キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2023年9月5日(火)
[ 2023年外交・安保カレンダー ]
今週月曜日はアメリカのレイバーデーで休日となる。先週お休みを頂いた「欧米から見た今週の世界の動き」は今週もお休みとなる。ご容赦願いたい。
さて、筆者の今週の関心事はやはりASEAN首脳会議からG20首脳会議へと続く一連の主要国首脳外交の行方だ。先ほど中国外交部は「習近平国家主席がG20には出席しない」と発表したらしい。過去10年間必ず自ら出席してきただけに、習国家の欠席は各国政府・メディアとも、かなりの驚きだったのではないか。
でも何故、出席しないのか。いや、出席「できない」のではないか。「内憂外患」で出席どころではない、というのが筆者の見立てだ。今中国経済は低迷している。その理由は、輸出の減少、不動産市場の低迷、個人消費の回復力欠如、過剰債務問題など。コロナ禍流行が峠を越えても、中国経済は簡単には再生しそうにない。
問題は経済というよりも、むしろ社会政治的なものである。過去30年間高度経済成長を享受してきた中国でも、ついに成長率の低下が始まった。しかも、人口はこれ以上増えない。されば、これまでのような経済成長も、生産の増大も、消費の拡大、雇用の拡大も今後は期待できないだろう。
このままでは中国国民は閉塞感を一層強め、共産党への信頼が揺らぐ可能性すらあるのでは……。しかも、中国では森羅万象が「政治化」されており、政治、経済、社会の重要決定は習国家主席にしか下せない。こんな状態でG20に出席しても国際的に面子を潰されるのがオチだから、内心は恐らく「行きたくない」のだろう。
経済悪化で最も打撃を受けるのが少数民族だ。習国家主席は先週BRICS首脳会合の帰路、何とウイグル自治区に立ち寄った。同地訪問は過去二年間で二度目、新疆で何かが起きていると考えるのは意地の悪い妄想だろうか。前回書いた通り、特に驚いたのは習主席が再び言及した「イスラム教の中国化」なる概念である。
預言者ムハンマドの言葉をまとめたコーランはアラビア語で書かれているが、イスラム教には「国籍」などない。イスラム教は一神教であり、その宗教の教義や神学などを「中国化」するという発想自体、中国共産党の指導部が「イスラム教」を理解できていない証拠だろう。
一神教の本質は、被造物たる人間と絶対神との契約であり、その内容は普遍的なものだ。この神との契約から生まれたキリスト教とイスラム教は、基本的に世界共通であり、特定の国家に従属することはない。21世紀の世界でイスラム教を「特定の国家のオリエンテーションに変質させる」ことなど、そもそも不可能なのだ。
こう考えれば、先週書いた通り、今回の日本に対する「非科学的」批判もイスラム教の「中国化」政策も、コロナ後の中国社会で高まりつつある「共産党失政」への民衆の不満を逸らすため、としか思えない。今後とも、中国国内の動向には目が離せないだろう。国内の不安定は中国自身だけでなく、世界全体にとって有害である。
〇アジア
今週のASEAN首脳会議では南シナ海問題が議論され、一部加盟国は中国が最近公表した領土・領海を示す新地図につき問題提起する方針だという。それにしても、多くの国を敵に回すような地図をなぜわざわざ首脳会議直前に発表するのか。そうした圧力が逆効果になることを中国共産党の幹部はなぜ分からないのだろうか。
〇欧州・ロシア
トルコ大統領がロシア南部ソチを訪れプーチン大統領と会談し、ウクライナ産穀物の黒海経由輸出合意への復帰を直接働きかけたらしいが、結果は不調だった。7月にロシアが同合意から離脱して以来、ロシアの強硬姿勢は変わらない、というか、ロシア側も相当切羽詰まっているのではなかろうか。
〇中東
中東訪問中の林芳正外相にヨルダン副首相兼外務・移民相が福島第一の処理水について、「日本が国際的基準を順守して実施していくことを信頼している」と述べたそうだ。当然ではあるが、先代のフセイン国王の時代からヨルダンは良識の国だと思う。こんな話を聞くたびに如何に中国が理不尽な国か良く分かる、ということだろう。
〇南北アメリカ
米紙WSJの世論調査では、今年既に4度起訴されているトランプ氏が大統領選の最有力候補と見る共和党有権者が4月の48%から59%に増えたという。起訴でトランプ氏に投票する可能性が高まったとする人は48%だそうだ。「極端な候補者は予備選で勝っても本選では負ける」というジンクスはトランプには通用しないようだ。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
〈今週以前から続く会議〉
7月31日‐9月15日 軍縮会議第3部(ジュネーブ)
8月14日‐9月8日 障害者権利委員会第29回会合(ジュネーブ)
8月31日‐9月4日 ローマ教皇がモンゴル初訪問
9月1日‐9月5日 独家電見本市IFA報道公開、一般公開(ベルリン)
〈9月4日‐10日〉
4日 トルコ8月CPI発表
4日 ガボン暫定大統領就任
4日 レーバーデー(労働者の日)(米市場休場)
4日 ロシア・トルコ首脳会談(ロシア南部ソチ)
4日‐7日 ASEAN外相会議(ジャカルタ)
