外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年6月5日(月)

デュポン・サークルだより(6月5日)

[ デュポン・サークル便り ]


メモリアル・デーの3連休を終え、アメリカではどこも夏休みモード全開。早くも週末を挟んで3連休や4連休を取る人が増えてきたようで、金曜日と月曜日は、DC市内への通勤がぐっと楽になりました。日本は、台風の影響で新幹線ダイヤに遅れが出たほか、様々な被害が出ているようですが、日本の皆さんが、安全に過ごされていることを祈っています。

ワシントンは、今週の最大の話題は、何と言っても527日に債務上限の引き上げをめぐってバイデン大統領とマッカーシー下院議長間で成立した合意が、実際に法案となり、米連邦議会で可決されるかどうかでした。というのも、ジャネット・イエレン財務長官が526日に議会宛てに出した書簡の中で、「連邦政府は65日には、各種の支払いができない状況に陥る」と述べたことで、「65日」という期限まで、いよいよ待ったなしの状態になっていたからです。メモリアル・デーの3連休に入った直後の527日に、バイデン大統領とマッカーシー下院議長の間で

  • 20251月まで債務上限を取り払う
  • 2024年度連邦政府予算と2025年度における国防予算以外の支出の伸び率を2024年度は基本ゼロに、2025年度は伸び率1%に抑える
  • 2025年度以降の連邦政府予算には支出上限を課さない

という3点です。こうして主要ポイントの原則合意が成立したので、残すは、民主、共和両党内の過激派を抑えて上記の合意を全て網羅した法案を可決するばかりの筈ですが、今年1月に、共和党保守派が下院議長選出時にマッカーシー下院議長候補に反対票を投じつづけ、議会が1週間近く空転した迷走を考えれば、下院で法案を成立させることができるかどうかが、大きな山場になると見られていました。

実際、この法案、下院で賛成314票、反対117票、棄権4票という圧倒的多数で可決され、上院に送付されました。しかし、議員の投票行動を見ると、「下院与党」の共和党議員の反対票数(71票)が民主党(46票)に比べるとはるかに多く、賛成票も、共和党(149票)より民主党(165票)議員の方が多い、という奇妙な結果になっています。つまり、この法案、下院で成立することができたのは、「下院野党」である民主党からの造反が少なかったおかげ、といっても過言ではなく、ここに、共和党側と原則合意に達したバイデン大統領のはしごを外すわけにはいかない、というハキーム・ジェフリーズ下院民主党院内総務以下同党指導部の強い意志が見て取れます。これは、裏を返せば、共和党側は、マッカーシー下院議長の共和党下院議員に対するグリップがきちんと聞いていないということ。今回は、「建国史上初の米国財政破綻の責任を共和党が取るのか?」という大問題だったからこそ、なんとかなりましたが、今後のマッカーシー議長の議会運営に不安を残す結果ともなりました。

そもそも、法案を可決することができるのかどうか自体が懸念されていた下院で債務上限法案が可決されたあと、上院では付則の修正事項をめぐり、少し議員間でやり取りがあったものの、賛成63票、反対39票と、安定多数で可決。63日に無事、バイデン大統領が法案に署名し、「史上初の米国財政破綻」の危機は、無事、回避されたのでした。

内政上の重大な危機を回避できて、ほっとする間もなく、外交・安保問題では、週末にかけてシンガポールでアジア太平洋の約50か国から、毎年、大臣級が出席する、アジア太平洋安全保障会議(通称「シャングリラ会議」)が開催されている真っ最中に、南シナ海及び台湾周辺で米中の海空軍がまさかのニアミス。会議中に米中間で厳しいやり取りが行われました。皮肉なことに、台湾周辺海域でのニアミスがトップニュースで報じられた4日には、CNNで国際ニュースのアンカーマンであるファリード・ザカリア氏と、ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官の事前収録されたインタビューが放映され、その中でサリバン大統領補佐官の「G7で話し合われたのは(経済面での)『デカップリング(de-coupling )ではなくデリスキング(de-risking)』」「バイデン大統領と習主席の会談からは、両首脳とも、偶発的に紛争に転がり落ちないように回避したいという強い意志を感じた」といった発言が流れていました。北朝鮮も、今後、衛星発射実験の事前通告はしない!と開き直ってしまった感がある今、中国も、南シナ海や台湾など、自国の領土だと主張する地域での活動をますます活発化させています。これに対して、大統領選挙が近づき、だんだん、思い切った政策をとりにくくなってきているバイデン大統領が今後、どのように対応していくか、日本を始め米国の同盟国・パートナー国は、注視していくべきでしょう。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員