外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年12月21日(木)

外交・安保カレンダー( 12月18日-24日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


2023年も残すところあと2週間、先週お約束した通り、2023年の回顧を今週、24年の展望は来週書くことにしたい。とは言ったものの、先週末から国内出張が重なり、早朝移動が続いたせいか、ボーっとしている間に本稿を書くのが遅れてしまった。原稿と体力は相関関係にあることが再び証明されたのか。何卒ご容赦願いたい。

さて、改めて今年一年を振り返ってみると、日本を取り巻く外交・安保環境が再び、多くの識者の予想を超える速度で、変わり始めているような気がする。以前から筆者が折に触れて書いてきた通り、近年世界では「勢いと偶然と判断ミス」の時代が従来の「安定と計画と熟慮」の時代に代わりつつある、という気がしてならない。

筆者の見立てはこうだ。今年2月24日、2年目に突入したロシアのウクライナ侵攻はまだまだ終わりが見えない。10月7日にはハマスがイスラエルに奇襲攻撃を成功させ今も戦闘が続いている。いずれも多くの欧州・中東専門家の予想を超えた「想定外」に近い事件である。

しかも、この2つの紛争は、決して独立・個別の事象ではない。それどころか、両紛争が相互に関連している可能性は高い。されば、現在欧州ウクライナで起きている悲劇と、中東パレスチナ・ガザで起きている惨状は、欧州と中東で現状維持勢力が現状変更勢力の「抑止」に失敗したことを象徴する事件であり、国際情勢に新しい潮流が生まれ、それが拡大し、新たな不安定期に入りつつあることの前兆なのだろう。

より詳しい2023年の回顧については今年最後のCIGS外交安保TVで峯村主任研究員と語り尽くしているので、こちらをご覧頂きたい。代わって今回は今週公開された1992年天皇陛下訪中関連の外交文書について書こうと思う。この話は昨日のテレビ朝日「ワイドスクランブル」で取り上げられ、筆者も生出演する機会を得たからだ。

ちなみに、この「ワイドスクランブル」、昼の時間帯の中でも最も「正統」かつ「硬派」な番組作りで、結構気に入っている。使用する映像や資料も報道局が作成しているからか、簡にして要を得ており、出演者自身も大変勉強になるからだ。という訳で、今回は昨日放送中に喋れなかったことも含め、私見を書いてしまおう。

今回解禁された極秘外交文書を読むと、1992年の両陛下訪中が歴史的意義を持っていたことは間違いない。だが、出演前にざっと調べた限りでは、今回の文書公開に関するマスコミ各社や識者の記事・評論はいずれも日中「二国間関係」に焦点を当てたものばかりでどこか「物足りない」、というのが筆者の本音である。

中国が陛下訪中の機会に天安門事件後の国際的孤立脱却を狙ったのに対し、日本側も歴史問題等で揺れた日中関係の(完全修復は無理にしても)一定の改善を狙ったこと、当時の宮沢総理が「慎重」だったことは事実だろう。しかし、この歴史的事件をよりグローバルな視点から見ると、これとは違う戦略的意義付けも可能だ。

両陛下訪中が議論・実施された1991-2年は、欧州でソ連が崩壊し、中東で湾岸戦争が勃発し、アジアでは米軍がフィリピンから撤退し、中国が南シナ海や尖閣諸島を含む海域の領土主権を定めた「領海法」を制定した時期に当たる。ここから見えてくる構図は、日中二国間関係をはるかに越えたグローバルなパワーシフトであろう。

そうだとすれば、当時米国の戦略家たちは、冷戦でソ連に勝利し、米外交の優先順位が欧州から中東に移りつつある中で、中国を安定させるため対中投資を拡大し、中国を豊かにすることで市民社会が生まれ民主化が進むことを期待しつつ、強大化する前に中国を取り込んでしまおう、と考えていたのではなかろうか。

こうした戦略は対中ビジネスに関心を持った日米欧企業の利益にもなったため、90年代初頭から、西側は対中経済制裁を徐々に解除し、対中投資を拡大していった。その先駆けとなったのが陛下の訪中ではなかったのか。そうだとすれば、こうした政策は当時の多くの政策決定者にとって妥当な外交政策判断であったとは思う。

しかし、今振り返ってみると、1990年代の段階で対中投資、技術供与、貿易拡大をあれほど急激に拡大したことは正しかったのか。中国が安定した民主国家に生まれ変わったかといえば、結果は真逆だった。改革開放で得た利益を中国は市民社会ではなく、国防と治安の強化に投資したため、今や中国は軍事大国になってしまった。

だとすれば、1990年代の西側の対中戦略は結果的に大失敗に終わり、現在は当時の戦略的失敗のツケを払いつつあるのではないか。筆者の疑問はここに収斂する。もしこの分析が正しければ、陛下の訪中は、日中関係だけでなく、こうしたグローバルなプロセスの起点になったという意味でも歴史的な意味を持つだろう。

宮沢総理は外務大臣を長く務めた聡明な政治家であり、こうしたグローバルな視点も持ち合わせていたのではないか。そうだとすれば、同総理の「慎重さ」は戦略的な判断に基づくものであり、決して「度胸がない」からでも、「ふらふら」していた訳でもなかった可能性がある。但し、これに関する外交文書は残っていないかもしれないが・・・。

