外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年12月18日(月)

デュポン・サークルだより(12月15日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週末は、「本当に12月?」と思わせるほど暖かくなったワシントンですが、今週に入って急転直下。先週までは「本当に、今12月?」という言葉の裏には「まだ10月みたいな陽気じゃない」という意味合いが込められていましたが、今や「本当に、今、12月?」という言葉の裏には「まるで2月じゃん」という含意があります。これだけ寒暖の差があると、体調管理にも一苦労です。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

前回の「デュポンサークルだより」では、米国のウクライナとイスラエル両国に対する軍事支援が、内政問題に発展してしまっている状況についてお伝えしました。ネックになっているのは共和党保守派。「他国に対する援助の前に、まずアメリカの国境を守るための投資をするのが先だろう」と強硬に主張し、両国への軍事支援とメキシコとの国境エリアでの不法移民対策予算を一緒に審議することを主張し続けています。一方、一部の報道では今週中に軍事支援法案が成立しなければ、対ウクライナ軍事支援の予算が今月末で尽きてしまうという報道もあり、その行方が注目されていました。

状況が切迫していることを感じたのか、ウクライナのゼレンスキー大統領は、なんと12月12日にワシントンを電撃訪問。昨年2月にロシアとの戦争が始まってから3度目になる今回の訪問では、ゼレンスキー大統領はバイデン大統領との会談もそこそこに、議会で上下両院の議員と懇談。ジョンソン下院議長と初の1対1の懇談も含まれた議会訪問で、対ウクライナ軍事支援継続のための補正予算を可決するように訴えました。

ですが、バイデン政権に対し、対外軍事支援は国境警備とセットでの審議を求める議会の共和党保守派議員は、「ウクライナへの支援は重要」といいつつも、「バイデン政権の譲歩なしには、援助パッケージをクリスマス前に可決できる可能性は低い」とバッサリ。ジョンソン下院議長に至っては、「アメリカの政策として、ウクライナがロシアとの戦争に勝利するためにどのような戦略を持っているのかをより具体性を以って下院に説明する責任はバイデン政権と上院にある」と、完全に責任転嫁するありさまです。

とはいえ、下院側の主張も、筋が通っている部分はあります。通常、政権として重要視してている予算措置をめぐる議会での審議が膠着してしまっている場合、大統領や副大統領自らが議会との交渉に乗り出すのが常。ですが、これまでのところ、バイデン大統領自らが本腰を入れて議会との交渉に乗り出す姿勢を見せている様子はありません。この点については、ウクライナ、イスラエル両国への軍事支援の継続を支援する共和党上院議員の中からも「バイデン大統領自らが下院と交渉するべきだ(マコーネル共和党上院院内総務)」という声が上がり始めています。ですが、当のバイデン大統領はテレビ演説などを通じてのメッセージ発出だけを行っています。議会側にしてみれば「それほどの重要政策案件なら、誠意を見せろ」と言いたくなる気持ちも、分からないわけではありません。

ちなみに、これを書いてる14日(木)は、年内の下院会期最終日。2024年末の任期満了を待たずに、今年末で議員を引退することを発表したマッカーシー前下院議長が下院本会議で「お別れ演説」を行ったばかりです。そして今日のセッションを最後に、下院は年明けまでクリスマス休暇入りしてしまいます。上院も15日(金)を最後に年明けまでクリスマス休暇入りするため、対ウクライナ軍事支援予算予算が年内に可決することはもはや不可能。1月9日に会期が再開してから改めて議論されることとなります。ですが、2024年は選挙の年。どの議員も、ますます譲歩には後ろ向きになること必至です。このような中、バイデン政権、ウクライナ及びイスラエルに対する軍事支援が継続できないような事態になれば、国際的な信用への悪影響は免れません。バイデン大統領本人が再選に向けた動きで忙しくなる中、年明けからどのようにこれらの課題に対応していくつもりなのでしょうか。

(了)


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員