キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2023年10月17日(火)
[ 2023年外交・安保カレンダー ]
この原稿はニューデリー発帰国便の機上で書いている。ニューデリー出張はかなり久しぶりだったが、今回来てみて、「インドはこの数年で大きく変わり始めたのかなぁ」と感じた。なぜそう思うのか、種々理由を考えてみたが、個人的には、インドが国家としての意図や野心を曖昧にしなくなったのも理由の一つだと思っている。
振り返ってみれば、インドは過去数十年間、筆者にとって「良く分からない国」だった。1990年代にはWTOでインド側と貿易交渉はしたが、ニューデリーの在勤経験はない。外交の基本は「非同盟」というが、多くの立場は「両論併記」の「玉虫色」で捉え処がない。そもそも、インド関連の基本情報すら決定的に不足していたと思う。
それだけに、今回は実に「eye-opening」な出張となった。第一の目的は現地シンクタンクORF(Observer Research Foundation)が主催し日本政府も支援する「各国若手外交官研修セミナー」での講演だったが、これ以外にも色々欲張って、齢70にして、好奇心丸出しの日程を組んでみた。体力的にも、精神的にも、ほぼ限界に近い。
それはさておき、実は目的がもう一つあった。在京インド大使が強い関心を有している日本企業の対インド投資状況の実態をこの目で確かめたかったのだ。詳細は今週の産経新聞WorldWatchに書いたので、ここでは繰り返さない。要するに、インドでのインフラ不足だけでなく、日本企業の消極性も無視できない理由のようである。
今回は幸い現地日本大使館から支援を得られ、主要大学での講演、主要紙のインタビュー、有力識者との懇談、現地の日本商工会幹部との意見交換などを行う機会も得た。駆け足の5日間だったが、これほど「ディープ」なインドを経験できたことを有難く思う。ちなみに、11月には南部バンガロールへの出張を予定している。
さて、インド外交の変化を要約すれば、「中国を最も懸念し、米・イスラエルと関係を強化するも、ロシアとの関係は捨てきれない。東方ではクアッド(日米豪印)に、西方ではI2U2(印イスラエルUAE米)に関与し、従来の「非同盟」の枠内で最大限「米国寄りに舵を切りつつある」といったところだろう。
それにしても、インド知識人のレベルは高い。人口は14憶もあり、官僚、政治家、知識人の世界での競争は日本や中国の比ではないようだ。経済が急成長する中でかくも熾烈な出世競争を勝ち抜いてきた人々だけが権力と尊敬を勝ち取る社会という点では、日本の1950-60年代、中国の1980-90年代に似ているのかなと思う。
勿論、「変わらない」インドも健在だ。インド官憲の上から目線や無秩序な交通混雑は相変わらずで、あの喧騒と混沌の集合体は一朝一夕では変わりようがない。他方、モディ政権が進めた「インド製造」政策や各種税制改革の成果も着実に出始めている。数年前に比べても、道路や電気インフラの整備は進んでいるようだ。
インド進出日系企業数は1400社ほどだが、その7割以上が「黒字」で「事業を拡大」するという。日本企業の海外中期有望国調査でも、昨年インドが中国を抜き一位になった。更にインドの中産階級の割合は2022年に30%だったが、2030年に46%、2046年には63%になるという。これが本当なら、もの凄いことだ。
こう書き連ねてきたら、「一体インドとは何か」という根本問題に再び突き当たった。今筆者に答えはない。もしかしたら、「インド」というのは、英国が植民地にした巨大で多様な社会の集合体をイギリス人が勝手に「インド」と呼んだだけなのかもしれない。そうだとすれば、「インドはインド人にも分からない」のも当然だろうと思う。
さて、続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
9月17日 火曜日 ヨルダン国王、ドイツ訪問、独首相と会談
仏大統領、アルバニア首相と会談
トルコ外相、レバノン訪問
中国、「一帯一路」首脳会議を主催(18日まで)
9月18日 水曜日 中露首脳会談
米大統領、イスラエル訪問
米上院外交委員会、新在イスラエル米国大使の指名を検討
ロシア外相、北朝鮮訪問(19日まで)
9月19日 木曜日 インドネシアと韓国の中銀が政策金利を決定
アイスランドでThe Arctic Circle Assembly 会合(22日まで)
9月20日 金曜日 米大統領、欧州委員会委員長ら欧州首脳と会談
9月22日 日曜日 スイス、連邦総選挙
ベネズエラ野党の予備選挙
アルゼンチン、総選挙
今週も時間の関係でこのくらいにさせて頂こう。
2023年 重要日程レポート42【10月16日版】
<今週以前から続く会議>
9月18日‐11月17日 ICAO(国際民間航空機関)第224回航空委員会(モントリオール)
10月2日‐11月17日 総会、第6委員会、第78回会合(ニューヨーク)
10月2日‐12月11日 総会、第5委員会、第78回会合(ニューヨーク)
10月4日‐10月18日 ユネスコ理事会第217回会合(パリー)
10月4日‐11月21日 大陸棚限界委員会、第59回会合(ニューヨーク)
10月9日‐11月3日 人権委員会第、139回会合(ジュネーブ)
