キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2023年3月29日(水)
[ 2023年外交・安保カレンダー ]
日韓首脳会談から、WBC日本優勝、岸田首相のウクライナ電撃訪問まで、怒涛のような外交行事が続いた先週とは異なり、今週は比較的静かだと思う。そんな中で筆者の興味を引いたのが、「中国“戦狼”報道官『更迭』の真相 衝撃の“ペンキ塗り”写真から透けて見える習近平の企み」なるデイリー新潮の記事だった。
写真が本人かどうか確認はできないが、その報道官が「ベトナムと国境を接する広西省で国境を画す『境界標」』彫られた〈中国〉の文字をみずから赤く塗り染める」画像が中国で出回っているらしい。うーん、境界標を赤く塗る仕事も重要な仕事だとは思うが、それにしても、これがあの喧嘩腰の「戦狼」外交官の今かと思うと胸が痛い。
同記事によれば、更迭の理由として、外交官の妻がゼロコロナを批判する投稿を上げたからとか、好戦的イメージの強い彼を外交の顔に立てておくのは得策でないと政権側が判断したからとか、様々な専門家の見立てがあるらしい。うーん、他にも重要ニュースはあるだろうが、今週はこの哀れなエリート外交官の末路を取り上げよう。
まずは彼の妻がゼロコロナを批判した説だが、この程度のことで外交部の副報道官が突如地方に飛ばされるとは考えにくいのではないかな。勿論、こうした噂が正しい可能性もゼロではないが、筆者の経験則で邪推すれば、これは左遷の真の理由をカモフラージュするための「官製噂話」ではないかと思う。
それでは、政権側が好戦的イメージの彼を最前線から退かせた説はどうか。仮にそうだとしても、彼だけが外交部を突然クビになって地方に飛ばされるだろうか。つい昨年まで「戦狼外交」は中国の正しい外交であり、外交部は一丸となってこの稚拙な外交を推進していたではないか。それがなぜ、今になって彼だけが飛ばされるのか。
「戦狼」の彼が悪いのであれば、当時の外交を担ったトップから末端まで、全ての外交要員が責任を負うべきだろう。もしかしたら、この外交官には個人的な醜聞ないし問題があったのではないか。これほどの懲罰人事が政権側のイメージ刷新のためだけに行われたとは思えないのだが。さて、読者の皆様はどう思われるだろうか。
実はこの原稿は羽田空港のラウンジで書いている。これからワシントンに短期出張があるのだ。ワシントンの雰囲気は来週書くことにするが、今回驚いたのは羽田空港の「海外旅行保険」申し込みについてだ。チェックイン後、いつもの通り、保険を掛けようとしたら、朝8時は早過ぎて窓口が開いていない。コロナで時短なのだそうだ。
仕方がないので、日系某超大手保険会社のネット申し込みをPCでトライしたが、5回やっても何故かネット上で申し込みができない。もしかしたら筆者のやり方が悪いのかもしれないと思い、今度はスマホで同社の申し込みを行ったのだが、これまた、クレジットカードの情報を入れたところで、エラーが出た。何回やってもエラーばかりだ。
もうかれこれ1時間も悪戦苦闘してみたが、どうしてもこの超大手保険会社では申し込みができない。仕方なく同社のお助けホットラインにも電話したが、これまた全く埒が明かない。最後の手段で空港にある外資系保険会社の機械を試してみたら、何と3分で申し込みは完了。あの日系超大手のITは少なくとも数年遅れているようだ。
〇アジア
金正恩が核兵器事業を視察し、核開発を更に進めるよう指示したという。報道では小型化された「戦術核弾頭」とみられる物体も写っているそうだが、ここでも北朝鮮の「かまってちゃん」外交が続いている。米国も韓国も日本も「かまって」はいられないのだが、ほっておけば、核兵器が増えるだけの「こまったちゃん」である。
〇欧州・ロシア
ドイツがウクライナに「レオパルト2」18両を引き渡したと発表、弾薬や交換部品のほか整備にあたる装甲回収車2台も供与したそうだ。独国防相は「前線で決定的な貢献ができると確信している」と述べたらしいが、どうやら近く、「関ヶ原」が始まりそうな勢いだ。停戦は外交ではなく、戦場での趨勢で決まるだけに、要注意である。
〇中東
イスラエルのネタニヤフ首相が、司法に対する政府権限強化を目指して成立を推進していた法案の議会審議を一時停止すると発表したそうだ。国内各地では数万人規模の大規模な抗議やストライキが相次いでいただけに、当然の措置であるのだが、ネタニヤフにとっては大きな譲歩だ。但し、彼はこのままでは終わらないだろう。
〇南北アメリカ
ナッシュビルの小学校で再び銃乱射事件があり、子供3人を含む6人が死亡したそうだ。射殺された犯人は女性、今年になって129回目の乱射事件だという。一日一件以上乱射事件が起きているのに、アメリカの議会は動こうとしない。銃に関する限り、やはり、どこかがおかしいのではないか、あの国は。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