今週も時間の関係でコメントはこのくらいにさせて頂こう。



2023年 重要日程レポート51【12月18日版】


<今週以前から続く会議>
11月7日‐12月22日 UNIDO、第20回総会(パリ)
12月16日‐12月18日 日ASEAN(東南アジア諸国連合)友好協力50周年特別首脳会議(東京)


12月
<12月18日‐12月24日>
18日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
18日 日ASEAN特別首脳会議が閉幕
18日 衆院選挙制度協議会が報告書取りまとめ
18日‐12月19日 日銀金融政策決定会合(日銀)
19日 ユーロスタット、11月CPI発表
19日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ブリュッセル)
20日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
20日 コンゴ民主共和国大統領選挙
20日 英国11月CPI発表
20日 ウクライナ1~10月貿易統計発表
20日 11月の訪日外国人数(日本政府観光局)
20日 コンゴ(旧ザイール)大統領選
20日 11月の貿易統計(財務省)
20日 石油製品価格調査(経産省)
20日 中国人民銀行が最優遇貸出金利(LPR)発表
21日 米国2023年第3四半期GDP発表(確定値)
21日 トルコ中銀金融政策会議
21日 香港11月CPI発表
22日 11月の全国消費者物価指数(総務省)
22日 2024年度予算案が閣議決定
22日 11月の米個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
22日 メキシコ11月貿易統計発表
23日 2023年会計年度国防授権法(NDAA)に基づき設立された中国の経済的威圧対策タスクフォースによる報告書の議会提出期限


<12月25日‐12月31日>
26日 ウクライナ第3四半期雇用統計発表
26日 11月の労働力調査(総務省)
26日 11月の有効求人倍率(厚労省)
26日 サウジアラビア10月貿易統計発表
28日 メキシコ11月雇用統計発表
28日 ロシア1~11月鉱工業生産指数発表
29日 ブラジル11月全国家計サンプル調査発表
29日 韓国12月および年間CPI発表
29日 トルコ11月貿易統計発表
29日 ウクライナ1990~2022年GDP発表
29日 ウクライナ1~11月鉱工業生産指数発表
29日 東証大納会
29日‐1月31日 サイバーテック・グローバル・テルアビブ(テルアビブ)
30日 ロシア第3四半期需要項目別GDP発表(速報値)
31日 12月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
12月中 中央経済工作会議(北京)
12月中 WTO2023年第3四半期財貿易統計発表
12月頃 ラジャスタン州議会選挙(インド)
12月頃 テランガナ州議会選挙(インド)
12月中 第21回東アジアフォーラム(インドネシア)
12月中 日ASEAN友好協力50周年特別首脳会議(日本)


2024年 1月


1日 ベルギー、EU理事会議長国に就任
1日 ロシアで超過利潤税が導入
1日 ロシアがCISの議長国に
1日 イスラエル中銀金融委員会会合
1日 ユーラシア経済連合技術規則「アルコール製品の安全性」が発効
3日 ドイツ11月労働市場統計発表
4日 香港2023年11月小売統計発表
5日 台湾2023年12月CPI発表
5日 米国12月雇用統計発表
5日 ブラジル2023年11月鉱工業生産指数発表
8日 メキシコ2023年12月自動車生産・販売・輸出統計発表
9日 メキシコ2023年12月CPI発表
9日 台湾2023年12月貿易統計発表
9日 米国11月貿易統計発表
10日 インド9月鉱工業生産指数発表
10日‐1月12日 Vibrant Gujarat Global Summit州投資サミット(インド)
10日 UNDP・事務局選出(ニューヨーク)
10日‐1月11日 フューチャー・ミネラルズ・フォーラム2024(サウジアラビア・リヤド)
11日 メキシコ2023年11月鉱工業生産指数発表
11日 ブラジル2023年12月IPCA発表
11日 米国12月CPI発表
12日 フランス12月CPI発表
13日 インド10月CPI統計発表
13日 台湾総統選挙
15日 イスラエル12月CPI発表
15日‐1月19日 世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)(スイス・ダボス)
16日 ドイツ12月CPI発表
16日 英国労働市場統計(9~11月)発表
17日 ブラジル2023年11月月間小売り調査発表
17日 英国12月CPI発表
17日 米国11月小売売上高統計発表
18日 香港2023年10~12月雇用統計発表
19日 メキシコ2023年11月小売・卸売販売指数発表
22日 香港2023年12月CPI発表
22日 台湾2023年12月雇用統計発表
22日 台湾2023年12月投資統計発表
25日 メキシコ2023年12月雇用統計発表
25日 米国2023年第4四半期GDP発表(速報値)
25日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
26日 メキシコ2023年12月貿易統計発表
29日‐2月2日 常任理事会、第1回定例会(ニューヨーク)
30日 インド2023年度第2四半期GDP発表
30日 フランス第4四半期実質GDP成長率(速報値)発表
30日‐1月31日 米国FOMC
31日 ブラジル2023年12月全国家計サンプル調査発表
31日 香港2023年第4四半期経済状況発表、2023年通年GDP成長率発表(速報値)
1月中 OECD2023年第3四半期海外直接投資(FDI)統計発表
1月中 WTO2023年第3四半期サービス貿易統計発表


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問