外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年9月26日(火)

外交・安保カレンダー (9月25-10月1日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


今週の原稿は未明のローマ市内で書いている。今回は久し振りでイタリアとスペインという「南欧」地域に帰ってきた。40数年前エジプトでのアラビア語研修中、外務省の同期の連中がフランス、ドイツ、スペインなど地中海の反対側で「優雅?」な研修時代を過ごしているのだろうな、などと羨ましく思っていたことをふと思い出した。

でも、今考えてみると、地中海の南側と北側は、文化的にも、精神的にも、旧ローマ帝国の領域であって、実は両者にそれほど大きな違いはないのでは、とすら思う。これだから、旅行は面白い。ただ、これ以上言うと、南北双方に失礼になるかもしれないので詳しいコメントは慎むが、今回も多くのことを学ぶ旅になった。

さて、まずはいつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。夏休みが終わった欧米の専門家たちの今週の関心は次の通りだ。

9月25日 月曜日 トルコ大統領、アゼルバイジャン訪問し、首脳会談

【エルドアンが、長年支援してきたアゼルバイジャンを訪問してアリエフ大統領と会談した。、ナゴルノカラバフを巡る「アゼルバイジャンの勝利」に触れ、「(敗北した)アルメニアは地域の安定と平和に向け、誠実な措置を取ってほしい」と求めたなどと報じられた。相変わらずエルドアンの動きは興味深い。】

ベトナム首相、ブラジル訪問、ルラ大統領と会談

【ベトナム外交が面白い。首相はブラジルを訪問するが、最大の目的はブラジルを含む南米4カ国の関税同盟メルコスール(南部共同市場)との貿易協定締結だと言われている。ベトナムが中南米市場に関心を示すようになるとは、時代は変わりつつあるようだ。】

米大統領、U.S.-Pacific Islands Forum Summitを主催(26日まで)

【バイデン政権が中国に「荒らされてきた」太平洋島嶼国に対する働きかけを強めている。具体的には、通信用海底ケーブルなどのインフラ支援や気候変動対策への資金協力などの支援策を打ち出した。更に、南太平洋のクック諸島とニウエを新たに国家として承認し、外交関係を樹立するそうだ。何を今更とは思うが、やらないよりはマシである。】

9月26日火曜日 韓国で日中韓会合を主催

【日中韓の外務次官級協議をソウルで開くそうだ。議題としては韓国が主催する日中韓首脳会談の年内開催となるだろうが、今の中国に日中韓首脳会談という枠組みがどれほど魅力的かは微妙だろう。】

9月28日 木曜日 米国務長官、ワシントンでインド外相と会談

【最近の米印関係の進展は目覚ましいが、個人的にはカナダをめぐる問題をどう処理するかに関心がある。インド(シーク教)系カナダ人からの支援を重視するカナダ首相は、6月に国内でシーク教の指導者が殺害された事件を巡り、インドの工作員が関与した可能性があると公表した。しかも、当該情報については米国と非常に緊密に連携していたという。アメリカからすれば「そんなことを言われても・・」ということだろうが、結果はどうなるか。】

9月29日 金曜日 ドイツ首相、中央アジア五カ国首脳と会談

【中央アジア五カ国首脳といえば、先週米大統領もニューヨークで会っている。ドイツも対中関係との関連で中央アジアの重要性を理解している証拠だろう。正しい対応だと思う。】

9月30日 土曜日 モルディブ、大統領選決選投票を実施

【インド洋の島国モルディブで大統領選が決選投票となった。インドを重視する現職大統領と、中国との関係強化を訴える野党統一候補のどちらが勝つかは、今後のインド洋の安全保障にも影響があるだけに、要注目である。】

さて話をローマに戻そう。暑い東京から逃げてきたのに南欧も猛暑だったのはびっくりしたが、それ以上に驚いたことは、恥ずかしながら、「イタリアには独立国家が3つある」という当たり前の現実だった、イタリア共和国、サンマリノ共和国、そして最後がバチカン市国である。今回はバチカンから見える「中国」について書こう。