10月9日‐10月27日 女性差別撤廃委員会第86回会合(ジュネーブ)
10月9日‐11月3日 人権委員会第139回会合(ジュネーブ)
10月
<10月16日‐10月22日>
16日 トルコ9月中央政府予算
16日 EU環境相理事会(ルクセンブルグ)
16日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルグ)
16日‐10月18日 ロシア外相が訪中
16日‐10月20日 第16回ASEAN中小企業調整委員会(ACCMSME)会議および関連会議(シンガポール)
16日‐10月20日 UNCITRAL、第4作業部会(電子商取引)、第66回会合(ウイーン)
17日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルグ)
17日‐10月19日 UNCTAD, 政府間 専門家作業部会 国際会計基準 国際会計報告作業部会(ドバイ)
17日‐10月20日 租税問題の国際協力に関する専門家委員会、第27回会合(ジュネーブ)
18日 中国第3四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会小売品販売総額等)発表
18日 テスラ決算(発表は米東部時間夕)
18日 英国9月CPI発表
18日 ブラジル8月月間小売り指数発表
18日 ユーロスタット、9月CPI発表
18日 Starlink 114 (6-23)・SpaceX・ファルコン9(ケープカナベラル空軍基地)
18日‐10月21日 日中有識者会議「東京―北京フォーラム」(北京)
19日 拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約の締約国、第19回会合(ジュネーブ)
19日 Starlink (7-5)・SpaceX・ファルコン9(ヴァンデンバーグ宇宙軍基地)
19日‐10月20日 EU外相理事会・非公式会合(バレンシア)
19日‐10月20日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルグ)
20日 中国人民銀行が最優遇貸出金利(LPR)発表
20日 9月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)
20日 日豪外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)
20日 米EU首脳会談(バイデン米大統領、ミシェルEU大統領、フォンデアライエン欧州委員長)(ホワイトハウス)
20日 臨時国会が召集
20日 メキシコ8月小売・卸売販売指数発表
20日 ウクライナ1~8月貿易統計発表
22日 アルゼンチン大統領選挙本選、アルゼンチン州知事選挙(ブエノスアイレス州・カタマルカ州・エントレ・リオス州)、ブエノスアイレス自治市長選挙(アルゼンチン・ブエノスアイレス市)
<10月23日‐10月29日>
23日 EU外相理事会(ルクセンブルグ)
23日‐10月24日 EU農水相理事会(ルクセンブルグ)
23日‐10月24日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会 非公式会合(レオン)
23日‐10月27日 人権に関する多国籍企業およびその他のビジネス企業に関する法的拘束力のある文書を作成するためのオープンエンドの政府間作業部会、第9回会合(ジュネーブ)
24日 EU一般問題理事会(ルクセンブルグ)
24日‐10月27日 麻薬取締委員会、アジア太平洋麻薬取締機関長会議 第45回会合(バリ島)
25日 ロシア1~9月鉱工業生産指数発表
25日 サウジアラビア8月貿易統計発表
26日 トルコ中銀金融政策会議
26日 メキシコ9月雇用統計発表
26日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(アテネ)
26日 7~9月期の米GDP速報値(商務省)
26日‐10月29日 エコ・エキスポ・アジア(香港、現地開催)
26日‐10月27日 欧州理事会(ブリュッセル)
27日 10月の東京都区部消費者物価指数(総務省)
27日 ロシア中央銀行理事会
27日 メキシコ9月貿易統計発表
28日‐10月29日 G7貿易大臣会合(日本・大阪・堺)
29日 トルコ9月貿易統計発表
29日 欧州各国が冬時間入り(英との時差は9時間、仏独伊とは8時間に拡大)
<10月30日‐11月5日>
30日 衆院議員の任期満了まで残り2年
30日‐10月31日 EU競争力担当相理事会・非公式会合(観光)(パルマ)
30日‐11月1日 日銀金融政策決定会合(日銀、31日まで)
30日‐11月1日 人権理事会、開発への権利に関する専門家メカニズム、第8回会合(ジュネーブ)
30日‐11月9日 ILO、運営組織とその委員会、第349回会合(ジュネーブ)
30日‐11月17日 ICAO、第230回理事会(モントリオール)
31日 ブラジル9月全国家計サンプル調査発表
31日 フランス第3四半期実質GDP成長率(速報値)発表
31日 ドイツ第3四半期実質GDP成長率(速報値)発表
31日 国連環境計画(UNEP)常設代表委員会第163回会合(ナイロビ)
