外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年11月21日(火)

デュポン・サークルだより(11月17日)

[ デュポン・サークル便り ]


つい先週まで、半袖短パンでも大丈夫なぐらいの暖かさだったのに、今週に入ってからは、毎朝、ほぼ氷点下。今年は去年に比べて降雪量が増えそうだ、という報道もちらほら出始め、秋をすっ飛ばして、いきなり初冬の空気になってしまったワシントンです。先週で夏時間も終わり、午後5時前には日が暮れはじめ、午後6時には真っ暗。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

「人道的観点からの戦闘一時休止」の議論はあれど、「停戦」の「て」の字も出ないまま、中東情勢は引き続き緊迫。中東情勢にすっかり世界の関心が移ってしまってはいますが、ロシア・ウクライナ戦争も終わりは見えません。そんな中、今週はサンフランシスコでAPEC首脳会議。15日(木)にはバイデン大統領と中国の習近平主席が、約1年ぶりに会談を行うなど、米外交は「てんやわんや」の忙しさ。ですが、それ以上に大変なことになっているのがアメリカ内政。これまでの「デュポンサークル便り」でも何度かお伝えしていますが、アメリカ政治の「動物園状態」は悪化の一途をたどっています。

例えば下院。年始から下院議長選出に2週間近く要した後も、人数からいえば20数名しかいない共和党保守派による「少数派の暴走」を止められないまま、10月初旬にケビン・マッカーシー下院議長が不信任決議案可決を経て米国建国史上初の「解任」の憂き目に。さらに、後任の下院議長が選出されるまでに3週間の期間を費やし、その間、議会の審議は事実上ストップ。連邦政府予算については、一部の省庁については予算を今年度レベルで1月まで支出、国防省を含むその他の省庁については2月まで今年度レベルで予算を支出することを認める継続決議をなんとか14日に可決して上院に送付、15日に上院が継続決議を可決したことで、11月17日に期限が迫っていた連邦政府閉鎖はなんとか回避することができました。それでも、自分の履歴のほとんどすべてをでっちあげて下院議員選に出馬、当選したニューヨーク州選出のジョージ・サントス下院議員(共和党)が、議員の立場を濫用して、利権を漁りまくっていたことが、本稿を書いている16日に下院倫理委員会の報告書で明らかになるなど、「お騒がせ下院」はまだまだ続く気配濃厚です。

そんな中、連邦議会でも「良識の府」だったはずの上院にも異変が。2月から、アラバマ州選出のトミー・タバービル上院議員が米軍高官の昇任・異動人事を全て止めてしまっています。このため、9月末から10月にかけて、陸海空海兵隊、さらに統合参謀本部議長も入れて、文字通り米軍の4トップ全員のポジションをナンバー2が代行するという異常事態が発生。さすがに「それはまずい」ということで、かろうじて4トップの人事は上院で承認されたのですが、それ以外の軍高官人事は相変わらず止まったまま。なので、例えば日本との関係で身近なところでは、中将への昇任と沖縄の第3海兵隊遠征軍司令官のダブル人事の対象になっているロジャー・ターナー少将は今年4月に指名を受けたものの、沖縄赴任の見通しが全く立たないまま今に至っています。しかも、このタバービル上院議員の所業、表向きの理由は「国防省が軍人やその家族の不妊治療や中絶のための費用を支援していることが気に入らない」というものでした。しかし、実際は、トランプ政権の時に新しく創設された宇宙軍司令部をアラバマ州に設立するはずだったのに、バイデン政権になって、結局、それまでも宇宙司令部があったコロラド州に宇宙軍司令部を維持することに方針転換したことに反発した、いわば「逆恨み」の結果だったらしいのです。

さらに14日には上院健康・教育・労働・年金問題委員会の公聴会に証人として出席していた、チームスターという労働者組合の長であるショーン・オブライエン氏と、同氏に質問する立場のマークウェイン・マリン上院議員の間で口論が激化、文字通り「この場で決着付けるぞ!立てよ!」という飲み屋の乱闘を思わせるようなやり取りが勃発。同委員会のバーニー・サンダース議長がマリン上院議員に対し「君は米国連邦議会上院議員だろう!座りなさい!」と一喝したことでなんとか事態は収束したものの、「良識の府」とは思えない言動が、特に共和党議員の間で多くみられるようになってきています。

しかも、このようなトラブルの渦中にある議員は、自分のトラブルをネタにさらに選挙資金集めを行い、成功しているというから驚きです。トランプ前大統領が、自分が被告になっている裁判をネタに選挙資金をガンガン稼いで(?)いますが、まさに、その手法をそっくりそのまま導入したやり口です。

上院も下院もこれでは、米国議会はもはや「動物園状態」を通り越して「学級崩壊」に刻一刻と近づいています。内政がこんな状況では、バイデン政権がいくら外交で存在感を示すべく頑張ろうとしても、有権者の関心を集められるはずもなく、ましてやバイデン大統領の支持率上昇につながるはずもありません。いろいろな意味で共和党に足を引っ張られたまま、2024年大統領選挙は刻一刻と近づいてきます・・・・

(了)


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員