外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年9月29日(金)

デュポン・サークルだより(9月29日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントン近郊は一気に秋めいてきました。日本でいう秋分の日を境に、確実に日の出の時間が遅くなり、日没の時間が早くなってきているのがわかります。湿度もぐっと低くなり、朝晩はぐっと冷えるようになってきました。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

今週のワシントンの最大の関心事は、なんといっても、深まる内政の混乱です。前号の「デュポンサークル便り」で、10月1日から始まる新年度の連邦予算をめぐる議会でのバトルが数週間前から待ったなしの状況である状況をお伝えしましたが、状況が打開される見通しは全く立っていません。今日(28日)、「連邦政府閉鎖はなんとしても避けなければ」という意識が共有されている上院では、連邦政府閉鎖を回避ための暫定的予算措置として11月17日まで、今年度の予算と同額の連邦政府予算を歳出すること、および災害支援や対ウクライナ軍事支援のための支出の継続を定めた「継続決議(continuing resolution, CRと呼ばれます)の採決に向けた本会議討論を始めることを賛成76,反対22の圧倒的多数で可決、採決に向けて審議は着実に進んでいます。ですが下院の状況は真逆で、未だに連邦政府閉鎖を避けるための措置を講じるための法案採決に向けた目途がたっていない状態です。最大の原因は、下院共和党内の「少数の暴走」。前号でもお伝えした、自分たちの主張が通らなければ、予算法案に反対票を投じるだけでなく、マッカーシー下院議長を追い落とすことも厭わない共和党保守派議員の動きを誰も止められないまま、現在に至っているのです。

実際のところは、一切妥協の姿勢を見せない共和党保守派下院議員は20名そこそこ。「じゃぁ、民主党側と協力して超党派の予算法案を作って、圧倒的多数で可決しちゃえばいいじゃないの」と言いたいところです。ですが、ここで、今年1月、下院議長選出時に、下院議長になりたい一心でマッカーシー下院議長が保守派議員との交渉の結果、議事手続きなどでいろいろ妥協した結果、下院議長解任の動議を一人の議員が発動することができるようになったことがネックになっているようです。今の時点でそんな動議を共和党保守派議員が発動しても、民主党側がこれに同意するとはとても思えませんし、実際に彼が議長職から追い落とされる可能性は限りなく低いわけですが、身内からこのような動議を発動されるというのは、ありていに言うと、かなりみっともないこと。しかも、共和党の岩盤支持層に絶大な支持を受けているトランプ前大統領は、そんな共和党保守派の動きを抑えるどころか、「もっと頑張れ」と後押しする始末。これがマッカーシー議長の手足を縛っているようです。

とはいえ、連邦政府が閉鎖に追い込まれるまであと3日しかありません。ここで私が気になっているのが、バイデン大統領の不在。オバマ政権時、オバマ大統領(当時)は、議会との折衝には興味がなく、基本、バイデン副大統領(当時)に丸投げしていたのは広く知られていますが、そんなオバマ大統領も、さすがに連邦政府閉鎖が発動されるかどうか、という瀬戸際には、自ら交渉に乗り出していました。ですが、今回、バイデン大統領は「連邦政府閉鎖になったら、それは共和党内部の問題」とでも言わんばかりに、少なくとも表面的には、一切、予算をめぐる折衝に関与する姿勢を見せません。それどころか、ワシントンでは予算をめぐる駆け引きが大詰めを迎えているというのに、25日(月)には、わざわざデトロイトまで行って、部分ストライキ中の労働者と並んでピケットラインに立ち、「労働者に優しいバイデン」をアピールするなど再選運動を意識していることがアリアリの動きをしていました。万が一、連邦政府閉鎖になれば、パスポート申請手続きや留学生ビザをはじめとする各種査証手続きは軒並み停止、国立公園閉鎖(ちなみに、スミソニアン博物館も閉鎖となります)など目に見えるインパクトだけではなく、全米に数十万人いる連邦政府職員は一時解雇となり、政府から契約を受注している企業への支払いもストップするなど、アメリカ経済へのインパクトは絶大。それどころか、米政府の信用格付けにも影響が出るのは必至です。

今週のアメリカ内政はそれだけではありません。27日(水)夜には、カリフォルニア州のレーガン大統領図書館で、フォックス経済ニュースと、ヒスパニック系放送局であるユニビジョンが共催した、第2回共和党候補討論会が開催されましたが、こちらも、アイオワ州で行われた初回を上回る大混乱。初回討論会に参加した8名から、ハッチンソン前アーカンソー州知事が脱落し、計7名が参加した討論会でしたが、開始後30分もたたないうちに、7名が入れ替わり立ち代わり、相手の発言を遮って口論に発展、それを司会が全く制御できないという「学級崩壊」状態に。結局「お互いがお互いの支持者を食い合っているだけで、誰もトランプ前大統領の支持者に食い込めていない」(某共和党系政治評論家)という評価の討論会となってしまいました。ヘイリー元国連大使は前回の討論会以降勢いを増し、今ではバイデン大統領との「仮想対決」において「6ポイント差でバイデン大統領に勝てる」という結果が一部の世論調査で出ています。ですが彼女以外では、早口で自分の言いたいことをまくし立て、会場にいた候補者全員の攻撃対象となるという図式に全く変化がないラムスワーミー候補、前回よりましとはいえ、相変わらず冴えないデサントス知事、自分に都合が悪いことを避ける、という文脈で使われることが多い「duck」という動詞にかこつけて、討論会をスルーし続けるトランプ前大統領を「ドナルド・ダック」と揶揄するも、今一つジョークとしては「切れ」がなかったクリスティー元知事・・・など、相変わらずです。トランプ前大統領の支持が、4回刑事起訴されても揺るがない理由が垣間見える討論会でした。

さらにアメリカの内政の混乱を印象付けるダメ押しとなったのが、28日に下院で始まったバイデン大統領に対する弾劾手続きに向けた審理です。銃の不法所持や脱税疑惑など、バイデン一家の「お騒がせ息子」のハンター・バイデン氏の事業から、バイデン大統領が経済的利益を得ていたのではないか、という疑惑を追及するために開始されたこの弾劾手続きに向けた審理、初日の今日は、公聴会が延々6時間も続きました。が、この公聴会に出廷した証人は、共和党側の証人として出廷した法律学者や会計士も、みな、一様に「議会は弾劾手続きに向けた審理を開始する権利がある」としつつも「現在、提示されている証拠は、大統領弾劾のために必要な要件に遠く及ばない」とはっきりと発言する始末。さらに、同じ共和党内でも、共和党上院議員は、一様に下院の動きには冷ややか。トランプ前大統領が弾劾されたことへの単なる仕返しとしか思えないバイデン大統領弾劾に向けたこの審理も、今後、迷走が予想されます。

バイデン大統領!労働者の皆さんと一緒にピケット張ってる場合じゃないような気がするのですが・・・・ハリス副大統領は何してるんでしょうかね・・・・

(了)


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員