イタリアに来るまで、日米などとは違い、欧州諸国は「まだ中国に優しい」のではないかと感じていた。だが状況は変わりつつあるようで、今や欧州諸国も中国の現状を冷静かつ慎重に見始めたような気がする。先日のG20で中国首相は4人の欧州首脳としか会えず、しかも英、伊の両首相との首脳会談は予想以上に厳しかった。

英首相は中国のためのスパイ行為を働いた容疑で英国人2人が逮捕された件を「中国の干渉」と批判し、伊首相も「一帯一路」から離脱する意向を伝えたという、欧州人もようやく、中国経済について金融不安や成長鈍化の懸念が深刻化していることを理解し始めたのだろうか。

これに対し、バチカンの立場は一味も二味も違う。複雑な経緯を簡単にまとめるとこういうことらしい。

  • バチカンは中華人民共和国建国後、司教任命権を巡って1951年に中国と断交し、欧州で唯一、台湾と外交関係を持っている。
  • その後、バチカンと中国は交渉を続け、2018年には司教を「共同任命」する「暫定合意」が結ばれた。
  • 「暫定合意」は2020年10月と2022年10月にそれぞれ2年間延長された。
  • 「暫定合意」以前のバチカンは、中国公認教会が選んだ司教を原則として認めず、非公認でバチカンに忠誠を誓う地下教会の聖職者から司教を任命していた。
  • 「暫定合意」後は、従来は未承認だった中国独自の司教を容認し、公認教会の聖職者を新たに司教に任命している。
  • 台湾は、こうしたバチカンと中国の関係改善に警戒感を隠そうとしない。

このように、バチカンと中華人民共和国との関係は微妙である。今バチカンは公式には「台湾(中華民国)」と「外交関係」を結んでいるからだ。しかし、この点、バチカンの動きは慎重かつ、外交的に見ても極めて興味深い。それにしても、バチカンは何故かくも外交巧者なのか?

こちらへ来て理由が分かった。あるカトリックの大司教が1436年にまとめた「大使ハンドブック」という書物があるそうだ。そこにはカトリックの経験主義的原則として「勝者も敗者も作らない、紛争には中立を貫く、党派的行動を避ける、相手を選ばず対話する、慈善活動に従事する」ことと書いてあるらしい。バチカンは今もこの諸原則を忠実に守っているのだろう。

確かに、これらの諸原則は今も有効だ。15世紀に書かれたこの書物には既に「通行の自由、免税特権、身体不可侵」などの外交的概念の萌芽があるという。要するに、バチカンは実は「外交の先進国」なのだ。今回のウクライナ戦争は東方正教会の領域だが、バチカンの外交的智慧を過小評価してはならないと思った次第である。

 出張中でもあり、今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>


9月11日‐10月13日 人権理事会、第54回会議(ジュネーブ)
9月18日‐9月27日 人権理事会強制的または非自発的失踪作業部会、第131回会合(ジュネーブ)
9月18日‐10月6日 国際民間航空機関(ICAO)、第230回会合委員会段階(モントリオール)
9月18日‐11月17日 ICAO(国際民間航空機関)第224回航空委員会(モントリオール)
9月19日‐9月29日 第78回国連総会一般討論(米国・ニューヨーク)


