外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年8月29日(火)

外交・安保カレンダー(8月28日-9月3日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


いつもなら、欧米から見た今週の世界の動きから始めるところだが、今週は時間の関係でお休みさせて頂く。筆者の今週の関心事はやはり福島第一処理水放出に対する中国の信じ難い反応だ。大多数の日本人は驚きを越えて、あっけにとられたに違いない。

8月24日、中国は日本からの水産物を全面禁輸しただけでなく、25日には国内食品業界の経営者に対し、日本の水産物の加工や調理、販売を禁じる追加措置を発表した。IAEAが日本のALPS処理水海洋放出を「国際的安全基準に合致」と判断し、韓国ですら日本に対し放出を止めよとは言わなかったのにも関わらず、である。

中国は「日本政府は国際社会の強烈な疑問と反対を顧みず、一方的に核汚染水の海洋放出を強行した」というが、彼らの言う「国際社会の強烈な疑問と反対」など存在しないし、そもそも、放出水は「核汚染水」ではなく、自然界にも存在するトリチウムを除き、最新の科学的手法により安全に処理された水である。

現時点での情報に基づく限り、中国側は日本に対する一方的非難のみで科学的根拠は示さない。中国にも原子力発電所はあり、日本と同様、トリチウムを含む処理水を放出しているはずだ。事故があってもなくても、トリチウムに関する限り、処理の方法は変わらない。日本の処理水が駄目なら、中国の処理水もダメなはずである。

それだけではない。中国にある日本の公館には抗議文、レンガ片や生卵の投げ込み、などの嫌がらせが続いているそうだが、中国側が取り締まったとは聞かない。更に、驚くべきは各地の 日本人学校・児童に対する嫌がらせだ。爆破予告や敷地内への投石、生卵の投げ入れ、登校中の児童に対する罵倒など、およそ文明国とは思えない理不尽な攻撃が続いている。あーあ、また始まったというのが筆者の見立てだ。

現在中国は経済的に低迷している。その理由は輸出の減少、不動産市場の低迷、個人消費の回復力欠如、過剰債務問題という4つの要因が複合的に経済成長を減速させているからだ。コロナ禍の流行が峠を越えても、中国経済は簡単には再生しない。こうした状況が中国国民の閉塞感を一層高めていることは想像に難くない。

一方、この経済状況は平成期の日本の「バブル崩壊」後に起きた「失われた30年」とは異なる。今の中国にはまだ生産性向上の余地があると見られるからだ。中国経済は「高成長から中成長へ移行」しつつあるのであり、1990年代以降の日本のようなデフレ突入による長期低迷に陥るとは限らない。この点、希望的観測は禁物だ。

問題は経済というよりも、むしろ社会政治的なものだ。中国でもついに成長率の低下が始まった。しかも、人口はこれ以上増加しない。されば、これまでのような経済成長も、生産の増大も、消費の拡大、雇用の拡大も期待できない。こうした閉塞感の中で多くの人々が不安や政府に対する不信を高めるのは当然だろう。

そうだとすれば、今回の日本に対する「非科学的な言いがかり」は新たな国内政治キャンペーンなのではないのか。科学的根拠もなく国民の「反日感情」を煽ることは、最近のコロナ後の中国社会で高まりつつある民衆の「共産党による失政」への不満を逸らすためではないのか。だとすれば、日本は中国の政治キャンペーンに屈する必要はないだろう。

〇アジア
習近平国家主席がウルムチを訪問し、「イスラム教の『中国化』を推進し、違法な宗教活動を効果的に取り締まるべし」と指示したそうだ。でも、イスラム教の「中国化」とは一体何なのか。神との契約に基づくイスラム信仰に「国籍」はない。それを「中国化する」というなら、あの人たちはイスラムを全く理解していない、ということである。

〇欧州・ロシア
ウクライナは南部で南下を目指す「ザポリージャ戦線」上の集落ロボティネを完全に奪還したと発表した。ロシア軍が築いた地雷原や塹壕など強固な防御陣地を突破したのだとすれば、ウクライナ軍にとって良いニュースだろう。だが、戦争には相手がいる。ロシア軍を過少評価することだけは避けなければ・・・。状況はまだわからない。

〇中東
イスラエル外相がリビア西部トリポリに拠点を置く暫定政権の外務・国際協力相と会談した。両国外相の会談は初めて、イタリアが仲介しローマで2国間の協力関係などを協議したそうだ。リビアで反対運動が起きるのは当然としても、他のアラブ諸国は黙っている。イスラエル国家の認知は既に流れになっている、ということか。

〇南北アメリカ
ワシントン連邦地裁はトランプ氏らを被告人とする事件の初公判を来年34日に開くという。当日は大統領選挙「スーパーチューズデー」の前日、これほど政治的影響の大きい日程を平然と決めるのだから、「司法の政治化」というトランプ陣営の批判にも一理はあるということかね。かかる政治的動きは逆効果にしかならないのでは?

