外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年7月4日(火)

外交・安保カレンダー (7月3-9日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


今週は米国が独立記念日で休みのため全体がスロー気味だが、筆者が心配するのはイスラエル占領中のヨルダン川西岸でのイスラエル軍による大規模軍事作戦だ。日本ではあまり大きなニュースになっていないが、この軍事作戦は今後も長く続く可能性があり、仮に短期で終了しても、その悪影響は深く残る、と思うからだ。

まあ、それは後程取り上げるとして、まずは、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きから始めたい。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心は以下のとおりだ。

7月4日 火曜日
 仏大統領が国内200人以上の市長たちと協議
【フランスでまた暴動が起きた。きっかけは627日、警官が運転停止の指示に従わなかった(恐らくアラブ系の)17歳の少年を射殺したことだが、これはフランスの構造的問題だ。仏内務省は暴動開始から6晩目となる72日夜も全土で騒ぎが続き、拘束者は、少なくなったとはいえ157人もいたという。マクロン氏は訪独をキャンセルして国内治安の安定に努めているのだが、中国のことをあれこれ言うよりも、まずは自国内の安定を考えたらどうかね?】

 インドが上海協力機構首脳テレビ会議を主催
【今回の目玉はイランが正式加盟することらしいが、議長国インドは直前にオンライン開催を決定したと報じられた。「米印首脳会談の直後だけに『反米集団』との色合いを薄めたかった思惑もにじむ」とも見方もあるが、理由はそれだけではないだろう。米国はそんなこと承知の上だからだ。そもそもプーチンがどこにいるか分からない今、対面の首脳会議なんて無理ではないのかね。】

7月5日 水曜日
 トリニダード・トバゴがカリブ共同体首脳会議を主催
【興味深いのは、この首脳会議に韓国首相が韓国首脳クラスとして初めて出席する、と報じられたことだ。海洋共同研究センターと農業技術革新プラットフォームを新設し、気候変動対応や海洋水産、食料安全保障などの分野で協力を拡大するとも報じられた。韓国外交もなかなかやるではないか。】

 米スウェーデン、ワシントンで首脳会議
【バイデン大統領がスウェーデンのクリステション首相と会談し、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)加盟などについて協議するとホワイトハウスが発表した。大統領報道官は声明で「安全保障協力の拡大について検討し、スウェーデンが早期にNATOに加盟すべきだとの考えを再確認する」と述べている。】

7月6日 木曜日
 トルコとスウェーデンがNATO加盟に関する高級実務者協議開催
【この会合とスウェーデン首相の訪米はリンクしているのだろう。トルコもそろそろ「手打ち」をすべき時だと思うのだが…】

 米財務長官が訪中(9日まで)
【米中関係は外交安全保障では氷河期かもしれないが、中国は経済的に苦しくなることが見えているので、イエレンとの話し合いでは何らかの前向きな動きを示すかもしれない、ということで要注目である。】

7月7日 金曜日 日本でG7法相会合開催

パキスタンのカーン元首相がテロ容疑の裁判に出廷
【パキスタンは相変わらずである。】

7月8日 土曜日 Edgars Rinkevicsラトビア大統領就任
【注目すべきは、ラトビア議会が選出した新大統領が「同性愛者」であることを公表していることだ。ラトビア大統領は主に外交などで儀礼的な役割を担うだけだが、同大統領は「誇りを持ってゲイであることを公表する」とSNSに投稿し、同性カップルの法的権利のために闘うと言ってきた。これが世界の流れなのだろうか。】

7月9日 日曜日 ウズベキスタンで大統領選挙
【これは茶番だろう。ミルジヨエフ大統領は2026年に予定されていた大統領選を前倒ししたが、同国では4月末、独裁色を強める同大統領が事実上「終身大統領」に就くことを可能にする憲法改正案が国民投票の9割の賛成で承認されている。中央アジアでも当分、民主政治はできそうもないのか。】

インドネシア、ASEAN外相会合を主催


さて、話をパレスチナ、西岸地区に戻そう。イスラエル軍は72日、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸ジェニン地区で、空爆を含む大規模な軍事作戦を行った。イスラエル軍は「テロリストはジェニンのキャンプを隠れ家にして市民に危害を加え続け」、難民キャンプは事実上「テロリストの拠点」になっていると述べている。