4日‐7日 第43回ASEAN首脳会議(ジャカルタ)
4日‐7日 RCEPサミット(ジャカルタ)
4日‐7日 ASEANビジネス投資サミット
4日‐8日 国連腐敗防止条約締約国会議、国際協力強化のための公開政府間専門家会合、第12回会合(ウイーン)
4日‐15日 国際刑事裁判所ローマ規程締約国会議 予算・財務委員会 第40回会合(デン・ハーグ)
4日‐22日 子どもの権利委員会第94回会議(ジュネーブ)
5日 岸田文雄首相がインドネシア、インド訪問に出発(11日帰国)
5日 7月の家計調査(総務省)
5日 第78回国連総会開幕(ニューヨーク)
5日 ブラジル7月鉱工業生産指数発表
5日 米国8月貿易統計発表
5日‐7日 原子力に関する規制機関のASEANネットワーク(ASEANTOM)第10回年次総会(インドネシア)
5日‐8日 台湾総統がエスワティニ訪問
5日‐8日 ユニセフ理事会第2回定例会合(ニューヨーク)
5日‐11日 会議委員会、実質的なセッション(ニューヨーク)
6日 米国7月貿易統計発表
6日‐7日 社会経済的側面を含む海洋環境の現状に関する世界的な報告及び評価のための定例プロセスに関する全体特別作業部会、第19回会合(ニューヨーク)
6日 日・ASEAN首脳会議、日中韓・ASEAN首脳会議(ジャカルタ)
6日 日中韓・ASEAN首脳会議(以上ジャカルタ)
6日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(米連邦準備制度理事会=FRB)
6日 防衛装備品の輸出ルール緩和に関する与党実務者協議(院内)
6日 石油製品価格調査(経産省)
6日 防衛装備品の輸出ルール見直しに関する与党実務者協議
7日 中国8月貿易統計発表
7日 サウジアラビア2023年第2四半期GDP統計発表
7日 政府がガソリン高対策で新激変緩和措置を発動
7日 7月の景気動向指数速報(内閣府)
7日 メキシコ8月CPI・自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 ユーロスタット、第2四半期実質GDP成長率発表
7日‐10日 先進7カ国(G7)下院議長会議が開幕(東京都、京都府)
8日 4~6月期のGDP改定値(内閣府)
8日 7月の国際収支(財務省)
8日 7月の毎月勤労統計調査速報(厚労省)
8日 8月の企業倒産(民間信用調査会社)
8日 8月の景気ウオッチャー調査(内閣府)
8日 処理水海洋放出巡り衆参で閉会中審査
8日 ロシア8月CPI発表
8日 ロシア第2四半期GDP(速報値)発表
9日 中国8月CPI発表
9日‐10日 G20首脳会合(G20サミット)(インド・ニューデリー)
10日 ロシア統一地方選挙
10日 山形市長選投開票
10日‐11日 インド太平洋経済枠組み(IPEF)首席交渉官会合(バンコク)
10日‐13日 東方経済フォーラム(ロシア・ウラジオストク)
10日 ユネスコ世界遺産委員会(リヤド)
〈9月11日‐17日〉
11日 メキシコ7月鉱工業生産指数発表
11日 トルコ7月国際収支統計発表
11日‐12日 国際組織犯罪防止条約締約国会議、国際協力作業部会第14回会合(ウイーン)
11日‐14日 欧州議会本会議(ストラスブール)
11日‐15日 IAEA理事会(ウイーン)
11日‐15日 法執行における人種的正義と平等を推進するための国際独立専門家メカニズム、第2回会合(ジュネーブ)
11日‐22日 強制失踪委員会、第25回会合(ジュネーブ)
11日‐10月13日 人権理事会、第54回会議(ジュネーブ)
12日 英国労働市場統計(5~7月)発表
12日 米国9月CPI発表
12日 ウクライナ8月CPI発表
12日 インド8月CPI統計発表
12日 ブラジル8月IPCA発表
12日‐13日 国連ウィメン理事会第2回定例会合(ニューヨーク)
12日‐15日 MIHAS 2023(クアラルンプール)
13日 パレスチナの暫定自治を認めた「オスロ合意」から30年
13日 米国8月CPI発表
14日 サウジアラビア8月CPI発表
14日 米国8月小売売上高統計発表
14日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会、金融政策(フランクフルト)
14日‐15日 中央アジア諸国首脳会議(タジキスタン・ドゥシャンベ)
15日 米国財務省、為替政策報告書の連邦議会提出期限
15日 トルコ8月中央政府予算
15日 フランス8月CPI発表
15日 ロシア中央銀行理事会
15日 ブラジル7月月間小売り指数発表
15日 中国8月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
15日‐16日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会、非公式会合(サンティアゴ・デ・コンポステーラ)
17日 米国9月小売売上高統計発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問