外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年8月15日(火)

デュポン・サークルだより(8月15日)

[ デュポン・サークル便り ]


ワシントンでは、ちょっと前まで「まさか、もう秋?」と思わせる気候が続いていたのが嘘のように、ワシントンらしい蒸し暑い毎日が続いています。それでも、連日、雷雨警報が出るあたりが、気候変動の影響を感じさせます。日本は台風6号、7号のダブルパンチに見舞われ、せっかくのお盆休みが大混乱になってしまっていますが、日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

アメリカでは、なんと言っても最大の社会ニュースは、ハワイ州マウイ島の山火事です。山火事が発生したマウイ島は、ワイキキビーチなどの観光スポットで常ににぎわうオアフ島よりも少し落ち着いたリゾート地。特に今回、山火事の被害により、文字通り一晩で焦土と化してしまったラハイナというエリアは、少しひなびたビーチの街のたたずまいがいつ行っても変わらず、安定した人気を誇る地域です。ハワイ風のかき氷で有名なMatsumoto’sや、ビーチの景色が綺麗な海沿いのレストランなど、人気スポットも多い場所。復興には10年かかるとも言われています。米軍関係の私の友人の多くは、ハワイ勤務の際にマウイ島で休日を過ごした人が殆どで、「頑張れハワイ」のメッセージは全米規模で広がっています。

女子サッカーのワールドカップネタも、まだまだ続いています。毎回、ドイツとならんで優勝候補として挙げられていたチームUSA、開会前は、今大会で優勝すると史上初の3連覇となるということや、NBAのトップ・チームの一つシカゴ・ブルズの最盛期にマイケル・ジョーダンのチームメートとしてプレー。現役引退後は、突如北朝鮮を訪問するなどお騒がせ言動で知られるデニス・ロドマン氏の娘さんが代表入りしたことなどで話題を集めていました。ですが、蓋を開けてみると、あわや予選リーグで敗退の寸前まで追い込まれる大苦戦。初戦のベトナムに40で勝った以外は残りの予選リーグの試合は全て引き分け、得失点差で、予選リーグはなんとか突破したものの、決勝トーナメント一回戦でスウェーデンにPK戦の末敗れる、という米国女子サッカー史上に残る惨敗を期したのは記憶に新しいところです。

チーム敗退後、ジル・バイデン大統領夫人や、ヒラリー・クリントン元国務長官などの著名人は、激励メッセージをツイートするなどしていますが、それ以外のところでは、代表チームの人選、試合中のコーチの采配、果ては、主力選手のピッチ内外での言動に至るまで、厳しい批判に晒されました。優勝候補だったチームが惨敗して帰ってくると、批判の的になるのは世の常ではありますが、今回のチームUSAに対するバッシングはすごいです。フォックス・ニュースを始めとする保守系メディアが、国歌斉唱の際に一緒に歌わないチームUSAを批判したのは序の口(これについては、『あの難しい国歌、男子の選手だって歌わないで、普通、起立姿勢のまま左胸に手を当てるだけでしょ』という指摘が事後、相次ぎました)。通常、現役チームがバッシングの対象になると、現役を引退した元代表選手が後輩を擁護するものですが、今回は元代表選手までチームを強烈に批判しているのが、これまでと違います。

たとえば予選リーグでの冴えない戦いぶりに、元代表選手の一人は「がっかりした。ヤル気を感じない。コンディションがなってない。ここで帰国しないで済んでラッキーだと思うべき」と自身のツイートで痛烈に批判。冴えない戦いぶりをしている割には「負ける気がしない」などとうそぶく主力選手の発言を取り上げ「何様だと思ってるんだ」「スウェーデン頑張れ」と、決勝リーグ1回戦相手となったスウェーデンに試合前から応援の声が集まる始末。

またスウェーデン戦では、両チーム無得点のままPK戦にもつれ込み、「ミリ判定」でスウェーデンに軍配が上がる結果となりましたが、ペナルティー・キックを外した主力選手の一人が自分に呆れたのでしょうか、ニヤニヤ笑いながら頭を振っているように見えるところをキャッチした写真はSNSであっという間に拡散、「笑ってる場合じゃないだろう」「お前が外してなきゃ勝ってるだろ」「報酬の交渉してる暇があったら練習しろ」などと猛烈なバッシングの対象に。しかも、敗退が確定した後にピッチでファンや家族と談笑するチームメートの映像にまで批判が集まりました。

その反対に、米国を破り決勝トーナメント2回戦に進んだスウェーデンに惜敗した「なでしこジャパン」は、敗戦後、涙を流しながらも観客席のファンに向かって一礼するチームの写真が、これまたあっという間にSNSで拡散。「スポーツマンシップの鏡」「自分の娘はチームの中でも身長が低い選手。そんな彼女にとって体格で劣る分、技術とスマートなプレーで素晴らしい戦いをする日本チームは大きなインスピレーション」という賞賛のコメントが相次ぎ、中には「このチームが見せたスポーツマンシップの1オンスでも見せていればチームUSAはもっとましな成績だった」「チームUSAも見習え」という間接的批判まで。強豪チーム、しかもこれまで常勝チームと言っても過言ではなかったチームがこれほど冴えないパフォーマンスをすると、ある程度の批判は避けられません。ですが、さすがにここまで続くとバッシングが特定の選手に集まっていることを考えると、全力でプレーしたであろう他の代表選手が気の毒になります。

こんな社会ニュースでにぎわう中、内政では早ければ今週中にもトランプ前大統領が4度目の刑事起訴(今度はジョージア州)に直面するかどうか、というニュースが飛び込んできました。こちらについても今後の展開に目が離せません。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員