外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年5月8日(月)

外交・安保カレンダー (5月1-7日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


まずは今週の日本と世界の動きから。前回申し上げたように、この項では毎週の動きを分析する欧米の各種ニュースレターの中から興味深い点を抜き出してご紹介している。欧米の国際問題専門家たちは以下の視点から国際情勢を見ている、ということである。何らご参考まで・・・。

残念ながら、日本の首相、外相のアフリカ、中南米訪問は、筆者は極めて重要だと思うのだが、英語圏ではほとんど紹介されてない。

5月1日月曜日 国連事務総長が各国アフガニスタン特使を集めた会合を主催

【アフガニスタン情勢は日に日に悪化しているが、同国での人権侵害や女性迫害などに十分な光が当たっていない、ということなのだろう。世界の関心はウクライナに移ったままだが、2021年8月15日以降のカブール陥落と空港での大混乱を我々は忘れてしまったのか?僅か2年前の出来事なのに・・・・。】

5月2日火曜日 豪首相が英国訪問(6日まで)

【豪と英といえば太平洋戦争での同盟国。歴史は繰り返さないが、時に韻を踏む、とはこのことだろうか?】

5月4日木曜日 欧州委員会European Commissionがthe Brussels Economic Forumを主催、ドバイでは国際女性サミットGlobal Summit of Womenが開催され、独首相はエチオピアとケニアを訪問

【今年のフォーラムではウクライナ戦争再発後の欧州経済、特にエネルギー問題が議題の一つとなろうが、欧州が決して一枚岩ではないことが露見しなければ良いのだが・・・・。ドバイで女性サミット?何かの間違いではないのか。岸田首相だけでなく、ドイツ首相もアフリカを重視しているのは、単なる偶然か?】

5月5日金曜日 ブラジル大統領が訪英

新任ということもあり、ブラジル大統領が精力的に海外出張している。左派政権という負い目を払拭すべく、頑張っているのだろうか。しかし、問題は海外出張の回数ではなく、新政権の政策の中身である。このことだけは忘れてほしくない。

5月6日土曜日 英国王戴冠式

チャールズ国王、と聞いても、正直なところあまり感動は湧かない。多くの英国民も同様ではなかろうか。しかし、この程度のスキャンダルはこれまでも英国王室にはたくさんあった。それでも英王室は続くのだろう。これが英国民の叡智なのだから。】

5月8日月曜日 大地震後発令されていたトルコの緊急事態宣言が終了

【筆者の関心事は非常事態宣言よりも、5月14日に予定されている大統領選挙の行方である。 エルドアン大統領ら数人が立候補を表明しているが、エルドアンは通貨リラの暴落によるインフレ、物価高やトルコ・シリア地震の対応が批判され、野党6党が推す対立候補に支持率でリードを許しているらしい。20年以上権力を維持してきたこの剛腕政治家は再び勝利できるだろうか。エルドアンよりも、トルコの民主主義にとって、最大の試練となるだろう。】

さて、先週筆者が注目したのは4月29日、ワシントンヒルトンのボールルームで開かれた恒例のホワイトハウス記者会主催夕食会である。最初の開催は1921年だからもう100年の歴史があるワシントンの伝統行事だが、これが普通の夕食会とは全く違うのだ。一体どこが違うのか?

目玉は現職大統領と有名コメディアンによるスピーチだが、この日ばかりは日本語の「無礼講」に近く、軽妙なジョークと辛辣な皮肉に富むスピーチの応酬となる。大統領はメディアと野党側をこき下ろし、コメディアンはワシントン全体を笑い飛ばす。いつもなら大統領と記者の真剣勝負となる集まりが、この日ばかりは爆笑に次ぐ爆笑だ。

この如何にもアメリカらしいこのイベントを筆者は毎年楽しみにしており、今回もCNNの生中継を見ていたが、今年は7年振りで現職大統領が冒頭から出席するというフルバージョンとなった。2017年からはトランプが出席を拒否し、2020年、21年はコロナ禍で中止、昨年も大統領は食事には参加しなかったからだ。

詳細は産経新聞に書いたので、連休中お時間があればご一読願いたい。筆者の英語はネイティブではないが、ネイティブでも意外に難儀するのがジョークである。大学時代、ミネソタ大学に留学していた頃、ルームメートのアメリカ人に「テレビのコメディの理解には連続5年アメリカに住まなければダメ」と言われたのを今も覚えている。

これが正しいとすれば、ホワイトハウス記者会主催夕食会でのジョークを楽しむにはワシントンに最低5年住んで、そこから見たアメリカの内政外交を知る必要がある、ということだ。その意味で、この夕食会でのジョークを一発で、かつ心の底から笑えるか否かは、過去20年間、筆者の英語力向上を測るメルクマールとなっている。

〇アジア
先週のパラグアイ大統領選挙で台湾との外交関係関係維持を表明する候補が当選確実となった。パラグアイといえば南米で唯一、台湾と国交を結ぶ国だが、台湾はこれで一安心という訳にはいかない。3月にはホンジュラスが中国と国交を樹立したばかり、中国の攻勢とアメリカの苦悩は続くだろう。

