外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年4月26日(水)

デュポン・サークルだより(4月25日)

[ デュポン・サークル便り ]


先週は、初夏を思わせる暖かい(暑い?)日が続きましたが、今週はお天気が一変。朝晩は、冬物のコートが必要なぐらい、肌寒くなりました。今のところ、日中は春らしい、暑すぎず寒すぎずの、いい塩梅のお天気が続いていますが、週末は大雨になる予想です。日本の皆さんはいかがお過ごしでしょうか。

在スーダン米大使館閉鎖、大使館員の国外退避など、国際ニュース面でも大きなニュースが先週から続いていますが、今週は、いよいよ、2024年大統領選に向けた動きが本格化した週となりました。

共和党側では、先週から、フロリダのロン・デサントス州知事や、バージニアのグレン・ヨンキン州知事が、東アジア歴訪の旅に出ています。大統領選出馬がささやかれながら、まだ正式発表がない、この二人の共和党知事、外交については「ド素人」のイメージですが、今回のアジア歴訪で箔をつけて、出馬宣言に向かって一歩、踏み出したのでは?というのが専らの噂です。特に、デサントス知事の日米関係に対する前向きな発言や、バージニア州の企業訪問団を引き連れて台湾訪問中のヨンキン知事の言動などは、ワシントンでも注目を集めています。

また、24日(火)には、満を持して、バイデン大統領が、再出馬宣言を行いました。昨年11月に、わざわざ集会を開いて再出馬宣言をしたトランプ前大統領とは対照的に、バイデン大統領の再出馬宣言は、朝6時に約3分のビデオを公開する、という地味な手法で行われました。202116日の連邦議事堂襲撃事件当時の映像で幕を開けるこのビデオの中で、バイデン大統領は「4年前、大統領選挙に出馬した時、私は、『アメリカという国の魂をかけて私たちは戦っている』と言いました。この戦いは今も続いています」と語り、トランプ前大統領信奉者の保守派共和党議員(ビデオの中ではトランプ前大統領が2016年大統領選挙時に使用したキャッチコピーのMAGA Make America Great Again)から取り、「MAGAの集団」と呼ばれています)が、女性の妊娠中絶の権利、同性愛婚の権利、選挙で一票を投じる権利など「アメリカ人にとって最も基本的な自由を制限しようとしています」と糾弾。「今は、現状を甘受している時ではありません」と述べ、2024年大統領選での支持を訴えています。

このビデオに早速敏感に反応したのは、やはりトランプ前大統領でした。トランプ陣営から発表された声明の中で、トランプ前大統領は、バイデン大統領を「アメリカの歴史の中で最悪の大統領」と呼び「なぜ、彼が再出馬することを決めたのか理解に苦しむ」と批判。自身の支持者に対して、トランプ陣営への献金を呼びかけました。

複数の候補者がすでに出馬を正式表明、さらにまだ出馬を表明していない候補も数名いる、という予備選大混戦の様相をすでに呈している共和党側とは対照的に、現在のところ、バイデン大統領に対抗して大統領選出馬をほのめかしている民主党の政治家はおらず、今の状況が続けばバイデン大統領が民主党側の大統領候補になることはほぼ確実になります。つまり、共和党側の動き次第では、「トランプ対バイデン」という、後期高齢者同士がぶつかり合う大統領選挙の再現にある可能性があるわけです。

そんなバイデン大統領にとって今、最も痛いのは、自分の支持率がいつまでたっても上向かないこと。一時の支持率わずか30%台という低迷からは若干、回復基調にあるとはいえ、現在でも、支持率が約42%なのに対し、不支持率は約52%、と不支持が支持を10ポイント近く上回っている状況に変わりはありません。少し落ち着きを見せてきたとはいえ、インフレはまだまだ高止まりの状態が続いており、加えて、ガソリン価格も再び上昇しつつあります。つまり、一般有権者の生活は、バイデン政権になってからというもの、苦しくなる一方なわけです。

また、現在のバイデン陣営の戦略は、トランプ前大統領が共和党の予備選を勝ち上がり、本選候補になることが前提で組まれているように見受けられます。トランプ前大統領が、本選を勝つために支持を取り付けることが必須の無党派層から完全にそっぽを向かれている状況であることを踏まえれば、少しでも無党派層にバイデン大統領がアピールできれば、僅差でも勝てる、と見込んでいる様子がありありです。

ですが、ここにバイデン陣営の大きな弱点があります。つまり、共和党予備選を勝ち上がり、本選でバイデン大統領と対決することになるのがトランプ前大統領ではない場合、バイデン陣営は大きな軌道修正を縛られます。しかも、すでに出馬を表明している人、出馬するような動きをしている人を含め、共和党側の候補は、トランプ前大統領を除けば、ほぼ全員、バイデン大統領より2世代は若く、無党派層にアピールすることが十分可能な人ばかりなのです。

おそらく、現在の世論調査では、共和党候補の間ではトランプ前大統領が他候補を大幅に引き離して首位を走っていることに基づいた判断だと思われますが、例えば、最終的に共和党側の大統領・副大統領候補が「ロン・デサントス大統領候補(44歳、男性)&ヘイリー副大統領候補(インド系、女性、51歳)」のような組み合わせになった場合、カマラ・ハリス副大統領を引き続き副大統領候補(女性、アフリカ系&アジア系、58歳)に起用するとしても、すでに御年80歳のバイデン大統領が候補だと、どうみても、共和党側のコンビに見劣りすることは必至。民主党支持層の間ですら、年齢を最大の懸念材料として指摘している状態で、再出馬宣言に踏み切ったバイデン大統領。これからどのような戦いが待っているのでしょうか。


辰巳 由紀  キヤノングローバル戦略研究所主任研究員