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

〈今週以前から続く会議〉
7月31日‐9月15日 軍縮会議第3部(ジュネーブ)
8月14日‐9月8日 障害者権利委員会第29回会合(ジュネーブ)
8月21日‐9月1日 情報通信技術の犯罪目的使用への対処に関する包括的国際条約策定特別委員会、第6回会合(ニューヨーク)
8月21日‐9月1日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会 作業部会Bおよび非公式・専門家会合、第60回会合(ウイーン)

〈8月28日‐9月3日〉
8月
28日 メキシコ7月貿易統計発表
28日 経団連北海道経済懇談会
28日 情報通信審議会総会(総務省)
28日‐9月1日 UNDP/UNFPA/UNOPS理事会 第2回定例会合(ニューヨーク)
28日‐9月1日 人権理事会 恣意的拘禁作業部会 第97回会合(ジュネーブ)
29日 メキシコ第2四半期GDP発表
29日 7月の労働力調査(総務省)
29日 7月の有効求人倍率(厚労省)
29日 「超低排出ゾーン(ULEZ)」が英ロンドン市全域に拡大
30日 米国2023年第2四半期GDP発表(改定値)
30日 8月の消費動向調査(内閣府)
30日 石油製品価格調査(経産省)
30日‐31日 独家電見本市IFA報道公開
31日 2024年度予算概算要求締め切り
31日 7月の鉱工業生産・出荷・在庫指数速報(経産省)
31日 メキシコ7月雇用統計発表
31日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表
31日 ドイツ7月労働市場統計発表
31日 インド2023年度第1四半期GDP発表
31日 ローマ教皇がモンゴル初訪問に出発
31日 8月のユーロ圏消費者物価指数(速報値)(午前11時、EU統計局)
31日 8月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)(午前9時半、国家統計局)
31日 UBS決算
31日‐9月4日 ローマ教皇がモンゴル初訪問

9月
1日 ウクライナ1~7月鉱工業生産指数発表
1日 4~6月期の法人企業統計(財務省)
1日 SBI新生銀行の臨時株主総会(都内)
1日 シンガポール大統領選
1日 政府の総合防災訓練
1日 米国8月雇用統計発表
1日 ブラジル第2四半期GDP発表
1日 米国2024会計年度開始
1日‐5日 独家電見本市IFA報道公開、一般公開(ベルリン)
3日 第43回ASEAN首脳会議に向けたASEAN経済共同体(AEC)理事会(ジャカルタ)
3日 ロシアの「軍国主義日本に対する勝利と第2次大戦終結の日」
3日 中国の「抗日戦勝記念日」
3日 山形市長選告示(10日投開票)

〈9月4日‐10日〉
4日 トルコ8月CPI発表
4日‐7日 ASEAN外相会議(ジャカルタ)
4日‐7日 第43回ASEAN首脳会議(ジャカルタ)
4日‐7日 RCEPサミット(ジャカルタ)
4日‐7日 ASEANビジネス投資サミット
4日‐8日 国連腐敗防止条約締約国会議、国際協力強化のための公開政府間専門家会合、第12回会合(ウイーン)
4日‐15日 国際刑事裁判所ローマ規程締約国会議 予算・財務委員会 第40回会合(デン・ハーグ)
4日‐22日 子どもの権利委員会第94回会議(ジュネーブ)
5日 ブラジル7月鉱工業生産指数発表
5日 米国8月貿易統計発表
5日‐7日 原子力に関する規制機関のASEANネットワーク(ASEANTOM)第10回年次総会(インドネシア)
5日‐8日 ユニセフ理事会第2回定例会合(ニューヨーク)
5日‐11日 会議委員会、実質的なセッション(ニューヨーク)
6日 米国7月貿易統計発表
6日‐7日 社会経済的側面を含む海洋環境の現状に関する世界的な報告及び評価のための定例プロセスに関する全体特別作業部会、第19回会合(ニューヨーク)
6日 日・ASEAN首脳会議、日中韓・ASEAN首脳会議(ジャカルタ)
6日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(米連邦準備制度理事会=FRB)
6日 防衛装備品の輸出ルール見直しに関する与党実務者協議
7日 中国8月貿易統計発表
7日 サウジアラビア2023年第2四半期GDP統計発表
7日 メキシコ8月CPI・自動車生産・販売・輸出統計発表
7日 ユーロスタット、第2四半期実質GDP成長率発表
8日 ロシア8月CPI発表
8日 ロシア第2四半期GDP(速報値)発表
9日 中国8月CPI発表
9日‐10日 G20首脳会合(G20サミット)(インド・ニューデリー)
10日 ロシア統一地方選挙
10日 山形市長選投開票
10日‐11日 インド太平洋経済枠組み(IPEF)首席交渉官会合(バンコク)
10日‐13日 東方経済フォーラム(ロシア・ウラジオストク)
10日 ユネスコ世界遺産委員会(リヤド)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問