外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年5月9日(火)

外交・安保カレンダー (5月8-14日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


いつもの通り、まずは今週の日本と世界の動きから。ここでは毎週の動きを分析する欧米の各種ニュースレターが取り上げた外交内政行事の中から興味深いものを選んでご紹介している。日本では英国王の戴冠式や総理訪韓への関心が高かったようだが、欧米の国際問題専門家たちの関心は以下のとおりだ。

5月8日月曜日 国連事務総長がスペイン首相と会談、キルギス大統領が訪露、プーチン大統領と会談

【スペインは重要なEU、NATO加盟国だが、その首相が今訪米しているらしい。何で今なのか?と思ったら、理由は簡単だった。7月から半年間、スペインはEUの議長国になるからだ。議長となると、やはり重要なのは対米関係ということか。その点はアジアも欧州も、事情は同じということである。

キルギスもロシアにとっては重要な国だろうが、何で今なのか?と思ったら、これも理由は簡単だった。9日に「プーチン大統領が旧ソ連7カ国の首脳と共に対独戦勝記念日のパレードに出席し、その後、非公式の食事会を開く」と報じられたのだ。しかし、今のところ、キルギス以外の首脳の出席は確認されていない。最終的に誰が来るかは知らないが、今更どの面を下げてパレードに出席するというのかね?突然の発表だったらしいが、「対独戦勝」どころか「対ウクライナ戦敗」の可能性すらあるというのに・・・ねえ。】

5月9日火曜日 イランとサウジアラビアが両国首都で大使館を再開、インドネシアがASEAN首脳会議を主催(11日まで)

【外交関係再開が懸案解決を意味しないことは、これまでの中東の歴史が証明している。それにしても、中東諸国は意外と簡単に「国交断絶」しながら、人々が忘れた頃に突然「国交正常化」する傾向がある。鈍感というか、あれで違和感はないのかな?】

5月10日水曜日 NATO国防大臣会合開催、ロシア外相はトルコ、シリア、イランの外相とロシアで会談

【ロシアなりに対抗措置を考えたのだろうが、NATO国防大臣会合とトルコ、シリア、イラン、ロシアだけではやはりちょっと見劣りする。】

5月11日木曜日 米国はTitle 42と呼ばれる移民政策を廃止、ブラッセルで欧州国防・安全保障閣僚会合開催、日本でG7閣僚会合(14日まで)

【「タイトル42」とは米国で新型コロナウイルス感染拡大防止を理由に導入されていた不法越境者を即時送還できる措置のこと。11日に廃止されるらしいのだが、これは大きな事件だ。少なくともメキシコとの国境地帯に不法移民希望者が再び大挙して押し寄せることだけは間違いなかろう。バイデン政権は軍を派遣し不法移民を厳しく取り締まるというが、敵は共和党よりも、身内の民主党リベラル派ではなかろうか?】

5月12日金曜日 米スペイン首脳会談

【なるほど、スペイン首相はワシントンで首脳会談に臨むということか。】

5月13日土曜日 モーリタニア総選挙

【モーリタニアはサブサハラ・アフリカのイスラム国だが、今回の選挙は2019年の大統領が民主的選挙によって選ばれた後初めての議会選挙ということで欧米関係者は注目している。日本ではモーリタニアに対する「タコ漁」支援などが話題になっているが、少なくとも欧米の一部では、アフリカのイスラム国家で民主制度が定着するか否かが問われる選挙の一つという認識なのだろう。】

5月14日月曜日 トルコ大統領選挙・総選挙、タイ総選挙

【先週も書いた通り、今週筆者の最大関心事はトルコ大統領選挙の行方だ。20年以上権力を維持してきたこの剛腕政治家が生き残るか、退陣するかはトルコの民主主義だけでなく、バルカン半島から中東地域全体の将来の安定度を占う上で極めて重要となる。日本ではそれほど注目されていないのが不思議なくらいだ。タイについては下記参照。】

さて、先週筆者が注目したのはやはり岸田総理の訪韓だった。詳細は8日の産経新聞と9日のJapanTimesに書いたのでご一読願いたいが、簡単に言えばこうだ。

  • 日韓両国は、懸案は残っているものの、安全保障面の協力を優先した
  • 岸田総理は新たな謝罪をせず、従来の立場を維持した
  • 尹錫悦政権も米国との関係を重視し日韓関係改善の必要性を認識した
  • 短期的かもしれないが、両国関係が正常化することを期待したい
  • 一方、日韓関係は90%が内政問題で、386世代は今50代、あと20年は現役だ
  • 日韓間で再びゴールポストが動く可能性は覚悟すべきである
  • 希望は韓国内の世代交代で、今、日韓が若い世代のため布石を打つ意義は大きい

