キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2023年9月12日(火)
[ 2023年外交・安保カレンダー ]
今週は先週末インドで開かれたG20ニューデリーサミットを取り上げるが、その前に重要なことを。モロッコでの地震の犠牲者が2800人を超えたことに、元中東屋として特に心を痛めており、この場をお借りしてモロッコ国王、政府、国民に対し衷心よりお見舞いと哀悼の意を表したい。
さて、続いては2週間お休みしてしまったが、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心は次の通りだ。
9月12日 火曜日 金正恩がウラジオストクを訪問しプーチンと会談(13日まで)
エネルギーと武器技術が欲しい北朝鮮と、武器・弾薬(と兵士?)が欲しいロシアの思惑が一致したということかね。以前ならプーチンは北朝鮮など歯牙にもかけなかったろうに、ロシアも落ちるところまで落ちたものだ。「貧すれば鈍する」の典型か?
9月13日 水曜日 ロシア主催の「東方経済フォーラム」が4日の日程を終え閉幕
今年は金正恩以外に一体誰がロシアに来るのだろう。その点が最も興味深い
EU委員長が年次演説
彼女はウクライナについて何というのか、EU内に亀裂はないのか、が気になる
岸田首相、内閣改造
以前なら、欧米のメディアの関心が日本の内閣改造に向くことはあまりなかったと思う。時代は変わったのだ。
9月14日 木曜日 ベネズエラ大統領、訪中終える
中国が中南米の反米政権を取り込もうとする一環だろうが、世界最大の原油確認埋蔵国を自称するベネズエラは「中国の支援を得てBRICSに加わりたい」のだそうだ。昔ベネズエラはこんな国ではなかったのだが……。
9月15日 金曜日 クリミア併合を受けたEUの対露高官制裁が失効
2014年のクリミア併合でEUはロシア政府高官などに対し渡航禁止と資産凍結などの制裁を課したが、その期限が15日にやってくるそうだ。当然延長だろうが、問題はあれから既に9年も経ったということ。日米欧豪などは露政府関係者やオリガルヒらへの制裁を強化すべく事務レベル作業部会を開いた。戦争はまだまだ続くのだ。
キューバ、G77+中国首脳会合を主催(16日まで)
今回、新興国中心の国連の枠組「77カ国グループ(G77)プラス中国」の首脳会議を主催するのはこれまた反米のキューバだ。中国はBRICsやG77などを使い、着々と反欧米陣営作りを進めているが、今回のキューバ会合に具体的成果はあるかね。
9月16日土曜日 NATO国防相会合(オスロ)
9月18日月曜日 インド議会の特別会合始まる(一週間)
トルコとギリシャの首脳が国連総会の前にニューヨークで会談
両国は同じNATO加盟国ながら、歴史的には宿敵同士。だが米国務長官は本年2月、対立するギリシャとトルコに対し「相違を克服し、緊張を高めかねない一方的な行動を避ける」よう求めていた。米外交の努力が実ったのか、それとも、いつものエルドアンの気紛れなのか。いずれにせよ要注意である。
さて話をG20サミットに戻そう。内外報道では「ニューデリー首脳宣言はロシアを名指し非難しておらず、昨年と比べトーンが後退した」などと報じられたが、本当にそうなのか。記事を書いた記者たちは昨年分も含め、首脳宣言を全文精読したのか。英文で34ページ、83パラグラフもある今回の宣言を丹念に読めば答えは明瞭だ。
昨年の首脳宣言だって精読すれば、決してロシアを「名指し非難」などはしていない。一時は採択すら危ぶまれた宣言だが、実際には会合初日に採択されている。さすがはインドだが、筆者は今回の宣言も内容的に「決して悪くはなかった」と考えている。その理由は以下の通りだ。
ニューデリー宣言中「ウクライナ部分」はわずか1ページ弱。中国はもちろん、台湾への言及もなく、宣言の大半は経済関連だ。そもそもG20は経済サミットで、基本的に政治問題は取り扱ってこなかった。今年の宣言でもG20は「地政学的及び安全保障問題を解決するためのものではない」とわざわざ述べている。
確かに今年の宣言は、ロシアを名指しで言及せず関連する国連決議を再確認するのみだ。しかし、「領土取得を追求するための武力による威嚇又は武力の行使」を「慎む」とされた「全ての国」の中には当然ロシアや中国も含まれる。今年は内容的により踏み込んでいるのではないか。
逆に、昨年の宣言は必ずしも「ロシアを名指しで非難」していない。多くの参加国が「ロシアのウクライナ侵略を遺憾」と決議した国連総会などの場で「自国の立場を改めて表明」したが、ロシアは反論した、と説明しているだけ。ウクライナ戦争を「強く非難」したのも「ほとんどのG20メンバー」とある。G20の意見は一致していないのだ。
むしろ、筆者が最も感心したのはバイデン米政権の絶妙なインド・中東外交と、日本の動きだ。米CNNの解説者は、G20首脳会合中に外相をウクライナに派遣した日本外交を高く評価していた。詳細は今週の日経ビジネスに寄稿した小論をご一読願いたい。
今週はこのくらいにしておこう。