<今週以前から続く会議>
1月23日‐3月31日 軍縮会議 前半(ジュネーブ)
1月23日‐5月5日 行政・予算問題諮問委員会冬季セッション(ニューヨーク)
2月27日‐4月4日 人権理事会、第52回会議(ジュネーブ)
20日‐3月31日 強制失踪委員会 第24回会議(ジュネーブ)
20日‐3月31日 宇宙空間平和利用委員会法律小委員会 第62回会議(ウイーン)
20日‐3月31日 ICSC、第95回会議(ニューヨーク)
20日‐3月31日 国際海底機構理事会、第28回会議前半(キングストーン)
3月
<3月27日‐4月2日>
27日 参院 本会議(岸田文雄首相ウクライナ訪問報告、質疑)
27日 メキシコ2月貿易統計発表
27日 文化庁、京都に移転し業務開始
27日 ウクライナ2022年雇用統計発表
27日 パスポート(旅券)の更新申請などをオンライン化する改正旅券法施行
27日 国連人口賞委員会・第2回定例会(ニューヨーク)
27日‐3月31日 UNCITRAL、第3作業部会(投資家対国家の紛争解決改革)、第45回会合(ニューヨーク)
27日‐3月31日 開発のための科学技術委員会 第26回会合(ジュネーブ)
27日‐3月31日 行政に関する専門家委員会 第22回会合(ニューヨーク)
27日‐3月31日 障害者の権利委員会、準備作業部、第17回会議(ジュネーブ)
27日‐4月5日 人権理事会 恣意的拘禁に関する作業部会 第96回会合(ジュネーブ)
27日‐4月6日 全移民労働者及びその家族構成員の権利の保護に関する委員会 第36回会合(ジュネーブ)
28日‐3月29日 国連ハビタット理事会 第一回定例会(ナイロビ)
29日 ロシア1~2月鉱工業生産指数発表
29日‐3月30日 第2回「民主主義サミット」(オンライン)
30日 ブラジル1月鉱工業生産指数発表
30日 ウクライナ1~2月鉱工業生産指数発表
30日 米国2022年第4四半期および2022年年間GDP発表(確定値)
31日 WTO紛争解決機関会合
31日 2月の米個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
31日 統一地方選・道府県議選、政令市議選告示
31日 メキシコ2月雇用統計発表
31日 ユーロスタット、2月失業率発表
31日 USTRによる外国貿易障壁報告書の提出期限
4月
1日 こども家庭庁発足
1日 ユネスコ、理事会、第216回セッション(パリ)
2日 フィンランド議会選挙
2日 ブルガリア議会総選挙
3日 軍縮委員会(ニューヨーク)
3日‐4月4日 WTO物品貿易理事会
3日‐4月5日 人権理事会、開発への権利に関する専門家メカニズム、第7回会合(ニューヨーク)
3日‐4月20日 軍縮委員会、年次総会(ニューヨーク)
4日 先進7カ国(G7)貿易相会合(オンライン)
5日 米国2月貿易統計発表
7日 メキシコ3月CPI発表
7日 グッドフライデー(聖金曜日)(米市場は外国為替市場を除き休場、債券市場は短縮取引)
7日 米国3月雇用統計発表
7日 ロシア2022年経済活動別・需要項目別GDP発表
7日 Intelsat 40e・ファルコン9ブロック5号・SpaceX(ケープカナベラル宇宙軍施設、フロリダ州)
10日 メキシコ3月自動車生産・販売・輸出統計発表
10日‐4月14日 人口と開発に関する委員会 第56回会合(ニューヨーク)
10日‐4月14日 UNCITRAL、第4作業部会(電子商取引)第65回会合(ニューヨーク)
11日 メキシコ2月鉱工業生産指数発表
11日 ブラジル3月IPCA発表
11日 中国3月CPI発表
12日 ブラジル1月月間小売り調査発表
12日 米国3月CPI発表
12日 ロシア3月CPI発表
12日 ウクライナ3月CPI発表
12日 米FOMC議事要旨(3月21、22日開催分)(FRB)
12日‐4月13日 G20財務相・中央銀行総裁会議(ワシントンDC)
13日 中国第1四半期貿易統計発表
14日 CIS外相会議(ウズベキスタン・タシケント)
14日 米国3月小売売上高統計発表
14日 北米の外国貿易地域(FTZ)に関するITC最終報告書のUSTRへの提出期限
14日‐4月16日 IMF・世界銀行春季総会(ワシントンDC)
15日‐4月16日 G7気候・エネルギー・環境相会合(日本・北海道)
15日 米国財務省による為替政策報告書の提出期限
15日 北朝鮮の故金日成主席の生誕記念日
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問