ヘイリー候補がアイオワ州、ニューハンプシャー州でトランプ前大統領にどれだけ肉薄できるかが焦点になりそうです。

ヘイリー元国連大使は出馬表明した当初、支持率一桁台で苦しんでいました。しかし、当初こそ勢いがあったにも拘わらず、その後失速しているデサントス州知事やヴィヴェック・ラムスワミー候補とは対照的に、ヘイリー候補は2023年に数回行われた共和党候補者討論会で回を重ねるごとに支持率を上げてきています。特に、過去2回の候補者討論会で彼女は他の候補から集中砲火を浴びましたが、時には「こんなにたくさんの男性からこんなに注目されるなんて嬉しい」「批判は嫉妬の裏返しですし」などと会場の笑いを誘いながら皮肉でかわし、時には真正面から反論するなど善戦しました。ヘイリー元国連大使はトランプ前大統領と真正面対決しても何とかやれそうな唯一の候補といっても過言ではないのです。

逆に、ヘイリー元国連大使がトランプ前大統領を止められなければ、現時点で支持率40%という低支持率に喘ぐバイデン大統領がトランプ前大統領に勝てる見込みがあるかと言えば、正直微妙です。つまり、世界は、「トランプ2.0」に向けた準備を真剣に始めなければいけないということ。2024年は「国際社会が直面する最大の脅威はアメリカ内政」といっても過言ではない状態が続きそうです。

ことしも1年間、「デュポンサークルだより」をご愛読いただき、ありがとうございました。来年は、大統領選挙ウォッチャーとして頑張りたいと思いますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員