外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年7月20日(木)

外交・安保カレンダー (7月17-23日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


今週は先週書けなかったNATOサミットの総括と岸田総理の中東訪問を取り上げるが、まずは、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きから始めよう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心は以下のとおりだ。

7月18日火曜日 ペルーで反政府活動化によるデモ

【ペルーといえば昔は日系フジモリ大統領で有名だったが、同国内政は同大統領失脚あたりから徐々に不安定化し、2018年に現職大統領が弾劾裁判中辞任して以降は、5年間で大統領が5回交代する事態になっている。「強大化した大統領権限を制限すると、政権が不安定化する」の典型例なのかもしれないが、この種の悪循環は一度始まるとなかなか止まらない。】

米国「気候変動問題」特使、訪中を終える

【このところ国務長官、財務長官、気候変動特使が相次いで訪中しているが、米中関係改善の糸口はまだ見えない。更に、中国の国務委員兼外相が先月から姿を見せておらず、スキャンダルの噂すら聞こえてくるのだから、驚きだ。これではプロの中国外交官が主導する関係改善シナリオ案が中国側から出てくることはないだろう。困ったものである。】

7月20日木曜日 トルコと南アフリカの中央銀行が金利について審議

【ここではトルコを取り上げる。昨年10月の同国のインフレ率は85%超という24年ぶりの高水準だった。6月22日、エルドアンの大統領選勝利後に任命された新中央銀行総裁はようやく政策金利(1週間物レポレート )を8.5%から15.0%に引き上げた。利上げは2年振りかつ大幅である。筆者は金融の専門家ではないが、大統領が強く求めている低金利政策をようやく大転換するつもりなのだろう。さすがのエルドアンも経済原理には勝てないということかねぇ。それでも事前の利上げ幅予想が20%だったためか、一か月前、通貨リラは急落した。以上を受けて、今回トルコ中銀は金利に関する判断を下すことになる。】

7月21日金曜日 インドでG20 労働大臣会合開催

7月22日土曜日 インドでG20エネルギー大臣会合開催

【インドは17日のG20 財務相会合に続き、精力的に閣僚会合を開催している。ここでもウクライナ戦争が影の主題となろうが、先のG20 財務相会合と同様、恐らくまとまった結論は出ないだろう。】

7月23日日曜日 カンボジアとスペインで議会選挙

【カンボジアの総選挙は、選挙管理委員会が、有力野党の選挙参加を認めなかったため、与党・人民党の圧勝が確実視されている。まあ、フンセン政権に民主主義を求めても無理なのだが・・・。一方、スペインは民主主義だが、最近同国では地方で「極右」の台頭が顕著だとNewYorkTimesが報じていた。スペインもフランスのようになるのだろうか?】

7月24日月曜日 フィリピン大統領が施政方針演説

【日本では大きなニュースになっていないが、個人的には外交関連部分が気になるところだ。】

さて、今週の筆者の関心事はNATOと中東だ。まずはNATO首脳会合から。英エコノミスト誌は「首脳会合前、ウクライナと戦争終結後にNATO加盟のための明確かつ信頼に足る道のりが示されることを期待していた」が、その「願いすべては叶わなかった」と論じた。一方、日本のリベラル紙は相変わらず、「ロシアの暴挙は許されないが、ウクライナへの武器供与や加盟国の軍備増強により軍事対立をこれ以上、激化させてはならない。」といった論調でお茶を濁している。うーん、ちょっと違うんだよね。

ゼレンスキーだって今の時点でNATO側が加盟の詳細な道筋を示せないことぐらいわかっているはずだ。されば、今回のNATO会合でウクライナは水面下で「実を取る」のが本音だったと筆者は見る。それよりも気になるのはウクライナの「反転攻勢」の評価だ。一部には「失敗」との声すら出ているが、それは可哀そうだろう。攻撃作戦は防御側の三倍の兵力が必要だと言われる。希望的観測で判断してはいけない。

もう一つ、CNNを見ていて驚いたことは、今回のNATO首脳会議ではG7が前面に出ていたため、日本への言及が多々あったことだ。これほどに日本が脚光を浴びるとは予想していなかった。時代は変わりつつあるのかなあ。但し、米国内では「日本ですらウクライナを支援するのだから、今米国は中国よりもロシア対応に専念すべし」との声も根強いらしい。この点は「痛し痒し」で、要注意である。

続いて、中東について簡単に述べよう。今回の総理中東訪問は3年前の安倍首相による訪問とは質的に異なる新しい要素が見られた。今や中東では外交面で大規模な地殻変動が起きている。2021年8月のアフガニスタンからの米軍撤退を契機に、米国は「中東から撤退する」という誤ったパーセプションが、実態以上に拡大しているのだ。

トランプの「イラン核合意」破棄を受け、バイデンは合意再生に努めたが、一度始まった負の流れはそう簡単には元に戻せない。あまり言いたくはないが、イランはいずれ核武装に進む可能性が高いだろう。イスラエルはその前に単独でも攻撃したいところだが、仮に米国の支援を受けても、それは決して容易なことではない。イランが核武装すれば、サウジは必ずこれに続く。中東での「核兵器の拡散」は今や可能性ではなく、蓋然性になりつつあるのではないかとすら思う。この点、詳しくは今週のJapan Timesに書くつもりなので、ご一読願いたい。

