外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年6月6日(火)

外交・安保カレンダー (6月5-11日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


まずは、欧米から見た今週の世界の動きから始めよう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを選んでご紹介している。欧米の国際問題専門家たちの今週の関心は以下のとおりだ。

66日 火曜日 国連総会が2024年からの安保理非常任理事国5か国を選出
これも毎年恒例の行事だが、力による現状変更を屁とも思わない一部の国々が「常任理事国」で、まじめに国際法を尊重する普通の国が大変な苦労をして、ようやく2年だけ「非常任」となっても、拒否権がない、となると、やっぱ、どっか、おかしいと思うのが常識だよなぁ。

スロバキアが「ブカレスト9」首脳会議を主催
ブカレスト9The Bucharest Nine)はNATOに加盟する9つの中欧・東欧諸国が協力し、NATOのミッションや目的を支援するために設立された枠組みで、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、チェコ、スロバキア、ポーランドとバルト三国が参加。14年のクリミア併合を受け作られた新たな政治的枠組みであり、目的はズバリ、ロシアの抑止である。

クウェートで総選挙、イランが駐在サウジアラビア大使館を再開
クウェートには、湾岸アラブ地域では珍しく(?)比較的まともな「議会」がある。ところが同国の憲法裁判所は、政府に批判的な勢力が躍進した去年9月の議会選挙の結果を無効とし、解散前の議会を復活させる判断を下した。今回がその後初の選挙となるのだろうが、クウェートでは政府と議会の対立が続いており、混乱は続くだろう。

67日 水曜日 米国務長官、GCC会合に出席
バイデンとサウジ皇太子の個人的関係は「修復不能」に近く、ブリンケンが訪問したぐらいで一挙に関係改善が進むとは思えない。だが、国務長官の仕事は米サウジ関係を最低限繋ぎ留めることだ。お疲れ様である。

68日 木曜日 イタリアで伊独首脳会議、米国で米英首脳会議、仏議会が年金開始年齢延長問題を審議
首脳会議ではそれぞれの二国間の懸案が議論されるのだろうが、フランス議会の審議の方が気になる。あれだけ大反対の中で通した法律を議会が再び審議するのか? 詳細は分からないが、マクロンは大丈夫なのか?

612日 月曜日 イスラエル・ネタニヤフ首相の収賄裁判に野党党首が証言
イスラエルは相変わらずだが、来週はちょうどその日にイスラエルを訪問している。来週はパレスチナ問題を書くことにしよう。

今週の焦点は何と言っても先週末にシンガポールで開かれた恒例の「シャングリラ会合」だ。BBCはこのアジア安全保障会議に出席したオースティン米国防長官と李・中国国防部長が「2日のオープニング・ディナーで握手し短く言葉を交わしたものの、実質的なやりとりはなかった」と報じた。

一方、3日には、米加海軍艦艇が台湾海峡を航行中、中国海軍駆逐艦が米艦艇に接近し「安全ではない」操縦を行ったのに対し、中国は米加が「意図的にリスクを誘発している」と批判したそうだ。米国はこの李国防部長を2018年に制裁対象としており、中国は制裁解除がアメリカ側との会談の前提条件だとしている。

日本では、国防長官が「紛争は差し迫ったものでも必然的なものでもない」「米国は新たな冷戦を望んでいない」「今こそ話し合うべき時だ」と述べ、中国側が「米国が台湾への支援と域内への軍配備、同盟の構築により対立をあおっている」と反論したと報じているのだが、うーーん、シャングリラのtakeawayはこれではないぞ。

安全保障の専門家であれば、シャングリラ会合での重要演説や声明ぐらい読破する。この記事を書いた記者は恐らくこれらを精読していないのではないか。何故なら、ここで報じられている内容には何ら新味がなく、特に、オースティン長官演説の中の最重要部分には殆ど触れていないからだ。彼らは一体何を読んでいるのだろう?

