外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年9月22日(金)

デュポン・サークルだより(9月21日)

[ デュポン・サークル便り ]


レーバー・デイの3連休を境に、ワシントン近郊は一気に秋めいてきました。最後の最後まで夏にしがみつくかのように週末だけ開いていた私営プールも、先週末で全て閉鎖となり、郊外では朝晩は吐く息が白く見えるほどひんやりするようになりました。東京はまだまだ夏日が続いているようですが、日本の皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

先週から今週にかけて、外交で一番の話題は、なんといっても北朝鮮の金正恩総書記のロシア訪問と露朝首脳会談でした。首脳会談時の写真はもちろん、ショイグ国防相案内のもと、ロシアの最新兵器を、時には満面の笑みを浮かべながら視察する金正恩総書記の写真なども、広く報道されましたが、話題に多く上っていたのは、プーチン大統領の「変節」。これまでは外国首脳との会談に臨む際、会談相手に待ちぼうけを食らわせ、わざと遅れて会場入りして「自己主張」することで有名だったプーチン大統領が、金正恩総書記が乗った列車を出迎えるため、列車到着時刻より前に姿を現している映像は、外交の場で「もはや北朝鮮ぐらいにしか相手にしてもらえないロシア」を強く印象付けるものとなりました。

トップニュース扱いでも全く不思議ではない露朝首脳会談でしたが、今のアメリカは毎週、内政問題で何かしら大きなニュースがあるため、外交問題関連のニュースは二の次、三の次。一番話題を集めたのは、アメリカがイランとの人質交換交渉に成功し、イラン系アメリカ人5名がアメリカに帰国を果たしたというニュースでした。

連邦政府閉鎖まで残すところあと9日ところとなり、来年度の予算をめぐる交渉も待ったなしの状況になっていますが、下院共和党の保守派議員たちは全く妥協するそぶりすらみせません。それどころか、自分たちの主張どおり、歳出大幅削減を実現できなければ、ケビン・マッカーシー下院議長を追い落とすことも辞さないぐらいの勢いです。

実は歳出削減のまな板にしっかりと乗っているのが、来年度以降の対ウクライナ軍事支援です。上院では、ウクライナに対する支援を継続するべきという超党派の合意が存在しますが、下院では、特に問題の共和党保守派を中心に「無制限の支援はそろそろやめるべき」という声が高くなってきており、上院と下院では立場に大きな隔たりがあります。そんな議会を説得するために、国連総会一般演説に登壇した翌21日、ウクライナのゼレンスキー大統領はワシントン入り。バイデン大統領との首脳会談に臨む前に議会を訪問し、対ウクライナ支援の継続を訴えましたが、どうなることやら。

 そんな下院共和党保守派からの有形無形のプレッシャーを感じたのか、なんとマッカーシー下院議長は、バイデン大統領の弾劾に関する審査を開始することを決定しました。919日には、さっそく、政府側の最初の証人としてメリック・ガーランド司法長官が下院司法委員会に呼ばれ、数時間にわたり緊張したやり取りが行われました。「司法省は大統領の弁護団ではありません。また、議会を代弁する検察官の役割も果たしません」議員からの質問に厳しい口調で答えるガーランド長官の発言は、19日の夕方から翌20日朝のトップニュースとして何度も何度も放送されました。

トランプ前大統領関連ニュースも相変わらず豊富です。第1回共和党大統領候補討論会は8月にアイオワ州で行われたのですが、第2回目は927日にカリフォルニアのレーガン大統領図書館で行われます。前回は8名が参加した討論会、今回は共和党全国委員会が参加資格を少し引き上げ「世論調査での支持率3%以上、ドナー数50000人以上」としたため、この基準に達していないダグ・バーマン元ノースダコタ州知事と、エイサ・ハッチンソン前アーカーソー州知事が脱落して、ロン・デサントス・フロリダ州知事、ヴィヴェック・ラミスワーミー候補、ニッキー・ヘイリー元国連大使、マイク・ペンス前副大統領、ティム・スコット上院議員、クリス・クリスティー元ニュージャージー州知事の6名が参加することになります。

ですが、トランプ前大統領は引き続き、この討論会をスキップ。第1回目討論会の時は「裏番組」よろしく、タッカー・カールソン元FOXニュース・アンカーマンとの対談番組をオンラインで流していましたが、今回はデトロイトで労働組合員との対話集会を行う予定とか。デトロイトと言えば、アメリカの3大自動車企業と労働組合が賃金改正などをめぐる交渉を続けており、一部ストライキが発動されたばかりの話題の地域です。ここでわざわざ集会をやるというのも、トランプ前大統領らしい動きで、ここで彼が何を言うのかも注目されます。

アメリカ内政が大騒ぎの中、なんと、一番存在感がないのがバイデン大統領・ハリス副大統領の現職コンビ。一応、再選に向けて動き出しているはずの現職コンビが、こんなに存在感がなくて大丈夫なのでしょうか・・・                                 


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員