〈今週以前から続く会議〉
7月31日‐9月15日 軍縮会議第3部(ジュネーブ)
9月4日‐9月15日 国際刑事裁判所ローマ規程締約国会議 予算・財務委員会 第40回会合(デン・ハーグ)
9月4日‐9月22日 子どもの権利委員会第94回会議(ジュネーブ)
9月5日‐9月11日 会議委員会、実質的なセッション(ニューヨーク)
9月10日‐9月11日 インド太平洋経済枠組み(IPEF)首席交渉官会合(バンコク)
9月10日‐9月13日 東方経済フォーラム(ロシア・ウラジオストク)
〈9月11日‐17日〉
11日 メキシコ7月鉱工業生産指数発表
11日 トルコ7月国際収支統計発表
11日‐12日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、国際協力作業部会第14回会合(ウイーン)
11日‐14日 欧州議会本会議(ストラスブール)
11日‐15日 IAEA理事会(ウイーン)
11日‐15日 法執行における人種的正義と平等を推進するための国際独立専門家メカニズム、第2回会合(ジュネーブ)
11日‐22日 強制失踪委員会、第25回会合(ジュネーブ)
11日‐10月13日 人権理事会、第54回会議(ジュネーブ)
12日 英国労働市場統計(5~7月)発表
12日 米国9月CPI発表
12日 ウクライナ8月CPI発表
12日 インド8月CPI統計発表
12日 ブラジル8月IPCA発表
12日‐13日 国連ウィメン理事会第2回定例会合(ニューヨーク)
12日‐15日 MIHAS 2023(クアラルンプール)
13日 パレスチナの暫定自治を認めた「オスロ合意」から30年
13日 米国8月CPI発表
14日 サウジアラビア8月CPI発表
14日 米国8月小売売上高統計発表
14日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
14日‐15日 中央アジア諸国首脳会議(タジキスタン・ドゥシャンベ)
15日 米国財務省、為替政策報告書の連邦議会提出期限
15日 トルコ8月中央政府予算
15日 フランス8月CPI発表
15日 ロシア中央銀行理事会
15日 ブラジル7月月間小売り指数発表
15日 中国8月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
15日‐16日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会、非公式会合(サンティアゴ・デ・コンポステーラ)
17日 米国9月小売売上高統計発表
〈9月18日‐24日〉
18日‐19日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
18日‐19日 SDGsサミット2023(ニューヨーク)
18日‐22日 UNCITRAL、第1作業部会(倉庫受入)、第40回会合(ウイーン)
18日‐27日 人権理事会強制的または非自発的失踪作業部会、第131回会合(ジュネーブ)
18日‐10月6日 国際民間航空機関(ICAO)、第230回会合委員会段階(モントリオール)
18日‐11月17日 ICAO(国際民間航空機関)第224回航空委員会(モントリオール)
19日 国土交通省が基準地価を公表
19日 ユーロスタット、8月CPI発表
19日 ウクライナ1~7月貿易統計発表
19日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
19日‐20日 米国FOMC
19日‐20日 ブラジル中央銀行、Copom
19日‐21日 IFAD理事会第139回会合(ローマ)
19日‐29日 第78回国連総会一般討論(米国・ニューヨーク)
20日 英国8月CPI発表
20日 総会、パンデミック予防・準備・対応に関するハイレベル会合(ニューヨーク)
20日 8月の貿易統計(財務省)
20日 総会、第8回開発資金に関するハイレベル対話(ニューヨーク)
20日‐21日 ASEAN+3タスクフォース会議(インドネシア)
21日 日越外交樹立50周年記念日
21日 総会、国民皆保険に関するハイレベル会合(ニューヨーク)
21日 スイス中銀が金融政策発表
21日 石油製品価格調査(経産省)
21日 トルコ中銀金融政策会議
21日 サウジアラビア7月貿易統計発表
21日 メキシコ7月小売・卸売販売指数発表
21日‐22日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会 非公式会合(バルセロナ)
21日 英中銀金融政策委員会が金融政策と議事録を発表
22日 8月の全国消費者物価指数(総務省)
22日 第12回包括的核実験禁止条約発効促進会議(ウィーン/ニューヨーク)
22日 総会、結核との闘いに関するハイレベル会合(ニューヨーク)
24日 長野県岡谷、大阪府東大阪各市長選投開票
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問