これに対し、パレスチナの武装組織「ジェニン大隊」は「我々は最後の一呼吸と銃弾まで占領軍と戦い、あらゆる派閥や軍事組織と協力し、団結する」と述べたそうだ。「ジェニン大隊」には、西岸の「ファタハ」やガザ地区の「ハマス」、更には武装組織「イスラム聖戦(PIJ)」などの戦闘員が所属。かなり本格的な掃討作戦となるだろう。

ネタニヤフ政権が連立を組む右派強硬派の求めを受け実行したと報じられているが、問題の本質はそれだけではない。そもそも、ジェニン(アラビア語では「ジニーン」と発音する、元々は聖書に出てくるヘブライ語名の古い町)の治安はパレスチナ自治政府の責任だが、パレスチナでは2006年以来大統領選も、議会選挙も行われていないことは、以前書いた通りだ。

要するに、パレスチナ自治政府が自己の統治領域で武装勢力を制御できていないのだから、難民キャンプのあるジニーンが「テロリストの拠点」になっても仕方がないということ。6月にテルアビブからエルサレム、ラマッラを見てきたが、ジニーンはその北方にある人口4万人ぐらいの町だ。第三次インティファーダ(武装蜂起)が起きないことを祈ろう。

今週はこのくらいにしておこう。

〈今週以前から続く会議〉
6月26日‐7月7日 国際海底機構、法務技術委員会(後半)(キングストーン)
6月26日‐7月28日 人権理事会、第53回会議(ジュネーブ)
7月1日‐7月7日 FAO会議、第43回会合(ローマ)

〈7月3日‐9日〉
3日 23年上半期と6月の新車販売台数(自販連・全軽自協)
3日‐6日 UNIDO、産業開発理事会、第51回会合(ウイーン)
3日‐21日 UNCITRAL 第56回会合(ウイーン)
3日‐8月4日 国際法委員会、第74回会合、後編(ジュネーブ)
4日 ブラジル5月鉱工業生産指数発表
4日 上海協力機構(SCO)首脳会議(オンライン形式)
4日‐5日 第37回国際投資統計作業部会
5日 中国パキスタン経済回廊(CPEC)10周年記念式典
5日 ECB理事会、非金融政策会合(フランクフルト)
5日‐7日 国際海底資源機構、財務委員会(キングストーン)
5日‐7日 UNCTAD、競争法と政策に関する政府間専門家グループ、第21回会議(ジュネーブ)
5日‐8月22日 大陸棚の限界に関する委員会、第58回回会議(ニューヨーク)
6日 インド洋特別委員会 2023年会合(ニューヨーク)
6日 米国5月貿易統計発表
6日 黒海貿易開発銀行(BSTBS)第25回年次総会(ギリシャ・テッサロキニ)
6日‐14日 WIPO、加盟国会議、第64回会議シリーズ(ジュネーブ)
7日 米国6月雇用統計発表
7日 5月の毎月勤労統計調査速報(厚労省)
7日 メキシコ6月CPI・自動車生産・販売・輸出統計発表
7日‐9日 ASEAN貿易円滑化合同協議委員会(ATF-JCC)
7日‐13日 産業総合博覧会「イノプロム」開催(ロシア・エカテリンブルク)

〈7月10日‐16日〉
10日 FAO、理事会、第173回会合(ローマ)
10日 6月の中国消費者物価指数(CPI)と卸売物価指数(PPI)(国家統計局)
10日‐13日 産業総合博覧会「イノプロム」開催(ロシア・エカテリンブルク)
10日‐21日 国際海底機構理事会、第28回会議後半(キングストーン)
10日‐21日 国際公務員委員会、第96回会議(モントリオール)
10日‐28日 拷問禁止委員会、第77回会議(ジュネーブ)
11日 ブラジル6月IPCA発表
11日 英国労働市場統計(3~5月)発表
11日‐12日 北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(ビリニュス)
11日‐14日 化学兵器禁止機関、執行理事会、第103回会議(デン・ハーグ)
11日‐15日 第56回ASEAN外相会合および関連会合
11日‐21日 ITU理事会、2023年会合(ジュネーブ)
12日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
12日 ロシア6月CPI発表
12日 ウクライナ6月CPI発表
12日 米国6月CPI発表
12日 インド5月鉱工業生産指数発表
13日 中国第2四半期貿易統計発表
14日 ブラジル5月月間小売り指数発表
14日‐18日 G20財務相・中央銀行総裁会議(インド・ガンディナガル)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問