〇欧州・ロシア
先週末、ウクライナ大統領は「主要な戦闘が控えている」「我々は陸海ともに全ての国境を回復しなければならない」と述べ、ウクライナ軍が計画する大規模な反転攻勢の開始が近いことを示唆した、と主要メディが報じ始めた。一説には5月15日とも噂されるが、これが関ヶ原の戦いとなるか否か、世界中が固唾を飲んで見守っている。

〇中東
4月15日から軍とRSF間で武力衝突が続くスーダンで双方が更に72時間の停戦期間延長に合意したというが、当然、国内各地での戦闘は収まっていない。この種の状況では、停戦は「態勢立て直し」の準備期間であり、本気で戦闘を止める気はないのが普通である。それにしても、中東での民主化努力とは、何と儚いものなのか。

〇南北アメリカ
バイデン大統領が遂に「再出馬」を表明したが、米世論は冷めている。冒頭ご紹介したホワイトハウス記者会夕食会で有名コメディアンは、フランスでの年金支給年齢引き上げ騒動に引っ掛けて、「アメリカでは80歳の老人があと4年働きたいと国民に懇願している」と述べ大爆笑となったが、こんなことを公の場、しかも現職大統領の前で言える社会はまだまだ健全である。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>

1月23日‐5月5日 行政・予算問題諮問委員会冬季セッション(ニューヨーク)

4月24日‐5月4日 情報委員会、第45回会合(ニューヨーク)

4月25日‐6月2日 国際法委員会、第74セッション、前半(ジュネーブ)

4月30日 パラグアイ大統領選挙

5月

1日‐5月2日 林芳正外相が中国訪問

1日‐5月19日 ICAO、委員会フェーズ、第229回会合(モントリオール)

1日‐6月30日 ICAO、航空航法委員会、第223回会合(モントリオール)

2日‐5月4日 IAEA、理事会、計画・予算委員会(ウイーン)

2日‐5月3日 ブラジル中央銀行、Copom

2日‐5月3日 米国FOMC

2日‐5月5日 アジア開発銀行(ADB)年次総会(韓国・仁川)

3日 米FOMC最終日(声明発表とFRB議長会見)(FRB)

3日 ユーロスタット、3月失業率発表

3日 改憲派が「第25回公開憲法フォーラム」

3日 護憲派集会(都内)

4日 英地方選

4日 メキシコ3月雇用統計発表

4日 米国3月貿易統計発表

4日 ECB定例理事会(金融政策発表と記者会見)(フランクフルト)

5日 米国4月雇用統計発表

5日 岸田文雄首相がアフリカ・シンガポール歴訪から帰国

6日 チャールズ英国王戴冠式

7日 チリ憲法評議会選挙

8日‐5月11日 欧州議会本会議(ストラスブール)

8日‐5月10日 IFAD、理事会、第138回会合(ローマ)

8日‐5月12日 UNCITRAL、作業部会VI(交渉可能な複合輸送文書)、第40回セッション(ニューヨーク)

8日‐5月12日 国連森林フォーラム第18回会合(ニューヨーク)

8日‐5月15日 インド太平洋経済枠組み(IPEF)の首席交渉官会合(シンガポール)

8日‐5月26日 女子差別撤廃委員会 第85回会合(ジュネーブ)

8日‐5月26日 子どもの権利委員会、第93回会議(ジュネーブ)

9日 中国4月貿易統計発表

9日 メキシコ4月自動車生産・販売・輸出統計・CPI発表

9日‐5月11日 第29回ASEAN社会文化コミュニティ評議会(ASCC)

9日‐5月11日 第26回ASEAN政治安全保障共同体評議会(APSC)

10日 米国4月CPI発表

10日 ブラジル3月鉱工業生産指数発表

10日 韓国の尹錫悦大統領就任1年

11日 中国4月CPI発表

11日‐5月13日 G7財務相・中央銀行総裁会議(日本・新潟)

12日 ブラジル4月IPCA発表

12日 英国2023年第1四半期GDP成長率(速報値)発表

12日 メキシコ3月鉱工業生産指数発表

13日 モーリタニア総選挙

13日 EUインド太平洋諸国と閣僚会合(ストックホルム)

13日‐5月14日 先進7カ国(G7)教育相会合(富山市、14日は金沢市で開催)

14日 トルコ大統領・議会選

14日 独ブレーメン州議会選

15日 4月の企業物価指数(日銀)

15日‐5月17日 UNIDO、プログラム・予算委員会、第39回会合(ウイーン)

15日‐5月23日 非政府組織委員会 2023年通常会合、再延長(ニューヨーク)

15日‐6月30日 軍縮会議・後編(ジュネーブ)

16日 米国4月小売売上高統計発表

16日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)

16日 中国4月固定資産投資、社会消費品小売総額発表

16日‐5月18日 欧州復興開発銀行(EBRD)年次総会(ウズベキスタン・サマルカンド)

17日 ブラジル3月月間小売り調査発表

17日 ユーロスタット、4月CPI発表

17日 4月の欧州新車販売(欧州自動車工業会=ACEA)

18日 青森県知事選告示(6月4日投開票)

18日‐5月20日 経済サミット「ロシア-イスラム世界」(ロシア・カザン)

19日 アラブ連盟首脳会議(リヤド)

19日 メキシコ3月小売・卸売販売指数発表

19日‐5月21日 G7首脳会議(日本・広島)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問