外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年10月10日(火)

外交・安保カレンダー(10月9日-15日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


10月6日はエジプトがシナイ半島を占領していたイスラエル軍に対し電撃サプライズ攻撃を仕掛けた1973年の「ヨムキップル」戦争勃発から50周年という記念すべき日、となるはずだった。ところが、その翌日、ガザ地区を実効支配するパレスチナ勢力・ハマスはイスラエルに対し前代未聞の奇襲攻撃を敢行し、世界を驚かせた。

短時間で数千発のロケット弾を発射し、過激派工作員をイスラエル領内に潜入させ、未確認ながら、米国人、女性、子供を含む100人以上の人質をとる、というこれまでにない大規模な軍事作戦だった。ハマスは過去数か月間、恐らくネタニヤフ新政権発足直後から、周到な準備を重ねて作戦の立案・準備を進めてきたに違いない。

ハマスの対イスラエル大規模攻撃は2020年代、国際情勢のゲームチェンジャーとなる可能性がある。バイデン政権の中東外交が頓挫する現状はイラン、イスラエル、米国など各国の「強硬派」が長く待ち望んでいた「パラダイス」に戻るからだ。強硬派たちの「共存共栄時代」への回帰と言っても良いだろう。

先週まで、中東ではバイデン政権主導でサウジ・イスラエル関係正常化交渉が水面下で進んでいた。バイデンの思惑は、イスラエルにパレスチナ独立国家を、サウジアラビアにはイスラエルをそれぞれ承認させ、パレスチナ問題を曲がりなりにも決着させ、米イスラエル・サウジ三国を対イラン抑止戦略の新たな基軸とすることだった。

当然、こうしたバイデン政権の動きを強く警戒する「強硬派」が世の中に少なくとも3勢力存在する。イランのハメネイ最高指導者、イスラエルのネタニヤフ首相、ワシントンの旧「ネオコン」を含む様々な対外強硬派だ。彼らはそれぞれの思惑から、バイデンの危険極まりない中東外交を潰したいと思っていたに違いない。

特に、ハマスとそれを支援するイランにとって、イスラエルの対アラブ関係正常化は悪夢でしかない。パレスチナ問題は一層矮小化され、ハマスがパレスチナをめぐる国際政治のプレーヤーとしての地位を更に失うからだ。今回ハマスは自らの軍事能力で存在感を示し、国際的孤立から脱却して形勢を挽回したかったのだろう。

イスラエル国内の雰囲気は最悪だ。ネタニヤフ政権がこれほど大規模なハマスの攻撃を全く予測できなかったことに多くの専門家は驚いた。欧米のメディアは好んで使うが、日本では全く理解されない概念である、「情報活動の失敗intelligence failure」である。イスラエルにとっては1973年以来の大失態というべきだ。

ネタニヤフ政権は歴代で最も強硬保守派であり、ハマスに対する報復もこれまでで最も徹底的、長期的、かつ恐らくは、最も血生臭いものとなるだろう。サウジを巻き込もうとした米国の中東外交は当面頓挫するだろうが、ハマスの裏にいると思われるイランも、決して表には出ないが、今回の軍事衝突の長期化を図るだろう。

その他詳細については今週の日経ビジネスに書いたので、ご関心のある向きはご一読願いたい。さて、続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。

10月10日 火曜日 ロシア・イラク首脳会談
ウクライナ大統領、ルーマニア訪問
EU外相、ハマス問題で緊急会合
リベリアで総選挙

10月11日 水曜日 アラブ連盟外相、ハマス問題で緊急会合

10月12日 木曜日 フランス・モンゴル首脳会談
ジブラルタル議会選挙
NATOの共同軍事演習が終了
EUの外交担当上級代表が訪中(14日まで)

