外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年5月30日(火)

デュポン・サークルだより(5月30日)

[ デュポン・サークル便り ]


今週末のアメリカは、戦争で命を落とした軍人を追悼するメモリアル・デーの3連休です。政府が「コロナ危機終了宣言」をした後の初めての3連休ということもあり、今週末は、道路も、空の便も大混雑。また、この3連休は、夏の始まりでもあり、各地でプール開きが行われる週末でもあります。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

連休中も、ワシントンの最大の関心事は、引き続き、債務上限の引き上げをめぐるバイデン大統領とマッカーシー下院議長の交渉でした。ジャネット・イエレン財務長官は、526日に議会宛てに出した書簡の中で、「連邦政府は65日には、各種の支払いができない状況に陥る」と述べ、それまでに債務上限の引き上げについて合意に達するように強く求めています。ですが、バイデン大統領と議会共和党側の立場にはまだまだ開きがあり、後に詳しく述べる通り、原則合意はできたものの、最終的合意に達することができるのかは未知数です。ですが、万が一、米国が財政破綻した場合、世界経済へのダメージは計り知れません。マッカーシー下院議長が「必ず65日までに合意に至る」と述べたものの、交渉の妥結に向けた大きな進展が見られないまま、3連休に突入してしまい、米国が建国史上初めて、財政破綻するかどうかの崖っぷちに立っている深刻な現状が改めて明らかになりました。

さすがにここまで来て、財政破綻はなんとか回避しなければ、という本気度がようやくバイデン政権側にも下院共和党側にも感じられるようになりました。そのせいでしょうか、3連休入りした直後の527日に、バイデン大統領とマッカーシー下院議長の間で債務上限引き上げと連邦予算改革に関する原則上の合意が成立し、なんとか、財政破綻に向けた「Xデー」である65日までに、法案が成立する可能性が生まれました。この合意の大きなポイントは

  • 20251月まで債務上限を取り払う
  • 2024年度連邦政府予算と2025年度における国防予算以外の支出の伸び率を2024年度は基本ゼロに、2025年度は伸び率1%に抑える
  • 2025年度以降の連邦政府予算には支出上限を課さない

という3点です。つまり、20251月に新政権が発足するまで、債務上限を取り払い、連邦予算についても大枠で合意、ややこしい話は2024年の大統領・連邦議会選挙を終えた後、次期政権と下院指導部に押し付ける、ということで、バイデン大統領とマッカーシー下院議長は手打ちをしたことになります。

普通に考えれば、来年に大統領選を控えている今、建国史上初の財政破綻の責任を取らされる立場には誰も立ちたくないのは明らか。「やればできるじゃないの」と言いたくなる、土壇場での展開ですが、これからバイデン大統領、マッカーシー下院議長は、民主、共和各党内で、この原則合意に基づいた法案が成立するように、根回しをしなければなりません。今年1月の下院議長選出時の迷走を考えれば、法案が成立するまでこの問題については、最後の最後まで目が離せません。

その一方、国内政治では2024年大統領選挙に向けた大きな動きが二つありました。共和党内で大統領選出馬が長らくささやかれてきた二人の候補が、先週、相次いで、正式に大統領選出馬を表明したのです。

その二人とはティム・スコット上院議員(サウス・カロライナ州選出)とロン・デサンテス・フロリダ州知事。スコット上院議員は黒人でありながら、保守的なサウスカロライナ州から選出された議員で、保守的な黒人大統領候補として話題を集めています。また、満を持して出馬宣言した感のあるデサンテス知事は、出馬宣言をツイッター上で、しかも、同社のオーナーであるイーロン・マスク氏との対談、という形で発表するという、異例の出馬宣言となった点が注目されました。ですが、蓋を開けてみると、デサンテス知事の出馬宣言を聞こうとリスナーが殺到したのか、ツイッターのアプリそのものが機能不全を起こし、出馬宣言イベントは大失敗に終わりました。

これで、共和党内では、出馬がささやかれながら、まだ出馬宣言をしていない候補はマイク・ペンス前副大統領のみとなり、依然として世論では数多くの共和党候補の中でトップを走るトランプ前大統領とこれらの候補が、今後、どのように渡り合っていくかが気になるところです。

対する民主党側は、バイデン大統領の対抗馬が出馬する可能性はほぼ皆無で、バイデン大統領が無風状態で来年の予備選に勝利し、本選候補になることが確実ですが、民主党陣営にとって一番気になるのは、共和党側の候補が最終的に誰になるのかということ。というのも、バイデン大統領は、再選を目指す戦略のほとんどが、共和党側の候補がトランプ前大統領になることを前提にしたものだからです。これは裏を返せば、トランプ前大統領以外の人が共和党大統領候補として出てきた場合、バイデン大統領の再選に向けた道のりは一気に厳しくなりかねないということです。

2024年大統領選に向けて一気に動き出した感のある米国内政。トランプ前大統領の動向も加えて、だんだん目が離せなくなってきました。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員