外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年5月19日(金)

デュポン・サークルだより(5月18日)

[ デュポン・サークル便り ]


乱調気味だったお天気も少し落ち着き、ここ12週間のワシントンは、春らしい気候が続いています。とはいえ、蒸し暑い夏はすぐそこまで来ています。ゴールデン・ウィークを終え、日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

日本では広島G7サミット関連のニュースが一番注目を集めていると思います。が、ワシントンでは債務上限の引き上げをめぐる、ホワイトハウスと議会の交渉が待ったなしのところまで来ていることもあり、G7広島サミットは、「バイデン大統領がサミット出席中も、議会との交渉の状況についてはモニタリングしています」という文脈でぐらいしかニュースに登場しないのが残念なところです。

とはいえ、「債務上限引き上げ交渉と来年度連邦予算をめぐる折衝は、切り分けて行うべき」と主張するバイデン政権と、「債務上限引き上げに応じる代わりに、来年度連邦政府予算では、歳出削減のため、大ナタを振るうことに政権側は同意すべき」と主張する議会共和党との間の議論が平行線のまま、バイデン大統領が広島に出発してしまったため、「6月上旬」と緩く設定されている債務上限引き上げ交渉期限までに交渉が妥結するのかは、これまで世界通貨として国際経済・金融をけん引してきた米ドルの信頼度にかかわる重大問題です。すでに、ジャネット・イエレン財務長官は「万が一、債務上限引き上げをめぐり合意が成立しない場合、早ければ61日にも米政府の支払い能力に滞りが生じる。万が一財政破綻した場合は、米ドルの信用の大幅低下により、米国経済は壊滅的な打撃を受け、世界経済にも大きな影響が出る」と何度も公の場で警鐘を鳴らしています。

バイデン大統領がサミット出席を終えてワシントンに戻るのが521日になってしまうため、イエレン財務長官が警鐘をならす「Xデー」の61日まで、実質的に残された時間は10日余り。しかも、来週末~再来週頭は、夏の始まりを告げるメモリアル・デー3連休のため、連邦議員は来週末から再来週頭にかけて、選挙区に戻ります。もちろん、切羽詰まった状況になれば、休日返上で交渉が行われるとはいえ、かなり崖っぷちの状態であることに変わりはありません。

今週は、米国要人の警護関連の事件をめぐるニュースも続いています。515日、バージニア州選出の民主党のベテラン下院議員、ジェリー・コノリー議員の選挙区にある事務所を、バットを持った男性が襲撃、事務所にいた同議員スタッフがバットで殴られて負傷しました。幸い、命に別状はなかったとはいえ、負傷したスタッフの二人のうち一人は、15日に働き始めたばかりのインターン。コノリー議員の選挙区がワシントンDCの主要ベッドタウンの一つ、日本の外交官や企業関係者も多くの人が住んでいるバージニア州北部のフェアファックス郡であるため、この事件はローカルニュースとして大きく報じられました。昨年、ナンシー・ペロシ下院議長(当時)のカリフォルニア州の自宅に不審者が侵入、在宅中だった同議長のご主人と揉み合いになり、ご主人がケガをして入院したという事件があり、連邦議員の選挙区にある自宅や、地元の事務所をどのように警護するかについて問題提起がされましたが、今回の事件で再び、この問題が懸念として浮上しそうです。

さらに518日には、4月下旬の深夜に、ジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官のワシントンDC市内の自宅に泥酔した男性が侵入、在宅中だったサリバン補佐官と鉢合わせるという事件が発生していたことが報道されました。国家安全保障担当大統領補佐官という要職にあるサリバン氏には、複数のシークレット・サービス警護官が付き、24時間体制で警護をしています。ところが、今回報道されている事件では、その警護官の一人が持ち場を離れてトイレ休憩をしていた隙をぬって、この不審者が同氏の自宅に侵入していたことが判明。警護官とは言え、人間ですから、トイレ休憩が必要なのは当然ですが、その間、なぜ、ほかの警護官がバックアップ体制を取らなかったのかなどを含め、シークレット・サービスの警備体制の不備に改めて注目が集まっています。

来週には、長らく大統領選出馬がささやかれていたフロリダ州のロン・デサントス州知事がいよいよ出馬宣言をするというニュースも入ってきました。来週は、すでに出馬の意思を明らかにしているトム・スコット上院議員も正式な出馬表明を行う可能性が濃厚で、アメリカ内政は、ますます動きが活発化しそうな気配です。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員