9月
<9月25日‐10月1日>
25日 EU競争力担当相理事会(域内市場・産業)(ブリュッセル)
25日‐9月29日 UNCITRAL、第1作業部会(倉庫受入)、第40回会合(ウイーン)
25日‐9月29日 IAEA、第67回総会(ウイーン)
25日‐10月13日 経済的、社会的及び文化的権利委員会 第74回会議(ジュネーブ)
26日 米国2023年第3四半期GDP発表(速報値)
26日 総会の後援で開催された持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(SDGSサミット)(ニューヨーク)
26日 ウクライナ第2四半期雇用統計発表
26日‐9月29日 麻薬取締委員会、国家麻薬取締機関長会議(アフリカ)、第31回会合(アブジャ)
27日 ロシア1~8月鉱工業生産指数発表
27日 スペイン首相指名選挙
27日 メキシコ8月貿易統計発表
27日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、非金融政策(フランクフルト)
27日 米軍普天間飛行場の辺野古移設に関する国土交通相の沖縄県に対する是正勧告の期限
27日‐9月28日 EU一般問題理事会、非公式会合(ムルシア)
28日 米国2023年第2四半期GDP発表(確定値)
28日 メキシコ8月雇用統計発表
28日 EU司法・内務相理事会(ブリュッセル)
28日 ECB一般理事会(フランクフルト)
29日 9月のユーロ圏消費者物価指数(速報値)(EU統計局)
29日 8月の米個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
29日 8月の労働力調査
29日 9月の消費動向調査(内閣府)
29日 ブラジル8月全国家計サンプル調査発表
29日 トルコ8月貿易統計発表
29日 ウクライナ1~8月鉱工業生産指数発表
30日 1974年通商法301条に基づく対中追加関税の352品目に対する適用除外適用期限
30日 9月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(国家統計局)
30日 米国2023会計年度終了

