外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年8月15日(火)

外交・安保カレンダー(8月14-20日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


この原稿は未明のワシントンの定宿で書いている。日本はお盆なのに二つも台風が来襲したようだが、こちらは急遽ワシントンで仕事が入り二泊四日の強行軍となった。たまたま本原稿執筆中、ジョージア州大陪審がトランプ前大統領など19人を2020年大統領選挙に関する「racketeering(ゆすり、たかり行為)」などで起訴した。

この点は後ほど取り上げるが、まずは、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きから始めよう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心は次の通りだ。

8月15日 火曜日 ロシア中銀が緊急会合
【ルーブルが大幅に下落している。ロシア中央銀行は9月の予定を前倒しして政策金利を議論する臨時会合を開くそうだ。筆者は金融の専門家ではないが、同中銀は先月、主要政策金利を1ポイント引き上げ8.5%とした。やっぱり欧米を中心とする対露経済制裁は徐々に効いているのか?】

パラグアイで新大統領就任
【先の大統領選挙で当選した新大統領は台湾との外交関係維持を表明している。パラグアイといえば南米で唯一、台湾と国交を結ぶ国で、確か今、台湾の副総統が大統領就任式に出るため訪問中のはずだ。頼副総統は1213日、経由地ニューヨークを訪れたが、中国は相変わらず「強烈な不満と強烈な非難」を表明した。】

8月16日 水曜日 インドネシア大統領、対議会年次演説
242月に大統領選を控えるインドネシアでは現大統領と前大統領の間で政治的駆け引きが続いているそうだ。一方、外交面では7月末に大統領が訪中し習国家主席と10周年を迎える「全面的戦略パートナーシップ」を確認している。これに対し、米大統領は9月にジャカルタで開かれるASEAN首脳会議に出席しないそうだ。うーん、中国はしっかり外交をやっているなぁ。】

米国務長官、ワシントンでヨルダン国王と会談
【国王訪米の詳細は不明だが、直前ヨルダン国王はエジプトを訪問し大統領と会談している。昔訪日したアブドッラ国王の少人数講演会に参加したことがあるが、同国王のパレスチナ問題に関する知識は担当官並みの詳しさで、ここまで知っているのか、と舌を巻いた覚えがある。米国にとっては大事な相談相手なのだろう。】

タイ憲法裁判所、ピター氏の首相就任資格に関し判断
【タイの首相選びが今も迷走している。7月の1回目の首相指名の投票で下院第1党となった前進党ピター党首が上下両院の過半数を獲得できず、その後保守派から「一度選出されなかった首相候補について再び投票を行うのは議会の規則違反」とする動議が可決されたため、2回目の投票も中止されていた。この問題については前進党が憲法裁判所に請願していたらしい。保守派はどうしてもピター氏が嫌なのだろうね。】

8月17日 木曜日 イラン外相、サウジアラビア訪問
【象徴的な動きだが、これでイラン・サウジ関係が劇的に好転する訳ではない点は既に述べた通りだ。】

インド、G-20保健大臣会合を主催(19日まで)

8月18日 金曜日 キャンプデービッドで日米韓首脳会合
【この点は後程詳述する。】

オーストリア首相、訪問中のドイツ首相と会談

8月20日 日曜日 エクアドル、大統領・議会選挙を前倒しで実施
【大統領選中に野党系大統領候補が暗殺されたエクアドルでは、殺害された大統領候補に代わり副大統領候補だった女性環境活動家が新たな大統領候補となったらしい。暗殺容疑者はコロンビア人6人だそうだが、いずれも犯罪組織と関係があるそうだ。再び変なことが起きないと良いのだが・・・。】

グアテマラ、大統領選挙投票
【今回は「元大統領夫人」と「前大統領の子息」の戦いになるらしいところが、いかにも中南米的なのか。筆者は同地域の専門家ではないが、争点は相変わらず、汚職と経済格差などのようだ。どうなることやら。】

8月21日 月曜日 米韓合同軍事訓練開始
【北朝鮮がまた何かすることは間違いなさそうだが、何をやっても今の米韓連携は揺るがないだろう。】

さて、今週の筆者の関心事は3つ。一つはジョージア州でのトランプに対する起訴、二つ目は日米韓首脳会合だ。まずは、ジョージアでの対トランプ刑事訴追だが、当然のことながら、CNNなどリベラル系とFOXニュースなど保守系では、同じ大陪審の決定や検察官の記者会見を放送しながらも、全く逆の報道が続いている。

CNNでは「鬼の首を取ったような」トランプ批判が続いたのに対し、FOXでは「これは司法や米政府の『武器化』であり、こうした司法の政治利用はけしからん」の大合唱だった。この種の報道が夜中(ちなみに現在は午前2時過ぎ)になっても延々と続いている。CNNFOXが同じ国のメディアだとは到底思えない。

それにしても、一体アメリカはどうなるのだろう。今回のジョージア州法違反容疑の起訴では、トランプ、ジュリアーニなど19人に対し、ゆすり、たかり行為、偽証など、百数十の違反容疑が理由とされた。特に、racketeeringという容疑には驚いた。通常なら、ギャングや反会的組織に対して使う言葉だろうに・・・。