31日 UNEP常設代表委員会第162回会合再開(ナイロビ)
31日‐11月1日 ブラジル中央銀行、Copom
31日‐11月1日 米国FOMC
31日‐11月17日 第138回国際麻薬統制理事会(ウイーン)
11月
1日 ブラジル9月鉱工業生産指数発表
1日 ウクライナ1~9月鉱工業生産指数発表
2日 ドイツ9月労働市場統計発表
3日 ユーロスタット、9月失業率発表
3日 米国10月雇用統計発表
3日 トルコ10月CPI発表
5日‐11月10日 第6回中国国際輸入博覧会(上海)
6日‐11月7日 EU競争力担当相理事会(宇宙)(セビリヤ)
7日 中国10月貿易統計発表
7日 米国9月貿易統計発表
7日 欧州宇宙機関(ESA)閣僚サミット(セビリア)
7日 ロシア中央銀行金融政策レポート発表
7日 メキシコ10月自動車生産・販売・輸出統計発表
7日‐12月22日 UNIDO、第20回総会(パリー)
8日 ドイツ10月CPI発表
8日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)
8日‐11月9日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
8日 ブラジル9月月間小売り指数発表
9日 中国10月CPI発表
9日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
9日 メキシコ10月CPI発表
9日‐11月10日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(予算)(ブリュッセル)
10日 ロシア10月CPI発表
10日 英国2023年第3四半期GDP成長率(速報値)発表
10日 ブラジル10月IPCA発表
10日 メキシコ9月鉱工業生産指数発表
10日 インド2023年9月鉱工業生産指数発表
13日 インド2023年10月消費者物価指数発表
13日 ウクライナ10月CPI発表
13日 トルコ9月国際収支統計発表
13日‐11月14日 EU外相理事会(ブリュッセル)
13日‐11月17日 核兵器およびその他の大量破壊兵器のない中東地帯の確立に関する会議、年次会合(ニューヨーク)
14日 米国10月CPI発表
14日 英国労働市場統計(7~9月)発表
15日 中国10月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
15日 英国10月CPI発表
15日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
15日 トルコ10月中央政府予算
15日 フランス10月CPI発表
15日 フランス第3四半期失業率発表
15日 米国10月小売売上高統計発表
16日 EU外相理事会(開発)(ブリュッセル)
17日 ユーロスタット、10月CPI発表
15日‐11月17日 APEC首脳会議(サンフランシスコ)
19日 アルゼンチン大統領選挙決選投票(予定)
20日 ウクライナ1~9月貿易統計発表
20日‐11月21日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
20日‐11月23日 欧州議会本会議(ストラスブール)
21日‐11月23日 第38回ASEAN化粧品委員会(ACC)(シンガポール)
22日 オランダ議会選挙
22日 メキシコ9月小売・卸売販売指数発表
22日‐11月24日 第13回ASEAN共同体統計システム委員会
23日 OECD2023年第3四半期G20貿易統計発表
23日 トルコ中銀金融政策会議
23日‐11月24日 EU雇用社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(平等)(パンプローナ)
24日 メキシコ第3四半期GDP発表
27日 メキシコ10月貿易統計発表
27日‐12月1日 UNCITRAL、第6作業部会(交渉可能な複合一貫輸送書類)、第40回会合(ウイーン)
27日‐12月1日 第20回UNIDO総会(ウイーン)
27日‐11月28日 EU雇用社会政策・保健・消費者問題担当相理事会(雇用社会政策)(ブリュッセル)
29日 米国2023年第3四半期GDP発表(改定値)
29日 トルコ10月貿易統計発表
29日 ロシア1~10月鉱工業生産指数発表
30日 ドイツ10月労働市場統計発表
30日 メキシコ10月雇用統計発表
30日 トルコ2023年第3四半期GDP統計発表
30日 ウクライナ1~10月鉱工業生産指数発表
30日 ブラジル10月全国家計サンプル調査発表
30日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
30日‐12日12日 国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)第28回締約国会議(COP28)(UAE・ドバイ)
11月中 ASEAN共同体のポスト2025年ビジョンに関するハイレベルタスクフォース(HLTF-ACV)第10回会合
11月中 欧州委員会秋季経済予測発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問