キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2023年5月16日(火)
[ 2023年外交・安保カレンダー ]
まずは欧米から見た今週の世界の動きから。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを選んでご紹介する。欧米の国際問題専門家たちの今週の関心は以下のとおりだ。
5月16日火曜日 中国外交部特使、ウクライナ訪問(17日まで)、欧州会議Council of Europeの各国指導者がアイスランドで会合
【中国外交部のユーラシア担当代表(元駐ロシア大使)が、ウクライナ危機の政治的解決を目指しウクライナ、ロシアなど欧州諸国を訪問する、と報じられた。中国が本格的にシャトル外交を始めるか否かは不明だが、公言してきた「仲介外交」に着手したことは間違いなかろう。だが、問題の核心はロシアの占領地を国際法上認めるかどうかであり、中国のこんな特使ではとても決断できないだろう。まずは、お手並み拝見である。】
5月18日木曜日 ロシアとウクライナ間の「黒海穀物イニシャティブ」が失効
【ロシアは4月の段階から、国連とトルコが仲介した黒海経由のウクライナ産穀物輸出合意(黒海イニシアティブ)は、ロシア農産物輸出への障害が取り除かれない限り、5月18日の期限延長はないと述べていた。あれから一カ月たったが、交渉が進展しているかは不明だ。トルコは大統領選挙が決選投票となり、ウクライナどころではないだろう。国連だけでは力不足かもしれないだけに、気になるところだ。】
5月19日金曜日 サウジがアラブ連盟首脳会議を主催、広島でG7首脳会合開催(21日まで)
【広島サミットについては別途書く。サウジがアラブ連盟首脳会合を開くのは象徴的である。同首脳会議ではシリアの復帰が正式に決まるのだろうが、同時にスーダン軍トップのブルハン統治評議会議長も招待されたと報じられている。サウジの動きは、関係国とどこまで事前に擦り合わせたものなのか、がちょっと気になる。】
5月20日土曜日 エクアドルで大統領弾劾に関する議会の投票
【エクアドルでは麻薬がらみの殺人事件や強盗・暴行事件、刑務所暴動が多発しているらしい。大統領が銃で武装するよう市民に呼びかけているのに対し、野党や市民団体からは「統治能力を失った」と大統領弾劾の動きが出ている。エクアドルといえば今は国連安保理非常任理事国で日本の外相も訪問したばかり。中南米諸国の内政は一筋縄ではいかないということか。】
5月21日日曜日 韓国大統領、欧州委員会委員長とEU大統領と会談
【広島サミット後、欧州委員長と欧州理事会常任議長(EU大統領)が訪韓するそうだ。韓国が北朝鮮や中国ではなく、欧米など世界に目を向けていることを素直に評価したい。前政権では考えられないような動きが続いている。】
今週の最大関心事は勿論、G7広島サミットである。ところが、先週米誌タイムが報じた岸田首相特集記事が妙な具合になっている。当初の見出しが日本政府の抗議で変更された、と日本メディアは報じたからだ。岸田首相が「平和主義だった日本を軍事大国に変える」とあった見出しが、その後「国際舞台でより積極的役割を持たせようとする」に変更された、というのである。
英語の見出しにあったmilitary powerを、誰かが「軍事大国」と訳したために、それが独り歩きした。日本語記事では、タイム誌が英語で岸田首相を「軍国主義者」の如く報じた、ことになってしまったのだ。何故日本語ではこんな記事になるのか?この続きは今週の産経新聞コラムをお読み頂きたい。
結論だけ書こう。タイム誌の記事の核心は「岸田首相の広島サミットでの使命は、歴史に学び、今後日本に降りかかる様々な試練を乗り越え、日本の生き残りを図ること」だと理解した。岸田首相は、タイム誌の主張のように「平和主義を放棄」しているどころか、「平和主義を進化」させていると思う。英文記事が日本語に誤訳され、原文を読まない書き手が的外れの記事を書く日本の報道は、悲劇というより喜劇に近い、ということだ。お粗末な話である。
〇アジア
先週は、14日のタイ総選挙では、革新系野党第2党が躍進し、独走していた最大野党が伸び悩んでいるらしいと書いたが、今回はその第2党が第1党となり、タクシン元首相の娘率いる第1党と連立を組むらしい。だが、軍が黙っている訳はない。上院議員の大半は親軍部だそうだから、連立政権の行方は前途多難ということだ。
〇欧州・ロシア
欧州で健康不安説といえばプーチンだが、実はベラルーシ大統領にもあるらしい。同国国営通信は、一週間ぶりでルカシェンコが公務を行ったと報じたが、AP通信はSNSアカウントに投稿されたルカシェンコの公務中の映像について「異常にかすれ、弱々しい声で話していた」と指摘しているそうだ。政治って、命がけなのね。
〇中東
トルコ大統領選挙はエルドアン、野党統一候補とも過半数を獲得できず、28日に決選投票が行われるらしい。エルドアンが生き残るか、退陣するかは大問題だが、数字の上ではエルドアンが負ける可能性も出てきた。しかし、こういう時のエルドアンは最も手強い。エルドアンが変な形で再選されることは、トルコにとって吉か凶か?