今回ワシントンで得た印象は、「デサントスは失速中」「トランプの共和党候補指名獲得はほぼ確実」、あまり考えたくないが、「トランプが大統領に再選される可能性は十分ある」「トランプが再選されたら、『ディープステート(影の政府)』に対する大規模かつ徹底的な報復を行うだろう」ということだ。これらが間違いであることを祈りたい。

キャンプデービッドでの日米韓首脳会談については、たまたま、今朝NYTとワシントンポストから取材を受けた。筆者が述べたのは概要次の通りである。

  • キャンプデービッド山荘での米大統領主催による「友好国2か国」首脳を招いた「仲介」外交は、1978年の米イスラエル・エジプト首脳による「キャンプデービッド合意」以来初めてであり、極めて重要な歴史的意味を持ち得る。
  • 今回の首脳レベルでの意は、中国や北朝鮮に対し「正しいメッセージ」を送るという意味で、内容よりも、政治的に象徴的な意味を持つだろう。また、韓国の野党勢力に対し、「仮に将来韓国で政権が変わっても、日米韓の連携は変わらない」という強いメッセージを送る意味でも極めて重要である。
  • 当然、この背景にはインド太平洋地域、特に東アジアでの安全保障環境の急変がある。米側もこの時点で、「力による現状変更」に反対する「抑止力」の一層の強化が必要不可欠だと判断したのだろう・・・、云々。

こうした筆者の発言がどのように引用されるかは分からないが・・・。三点目の関心事はアメリカでの「アジア系アメリカ人」についてだ。今回、アメリカ人の友人が支援しているヴァージニア州フェアファックス郡で開かれた「アジア系アメリカ人の成功を支援する会」夕食会に招かれ、若いアジア系アメリカ人の実態を垣間見ることができた。

アメリカ国内でのアジア系に対する差別や若者たちの苦悩を間接的に見聞きできたことは大きな収穫だった。同時に、こうした若者の会合の主役は今や、ベトナム系、韓国系、インド系の若者であって、日系アメリカ人若者の参加者がゼロであったことに衝撃を受けた。この点については今週のJapanTimesに書こうと思っている。

今週はこのくらいにしておこう。

〈今週以前から続く会議〉
7月5日‐8月22日 大陸棚の限界に関する委員会、第58回会議(ニューヨーク)
7月31日‐9月15日 軍縮会議第3部(ジュネーブ)

814‐20日〉
14日 台湾の頼清徳副総統がパラグアイ訪問
14日‐9月8日 障害者権利委員会第29回会合(ジュネーブ)
15日 パラグアイ大統領にサンティアゴ・ペニャ元財務相が就任
15日 4~6月期のGDP速報値(内閣府)
15日 韓国で日本の植民地支配からの解放記念日「光復節」
15日 アフガニスタンのイスラム主義組織タリバンによるカブール制圧から2年
15日 7月の中国鉱工業生産、小売売上高、1~7月の都市部固定資産投資(国家統計局)
15日 中国7月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
15日 米国7月小売売上高統計発表
16日 英国7月CPI発表
16日 石油製品価格調査(経産省)
16日 タイ憲法裁が首相選出投票巡り判断
16日 米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨(7月25、26日開催分)(米連邦準備制度理事会=FRB)
16日‐17日 台湾副総統がサンフランシスコ入り
17日 SpaceX・ファルコン9、スターリンク99(6-10)(ケープカナベラル空軍基地)
17日 SpaceX・ファルコン9、スターリンク(7-1)(バンデンバーグ宇宙発射場第4射場)
17日 7月の貿易統計(財務省)
17日 岸田文雄首相が訪米へ出発
17日 国民民主党代表選候補合同インタビュー
17日 参院災害対策特別委員会が閉会中審査
17日‐22日 RCEP閣僚会議(インドネシア)
17日‐22日 第55回ASEAN経済大臣会議および関連会議(インドネシア)
18日 ユーロスタット、7月CPI発表
18日 メキシコ6月小売・卸売販売指数発表
18日 7月の全国消費者物価指数(総務省)
19日 G20デジタル経済相会合(インド・ベンガルール)
20日 グアテマラ大統領選決選投票
20日 南米エクアドルの大統領選
20日‐24日 第17回国境を越えた犯罪に関する第15回ASEAN閣僚会議(AMMTC)とその関連会議(インドネシア)

821‐27日〉
21日 SpaceX・ファルコン9、スターリンク(6-10)(ケープカナベラル空軍基地)
21日 ウクライナ2023年上半期貿易統計発表
21日‐9月1日 情報通信技術の犯罪目的使用への対処に関する包括的国際条約策定特別委員会、第6回会合(ニューヨーク)
21日‐9月1日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会 作業部会Bおよび非公式・専門家会合、第60回会合(ウイーン)
22日‐24日 第15回BRICSサミット(南アフリカ共和国・ダーバン)
22日‐26日 第41回ASEANエネルギー大臣会議 (バリ)
23日 ロシア1~7月鉱工業生産指数発表
23日 ジンバブエ大統領選
23日‐24日 ASEAN首都総裁・市長会議 (ジャカルタ)
24日 OECD2023年第2四半期G20貿易統計発表
24日‐25日 G20貿易・投資相会合(インド・ジャイプール)
25日 SpaceXとNASA商業クルー計画(NASA CCP)・ファルコン9、Crew-7(ケネディー宇宙空軍基地)
25日 8月の東京都区部消費者物価指数(総務省)
26日 ガボン大統領選


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問