10月
1日  中国の国慶節
2日 ユーロスタット、8月失業率発表
2日 23年度上半期と9月の新車販売台数(自販連・全軽自協)
2日‐10月4日 第2回ASEAN財務相・中央銀行総裁会議(AFMGM)および関連会議(インドネシア)
2日‐10月5日 欧州議会本会議(ストラスブール)
2日‐10月6日 国連貿易開発会議(UNCTAD)、プログラム計画及びプログラム実績に関する作業部会、第86回会合(ジュネーブ)
2日‐11月17日 総会、第6委員会、第78回会合(ニューヨーク)
2日‐12月11日 総会、第5委員会、第78回会合(ニューヨーク)
3日 国際法の教授、研究、普及、およびより広範な理解における国際連合援助プログラムに関する諮問委員会、第58回会合(ニューヨーク)
3日 WTOサービス貿易理事会
3日 ブラジル8月鉱工業生産指数発表
3日 トルコ9月CPI発表
3日‐10月6日 麻薬取締委員会、ラテンアメリカ・カリブ海諸国麻薬取締機関長会議、第31回会合(キト)
4日‐10月6日 女子差別撤廃委員会、女子差別撤廃条約選択議定書に基づく通報作業部会、第 57 回会合(ジュネーブ)
4日 ロシア2023年第2四半期需要項目別GDP(速報値)発表
4日‐10月18日 ユネスコ理事会第217回会合(パリー)
4日‐11月21日 大陸棚限界委員会、第59回会合(ニューヨーク)
5日 台湾9月CPI発表
5日 韓国9月CPI発表
6日 メキシコ9月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 欧州理事会非公式首脳会合(グラナダ)
6日 UNEP常設代表委員会第163回会合(ナイロビ)
9日 メキシコ9月CPI発表
9日 EU雇用社会政策・保健・消費者問題担当相理事会・雇用社会政策(ルクセンブルグ)
9日‐11月3日 人権委員会第、139回会合(ジュネーブ)
9日‐10月10日 2023年世界公衆衛生国際会議(マレーシア)
9日‐10月13日 UNCITRAL、第3作業部会(投資家対国家の紛争解決改革)、第46回会合(ウイーン)
9日‐10月13日 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、執行委員会、第74回会合(ジュネーブ)
9日‐10月13日 国連拷問被害者任意基金評議員会 第58回会合(ジュネーブ)
9日‐10月15日 IMF・世界銀行年次総会(モロッコ・マラケシュ)
9日‐10月27日 女性差別撤廃委員会第86回会合(ジュネーブ)
9日‐11月3日 人権委員会第139回会合(ジュネーブ)
10日‐10月13日 化学兵器禁止機関第104回理事会(デン・ハーグ)
11日 米FOMC議事要旨(9月19、20日開催分)(FRB)
11日 トルコ8月国際収支統計発表
11日 ブラジル9月IPCA発表
11日 ロシア9月CPI発表
11日 ウクライナ9月CPI発表
11日‐10月13日 ロシア・エネルギーウィーク(モスクワ)
12日 メキシコ8月鉱工業生産指数発表
12日 CIS外相会議(キルギス・ビシケク)
12日 インド8月鉱工業生産指数発表
12日 インド9月CPI統計発表
12日‐10月13日 G20財務大臣・中央銀行総裁会議(マラケシュ)
12日‐10月13日 アフリカにおけるSTI4SDGsロードマップの能力構築と採用拡大に関するワークショップ(アディスアベバ)
13日 CIS首脳会議(ビシケク)
13日 フランス9月CPI発表
13日 中国9月貿易統計発表
13日 中国9月CPI発表
13日‐10月15日 IMF・世界銀行年次総会(モロッコ・マラケシュ)
15日 サウジアラビア9月CPI発表
16日 トルコ9月中央政府予算
16日 EU環境相理事会(ルクセンブルグ)
16日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルグ)
16日‐10月20日 第16回ASEAN中小企業調整委員会(ACCMSME)会議および関連会議(シンガポール)
16日‐10月20日 UNCITRAL、第4作業部会(電子商取引)、第66回会合(ウイーン)
17日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルグ)
18日 中国第3四半期経済指標(GDP、固定資産投資、社会小売品販売総額等)発表
18日 英国9月CPI発表
18日 ブラジル8月月間小売り指数発表
18日 ユーロスタット、9月CPI発表
19日 拷問及びその他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約の締約国、第19回会合(ジュネーブ)
19日‐10月20日 EU外相理事会・非公式会合(バレンシア)
19日‐10月20日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルグ)
20日 メキシコ8月小売・卸売販売指数発表
20日 ウクライナ1~8月貿易統計発表
22日 アルゼンチン大統領選挙本選、アルゼンチン州知事選挙(ブエノスアイレス州・カタマルカ州・エントレ・リオス州)、ブエノスアイレス自治市長選挙(アルゼンチン・ブエノスアイレス市)
23日 EU外相理事会(ルクセンブルグ)
23日‐10月24日 EU農水相理事会(ルクセンブルグ)
23日‐10月24日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会 非公式会合(レオン)
23日‐10月27日 人権に関する多国籍企業およびその他のビジネス企業に関する法的拘束力のある文書を作成するためのオープンエンドの政府間作業部会、第9回会合(ジュネーブ)
24日 EU一般問題理事会(ルクセンブルグ)
24日‐10月27日 麻薬取締委員会、アジア太平洋麻薬取締機関長会議 第45回会合(バリ島)
25日 ロシア1~9月鉱工業生産指数発表
25日 サウジアラビア8月貿易統計発表
26日 トルコ中銀金融政策会議
26日 メキシコ9月雇用統計発表
26日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(アテネ)
26日‐10月29日 エコ・エキスポ・アジア(香港、現地開催)
26日‐10月27日 欧州理事会(ブリュッセル)
27日 ロシア中央銀行理事会
27日 メキシコ9月貿易統計発表
28日‐10月29日 G7貿易大臣会合(日本・大阪・堺)
29日 トルコ9月貿易統計発表
30日‐11月17日 ICAO、第230回理事会(モントリオール)
30日‐10月31日 EU競争力担当相理事会・非公式会合(観光)(パルマ)
30日‐10月1日  日銀金融政策決定会合(日銀、31日まで)
30日‐11月1日 人権理事会、開発への権利に関する専門家メカニズム、第8回会合(ジュネーブ)
31日 ブラジル9月全国家計サンプル調査発表
31日 フランス第3四半期実質GDP成長率(速報値)発表
31日 ドイツ第3四半期実質GDP成長率(速報値)発表
31日 国連環境計画(UNEP)常設代表委員会第163回会合(ナイロビ)
31日 UNEP常設代表委員会第162回会合再開(ナイロビ)
31日‐11月1日 ブラジル中央銀行、Copom
31日‐11月1日 米国FOMC
31日‐11月17日 第138回国際麻薬統制理事会(ウイーン)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問