10月14日 土曜日 ニュージーランド総選挙

10月15日 日曜日 ポーランド総選挙
エクアドルで大統領選決選投票

今週は時間の関係でこのくらいにしておこう。

〈今週以前から続く会議〉
9月11日‐10月13日 人権理事会、第54回会議(ジュネーブ)
9月18日‐11月17日 ICAO(国際民間航空機関)第224回航空委員会(モントリオール)
9月25日‐10月13日 経済的、社会的及び文化的権利委員会 第74回会議(ジュネーブ)
10月2日‐11月17日 総会、第6委員会、第78回会合(ニューヨーク)
10月2日‐12月11日 総会、第5委員会、第78回会合(ニューヨーク)
10月4日‐10月18日 ユネスコ理事会第217回会合(パリ)
10月4日‐11月21日 大陸棚限界委員会、第59回会合(ニューヨーク)

〈10月9‐15日〉
9日 メキシコ9月CPI発表
9日 EU雇用社会政策・保健・消費者問題担当相理事会・雇用社会政策(ルクセンブルグ)
9日 米コロンブスデー(外国為替、債券市場が休場。株式、商品市場は通常取引)
9日‐11月3日 人権委員会第、139回会合(ジュネーブ)
9日‐10日 2023年世界公衆衛生国際会議(マレーシア)
9日‐13日 UNCITRAL、第3作業部会(投資家対国家の紛争解決改革)、第46回会合(ウイーン)
9日‐13日 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、執行委員会、第74回会合(ジュネーブ)
9日‐13日 国連拷問被害者任意基金評議員会 第58回会合(ジュネーブ)
9日‐15日 IMF・世界銀行年次総会(モロッコ・マラケシュ)
9日‐27日 女性差別撤廃委員会第86回会合(ジュネーブ)
9日‐11月3日 人権委員会第139回会合(ジュネーブ)
10日‐13日 化学兵器禁止機関第104回理事会(デン・ハーグ)
11日 米FOMC議事要旨(9月19、20日開催分)(FRB)
11日 世界銀行のバンガ総裁が会見(年次総会開幕で)(マラケシュ)
11日 トルコ8月国際収支統計発表
11日 ブラジル9月IPCA発表
11日 ロシア9月CPI発表
11日 ウクライナ9月CPI発表
11日‐13日 ロシア・エネルギーウィーク(モスクワ)
12日 ゲオルギエワIMF専務理事が会見
12日 メキシコ8月鉱工業生産指数発表
12日 CIS外相会議(キルギス・ビシケク)
12日 インド8月鉱工業生産指数発表
12日 インド9月CPI統計発表
12日‐13日 G20財務大臣・中央銀行総裁会議(マラケシュ)
12日‐13日 アフリカにおけるSTI4SDGsロードマップの能力構築と採用拡大に関するワークショップ(アディスアベバ)
13日 CIS首脳会議(ビシケク)
13日 フランス9月CPI発表
13日 中国9月貿易統計発表
13日 中国9月CPI発表
13日‐15日 IMF・世界銀行年次総会(モロッコ・マラケシュ)
15日 サウジアラビア9月CPI発表

〈10月16‐22日〉
16日 トルコ9月中央政府予算
16日 EU環境相理事会(ルクセンブルグ)
16日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルグ)
16日‐20日 第16回ASEAN中小企業調整委員会(ACCMSME)会議および関連会議(シンガポール)
16日‐20日 UNCITRAL、第4作業部会(電子商取引)、第66回会合(ウイーン)
17日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルグ)
17日‐20日 租税問題の国際協力に関する専門家委員会、第27回会合(ジュネーブ)
18日 中国第3四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会小売品販売総額等)発表
18日 英国9月CPI発表
18日 ブラジル8月月間小売り指数発表
18日 ユーロスタット、9月CPI発表
19日 拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約の締約国、第19回会合(ジュネーブ)
19日‐20日 EU外相理事会・非公式会合(バレンシア)
19日‐20日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルグ)
20日 中国人民銀行が最優遇貸出金利(LPR)発表
20日 9月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)
20日 メキシコ8月小売・卸売販売指数発表
20日 ウクライナ1~8月貿易統計発表
22日 アルゼンチン大統領選挙本選、アルゼンチン州知事選挙(ブエノスアイレス州・カタマルカ州・エントレ・リオス州)、ブエノスアイレス自治市長選挙(アルゼンチン・ブエノスアイレス市)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問