〇南北アメリカ
米国務省が発表した「各国の信教の自由に関する年次報告書」は、中国が「人権と信教の自由を侵害している世界で最悪の国の一つ」と指摘し、ウイグル族に対して「ジェノサイド=民族大量虐殺」を続けていると非難した。ところで、日本政府は米国と同様、中国の対ウイグル「ジェノサイド」を批判できるのか?うーーん、難しいところである。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
<今週以前から続く会議>
4月25日‐6月2日 国際法委員会、第74セッション、前半(ジュネーブ)
5月1日‐5月19日 ICAO、委員会フェーズ、第229回会合(モントリオール)
5月1日‐6月30日 ICAO、航空航法委員会、第223回会合(モントリオール)
5月8日‐5月15日 インド太平洋経済枠組み(IPEF)の首席交渉官会合(シンガポール)
5月8日‐5月26日 女子差別撤廃委員会 第85回会合(ジュネーブ)
5月8日‐5月26日 子どもの権利委員会、第93回会議(ジュネーブ)
5月
<5月15日‐5月21日>
15日 4月の企業物価指数(日銀)
15日‐5月17日 UNIDO、プログラム・予算委員会、第39回会合(ウイーン)
15日‐5月19日 アジア太平洋経済社会委員会、第79回会合(バンコク)
15日‐5月19日 核軍縮の進展における検証の役割を検討するための政府専門家グループ、第4回会合(ジュネーブ)
15日‐5月23日 非政府組織委員会 2023年通常会合、再延長(ニューヨーク)
15日‐6月30日 軍縮会議・後編(ジュネーブ)
16日 米国4月小売売上高統計発表
16日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
16日 中国4月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
16日‐5月18日 欧州復興開発銀行(EBRD)年次総会(ウズベキスタン・サマルカンド)
17日 ブラジル3月月間小売り調査発表
17日 ユーロスタット、4月CPI発表
17日 4月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)
18日 青森県知事選告示(6月4日投開票)
18日‐5月19日 総会、仙台防災枠組の実施に関する中間レビューに関するハイレベル会合(ニューヨーク)
18日‐5月20日 経済サミット「ロシア-イスラム世界」(ロシア・カザン)
19日 アラブ連盟首脳会議(リヤド)
19日 メキシコ3月小売・卸売販売指数発表
19日‐5月21日 G7首脳会議(日本・広島)
21日 ギリシャ総選挙
21日 WTO紛争解決機関会合
21日 茨城県北茨城、東京都足立、兵庫県加西各市区長選投開票
21日‐5月30日 WHO、世界保健総会、第76回会議(ジュネーブ)
<5月22日‐5月28日>
22日 EU外相理事会(ブリュッセル)
22日‐5月23日 EU競争力担当相理事会
22日‐5月26日 犯罪防止刑事司法委員会、第32回会議(ウイーン)
23日 EU国防相理事会(ブリュッセル)
23日‐5月25日 ASEAN自動車製品・部品作業部会およびASEAN自動車委員会(AAC)
23日‐5月25日 経済社会理事会、開発区分のための運営活動(ニューヨーク)
24日 米FOMC議事要旨(FRB)
24日‐5月26日 植民地国及び人民への独立の付与に関する宣言の実施状況に関する特別委員会、第4回植民地主義撲滅のための国際10年における非自治地域の状況を見直す地域セミナー(バリ島)
25日 メキシコ4月貿易統計発表
25日 米国2023年第1四半期GDP発表(改定値)
25日 第70回ASEAN統合イニシアチブ(IAI)タスクフォース会議
25日 OECD、2023年第1四半期G20貿易統計発表
25日‐6月26日 APEC貿易担当相会合(米国・デトロイト)
26日 4月の米PCE物価指数(商務省)
26日 メキシコ第1四半期GDP発表
26日 第4回小島嶼開発途上国国際会議準備委員会、組織セッション(ニューヨーク)
28日 スペイン地方選
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問