〇アジア
14日のタイ総選挙では、革新系野党第2党が躍進し、独走していた最大野党が伸び悩んでいるそうだ。一方、親軍政党を中心とする与党側も苦戦しており、過半数獲得は困難らしい。民主的に選挙が行われれば良いのだが、結果次第では新政権樹立まで混乱も予想されるという。いずれにせよ、軍は黙っていないだろうが。

〇欧州・ロシア
先週、ロシア軍からの武器弾薬供給が足りないと不満を述べていたワグネル創設者が、今週は一転、「バフムト制圧に向けた前進に必要な弾薬供給を受け始めた」と明らかにしたそうだ。では一体あの騒ぎは何だったのか?ロシア軍に対する「おねだり」だったのか?でも、ロシア側の防衛にはどこかで穴ができるはずなのだが。

〇中東
アラブ連盟外相会合は、2011年に資格停止したシリアの連盟復帰を決議したという。アラブは相変わらずだなあ。連盟事務局長は「シリアの復帰はアラブ諸国とシリアの外交関係正常化を意味しない。正常化は各国が独自に判断すること」と述べたそうだが、当然だろう。これでイランの支援を受けるシリアが「許される」訳ではない。

〇南北アメリカ
一日1.5回のペースで増え続ける米国の銃乱射事件、今度はテキサス州のショッピングモールで少なくとも15人が死傷したが、どうやら犯人は典型的なネオナチ信奉者だったらしい。犠牲者の多くはアジア系、インド系、ヒスパニック系だったようだが、犯人の名も33歳の「モーリシオ・ガルシア」だ。必ずしも白人ではないところが恐ろしい。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>

4月25日‐6月2日 国際法委員会、第74セッション、前半(ジュネーブ)

5月1日‐5月19日 ICAO、委員会フェーズ、第229回会合(モントリオール)

5月1日‐6月30日 ICAO、航空航法委員会、第223回会合(モントリオール)

5月

<5月8日‐5月14日>

8日‐5月11日 欧州議会本会議(ストラスブール)

8日‐5月10日 IFAD、理事会、第138回会合(ローマ)

8日‐5月12日 UNCITRAL、作業部会VI(交渉可能な複合輸送文書)、第40回セッション(ニューヨーク)

8日‐5月12日 国連森林フォーラム第18回会合(ニューヨーク)

8日‐5月15日 インド太平洋経済枠組み(IPEF)の首席交渉官会合(シンガポール)

8日‐5月26日 女子差別撤廃委員会 第85回会合(ジュネーブ)

8日‐5月26日 子どもの権利委員会、第93回会議(ジュネーブ)

9日 中国4月貿易統計発表

9日 メキシコ4月自動車生産・販売・輸出統計・CPI発表

9日‐5月11日 第29回ASEAN社会文化コミュニティ評議会(ASCC)

9日‐5月11日 第26回ASEAN政治安全保障共同体評議会(APSC)

10日 米国4月CPI発表

10日 ブラジル3月鉱工業生産指数発表

10日 韓国の尹錫悦大統領就任1年

11日 中国4月CPI発表

11日 欧州連合軍事委員会(EUMC)、EU国防長官団

11日‐5月13日 G7財務相・中央銀行総裁会議(日本・新潟)

12日 ブラジル4月IPCA発表

12日 英国2023年第1四半期GDP成長率(速報値)発表

12日 メキシコ3月鉱工業生産指数発表

13日 モーリタニア総選挙

13日 EUインド太平洋諸国と閣僚会合(ストックホルム)

13日‐5月14日 先進7カ国(G7)教育相会合(富山市、14日は金沢市で開催)

14日 トルコ大統領・議会選

14日 独ブレーメン州議会選

<5月15日‐5月21日>

15日 4月の企業物価指数(日銀)

15日‐5月17日 UNIDO、プログラム・予算委員会、第39回会合(ウイーン)

15日‐5月23日 非政府組織委員会 2023年通常会合、再延長(ニューヨーク)

15日‐6月30日 軍縮会議・後編(ジュネーブ)

16日 米国4月小売売上高統計発表

16日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)

16日 中国4月固定資産投資、社会消費品小売総額発表

16日‐5月18日 欧州復興開発銀行(EBRD)年次総会(ウズベキスタン・サマルカンド)

17日 ブラジル3月月間小売り調査発表

17日 ユーロスタット、4月CPI発表

17日 4月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)

18日 青森県知事選告示(6月4日投開票)

18日‐5月20日 経済サミット「ロシア-イスラム世界」(ロシア・カザン)

19日 アラブ連盟首脳会議(リヤド)

19日 メキシコ3月小売・卸売販売指数発表

19日‐5月21日 G7首脳会議(日本・広島)

21日 ギリシャ総選挙

21日 WTO紛争解決機関会合

21日 茨城県北茨城、東京都足立、兵庫県加西各市区長選投開票

21日‐5月30日 WHO、世界保健総会、第76回会議(ジュネーブ)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問