〇アジア

台湾の副総統が来月南米を訪問する際に「米国を経由する」と台湾外交部が発表、中国は「断固反対する」と反発している。副総統は蔡英文総統の特使としてパラグアイを訪問し次期大統領の就任式に出席するのだが、米国立ち寄りは既に慣例化している。米側の誰と会うかが気になるところだ。

〇欧州・ロシア

ロシアは、ウクライナ産農産物輸出をめぐる合意の履行を停止し、ロシア産などの輸出が実現しない限り、合意には復帰しないと発表した。これまで2か月ごとに「騙し騙し」に延長されてきた合意だが、今回ロシアはどこまで本気なのか、気になるところだ。ロシア側の新たな戦術だと思いたいが、今回はロシアも本気かもしれない・・・。

〇中東

ホワイトハウスは、17日、バイデン大統領とイスラエルのネタニヤフ首相が電話会談し、秋に米国で首脳会談を行うと明らかにしたそうだ。バイデンだけでなく、民主党関係者とネタニヤフの関係はイスラエルの司法制度改革やパレスチナ政策をめぐり、最近一層険悪化している。この程度で関係改善に結びつく可能性は低いだろう。

○南北アメリカ

米大統領夫人が来週パリの国連教育科学文化機関(ユネスコ)本部を訪問し、米国のユネスコ復帰記念の国旗掲揚式典に出席するそうだ。ユネスコも米国に振り回されて大変だろう。米国は脱退と復帰を繰り返してきており、今回の復帰で話は終わらない可能性すらあるからだ。それにしても、米国の対国連外交は本当に身勝手である。

〇インド亜大陸

特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>
6月26日‐7月28日 人権理事会、第53回会議(ジュネーブ)
7月3日‐7月21日 UNCITRAL 第56回会合(ウイーン)
7月3日‐8月4日 国際法委員会、第74回会合、後編(ジュネーブ)
7月5日‐8月22日 大陸棚の限界に関する委員会、第58回回会議(ニューヨーク)
10日‐7月21日 国際海底機構理事会、第28回会議後半(キングストーン)
10日‐7月21日 国際公務員委員会、第96回会議(モントリオール)
10日‐7月28日 拷問禁止委員会、第77回会議(ジュネーブ)
11日‐7月21日 ITU理事会、2023年会合(ジュネーブ)
14日‐7月18日 G20財務相・中央銀行総裁会議(インド・ガンディナガル)

7月

<7月17日‐7月23日>
17日 中国第2四半期経済指標(GDP成長率、固定資産投資、社会消費品小売総額など)発表
17日‐18日 EU-ラテンアメリカ・カリブ共同体(CELAC)サミット
17日‐18日 G20財務相・中央銀行総裁会議(インド・ガンディナガル)
17日‐19日 RCEP合同委員会会議および関連会議
17日‐21日 人権理事会、先住民の権利に関する専門家会合、第16回会議(ジュネーブ)
17日‐21日 IMO、理事会、第129回会合(ロンドン)
18日 米国6月小売売上高統計発表
19日 2023年上半期と6月の訪日外国人数(日本政府観光局)
20日 23年上半期と6月の貿易統計(財務省)
20日 石油製品価格調査(経産省)
21日 ロシア中央銀行理事会
21日 アルメニア・アゼルバイジャン首脳会談(ブリュッセル)
22日 G20エネルギー相会合
23日 カンボジア下院選挙
23日 スペイン総選挙
<7月24日‐7月30日>
24日 SpaceX、ファルコン・ヘビー、ジュピター3(ケネディー宇宙センター、フロリダ州)
24日‐28日 国際海底機構、総会(キングストーン)
24日‐28日 情報通信技術の安全保障と利用に関するオープンエンド・作業部会2021-2025年 第5回会合(ニューヨーク)
25日‐26日 米国FOMC
26日 米大統領次男が東部デラウェア州の連邦裁判所に出廷
26日 インド宇宙研究機関(ISRO)PSLV-CA・DS-SAR(サティシュ・ダワン宇宙センター)
26日‐29日 経済フォーラムとサミット「ロシア・アフリカ」(ロシア・サンクトペテルブルク)
27日 米国2023年第2四半期GDP発表(速報値)
27日 ECB理事会、金融政策決定会合(フランクフルト)
27日 経済社会理事会、組織会合(ニューヨーク)
27日 朝鮮戦争休戦70年
28日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
28日 7月の東京都区部消費者物価指数(総務省)
28日‐29日 G20環境・気候相会合(インド・チェンナイ)

<7月31日‐8月6日>
31日 WTO紛争解決機関会合
31日 国連開発計画会議(ニューヨーク)
31日 6月の鉱工業生産・出荷・在庫指数速報(経産省)
31日 7月の消費動向調査(内閣府)
31日‐8月4日 人権理事会、人権を侵害し、人民の自己決定権の行使を妨げる手段としての傭兵の使用に関する作業部会、第49回会合 (ニューヨーク)
31日‐8月11日 核拡散防止条約第11回締約国再検討会議第1回準備委員会(ウイーン)
31日‐9月15日 軍縮会議第3部(ジュネーブ)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問