おいおい、それでは何が重要なのか?とお叱りを受けそうだ。詳細は今週のJapanTimesに書くつもりなので、ここではザクっとしたことしか書けないが、簡単に言えば、米国は今回、インド太平洋地域での同盟システムを実質的に強化することに、ようやく着手し始めた、ということである。

オースティン演説のカギとなる言葉は4つ、すなわち、同盟国が「言行一致」し始めたこと、駐留米軍を「Upgrade」しつつあること、同盟関係を「operationalize」しつつあること、中国の脅威に対して「Double down」することだ。最後のDouble downについては、若干注釈が必要かもしれない。筆者の解釈はこうである。

米語の動詞double downとは、元々はブラックジャック用語で「掛け金を倍にすること double a bet after seeing one's initial cards, with the requirement that one additional card be drawn」であるが、これが政治用語として「自己のコミットメント・約束を強める strengthen one's commitment to a particular strategy or course of action, typically one that is potentially risky」という意味に転じたものだ。

日本語の俗語的に言うと「倍返しする」が近いかなという気がする。要するに中国の脅威に直面し、米国は「倍返しする」つもりだと言っている。筆者が中国の国防部長だったら、こんな状況で、しかも公衆の面前で、面子を失うような米中国防相会談などに応じることは決してない。中国はトップダウンで、二国間で、静かに問題を解決しようとするはずだ。

地域編を書くスペースがなくなった。今週はこのくらいにしておこう。

〈今週以前から続く会議〉
5月1日‐6月30日 ICAO、航空航法委員会、第223回会合(モントリオール)
5月15日‐6月30日 軍縮会議・後編(ジュネーブ)
5月25日‐6月26日 APEC貿易担当相会合(米国・デトロイト)
5月31日‐6月9日 宇宙空間の平和的利用に関する委員会、第66回会合(ウイーン)

6月
〈5‐11日〉
5日 非政府組織委員会、2023年通常会合に再招集(ニューヨーク)
5日 参院、本会議
5‐9日 IAEA、総務委員会(ウイーン)
5‐9日 国連ハビタット総会、第2回会合(ナイロビ)
5‐9日 UNDP/UNFPA/UNOPS理事会、年次総会(ニューヨーク)
5‐15日 UNFCCC、条約締約国会議補助機関会合、第58回会合(ドイツ・ボン)
5‐16日 ILO、国際労働会議、第111回会合(ジュネーブ)
5‐16日 拷問禁止委員会、拷問その他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰の防止に関する小委員会、第50回会合(ジュネーブ)
6日 メキシコ5月自動車生産・販売・輸出統計発表
6日 4月の家計調査(総務省)
6日 4月の毎月勤労統計調査速報(厚労省)
6‐8日 第32回ASEAN 税関局長会議(タイ)
7日 ロシア5月CPI発表
7日 中国5月貿易統計発表
7日 米国4月貿易統計発表
7日 ブラジル5月IPCA発表
7日 CIS首相会議(ロシア・ソチ)
7日 石油製品価格調査(経産省)
7‐8日 経済社会理事会、管理部門(ニューヨーク)
8日 米英首脳会談(ホワイトハウス)
8日 1~3月期のGDP改定値(内閣府)
8日 4月の国際収支(財務省)
8日 5月の景気ウオッチャー調査(内閣府)
8日 ユーロスタット、2023年第1四半期実質GDP成長率発表
8日 メキシコ5月CPI発表
8‐9日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルク)
9日 5月の中国消費者物価指数(CPI)と卸売物価指数(PPI)(国家統計局)
9日 ロシア中央銀行理事会
9日 メキシコ4月鉱工業生産指数発表

〈12‐18日〉
12日 インド4月鉱工業生産指数発表
12‐13日 WTOサービス貿易理事会
12‐14日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会、第60回会合(ウイーン)
12‐16日 国際連合海洋法条約締約国会議、第33回会合(ニューヨーク)
12‐30日 ICAO、理事会フェーズ、第229回会合(モントリオール)
13日 ドイツ5月CPI発表
13日 米国5月CPI発表
13‐14日 米国FOMC
13‐16日 第59回ASEAN 標準化・品質管理諮問評議会(シンガポール)
13‐16日 ユニセフ、理事会、年次総会(ニューヨーク)
14日 ブラジル4月月間小売り調査発表
14‐15日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する(TRIPS)協定理事会
15日 ECB理事会、金融政策決定会合(フランクフルト)
15日 フランス5月CPI発表
15日 米国5月小売売上高統計発表
15日 ユーログループ(ルクセンブルグ)
15‐16日 NATO国防相理事会
15‐16日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)
17日 ILO、理事会とその委員会、第348回会合(ジュネーブ)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問