外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2023年3月14日(火)

外交・安保カレンダー (3月13-19日)

[ 2023年外交・安保カレンダー ]


今週は韓国大統領の訪日がある。先週シンガポールTVから生放送インタビューを受け、日韓関係は「慎重ながら楽観的だが、悪魔は詳細に宿るので、再びゴールポストを動かされないよう、状況を見る必要がある」などと歯切れの悪い応答をしたと書いた。今も状況はあまり変わらない。日韓首脳会談の評価は来週書くことにしよう。

今週取り上げるテーマは「SVB」だ。先週米シリコンバレーバンク(SVB)などが経営破綻し、一時国際市場はパニックに陥った。米政府は「預金全額保証」という禁じ手を使ってでも、市場の動揺を最小限に抑え込もうとしている。当初は、従来と同様、複雑でリスクの高い金融商品の構造的問題かと思ったが、実はそうでもないらしい。

筆者は金融の素人だが、素人でも破綻の理由は「単純な過ち」だったと分かる。Wall Street Journalは破綻の理由を「いつでも預金者が引き出しを要求できる短期資金を使い、売却できない、あるいは売却したくない長期資産に投資することによって、あまりにも急速に成長した」ためだとしている。なるほどね、これなら分かる。

サンフランシスコには筆者の親族も住んでおり、実は決して他人事ではない。それにしても、なぜこんな「単純な過ち」が起きたのか。金利が急上昇し、多くの債権を持つSVBが損失を抱えれば、動揺した預金者が資金を引き揚げるのは当然だ。問題は、FRBがなぜそうした状況を放置したのか、ということらしい。

第一の理由は、SVBの急成長に規制が追い付かなかったこと。わずか1年で預金額は2倍近くに増え、SVBは米国で16番目に大きな貸し手になっていたそうだ。第二の理由は、SVBの預金の90%近くが無保険だったため、資本逃避が起こり易かったからだという。この他にも理由はあるらしいが、専門的なので割愛する。

素人の筆者が最も懸念するのは、バイデン政権の措置で問題の拡大が食い止められるか、ということだ。ロンドンからシンガポールまで世界市場は動揺したと報じられたが、筆者の最大の関心は中国経済である。この問題が国際経済から国際政治に波及しないことを切に祈っている。

もう一つ、素人ながら懸念するのが「預金全額保証」という禁じ手だ。これって、違法ドラッグではないのか?モラルハザードの問題は生じないのか?SVB以外に同様の問題が生じた時にも、この手を使い続けるのか?マーケットがどう反応するか、個人的には強い関心がある。勿論、SVBには1セントの預金もないのだが・・・。

最後に嬉しいニュースを一つ。「政府は制服組トップの統合幕僚長に吉田圭秀陸上幕僚長(60)を起用する方針を固めた。近く閣議で承認し、下旬にも発令する」と報じられた。「吉田氏は東大卒。06年に新設された統幕長ポストに防衛大学校出身者以外が就くのは初めて」というのだが、おいおい、事の本質は「東大卒」ではないぞ。

多くの優秀な「統幕長」のなかで今回は偶々吉田氏が「東大卒」だっただけの話。彼の「豊富な知識や人柄」は政府内外で既に高く評価されており、「無人機やAIといった最先端技術活用など将来の戦闘に備えた態勢づくり」が急務の自衛隊大変革にとって最も必要な人材の一人だ、ということに尽きる。報道が事実であることを祈る。

〇アジア
中国の国務院総理が「李克強」氏から「李強」氏に交代した。初めての記者会見では「5%前後と定めた今年経済成長目標は『容易でない』との厳しい景気認識を示した」という。「克」の字が抜けた新国務院総理だが、「克」という漢字は「力を尽くして事をし遂げる」ことだ。単なる「イエスマン」でないことを示さないと本当に「克」抜きになるぞ。

〇欧州・ロシア
ロシアのワグネルが激戦の続くバフムートで多大な死傷者を出しているらしい。ISWは、ロシア軍主流派がプリゴジンを警戒し、ワグネルへの弾薬供給を制限するなど意図的に犠牲を拡大させていると分析している。うーーん、ISWの分析は正しいのかな?真偽は不明だが、これもNATO側の一種の情報戦と考えれば、納得できる。

〇中東
先週、イランとサウジアラビアが外交関係正常化と2ヵ月以内の大使館再開に合意したという。報道では「中国の仲介で電撃的に和解が実現」とある。勿論、中国外交の勝利という側面もあるが、むしろ懸念すべきはサウジ皇太子の対米不信が如何に強いかかを暗示していることだろう。皇太子は本当に怒っているようだ。

〇南北アメリカ
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の1次ラウンドC組がアメリカで開催されている。12日のアメリカ-メキシコ戦ではメキシコが快勝したそうだ。メキシコ人はさぞお喜びだろうと推察する。一方、アメリカではWBCが連日大きく報じられる、という話は聞かない。そりゃそうだろう、彼らには「ワールドシリーズ」があるからね。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

<今週以前から続く会議>

1月16日‐3月17日 ICAO、航空航法委員会、第222回会議(モントリオール)

1月23日‐3月31日 軍縮会議 前半(ジュネーブ)

1月23日‐5月5日 行政・予算問題諮問委員会冬季セッション(ニューヨーク)

2月20日‐3月17日 平和維持活動特別委員会及び同作業部会 実質的な会合(ニューヨーク)

2月27日‐3月17日 ICAO、理事会フェーズ、第228回会議(モントリオール)

2月27日‐3月24日 第137回人権委員会(ジュネーブ)

2月27日‐4月4日 人権理事会、第52回会議(ジュネーブ)

6日‐3月17日 国際海底機構 法務・技術委員会(第一部)(キングストーン)

6日‐3月24日 障害者の権利委員会、第28回会合(ジュネーブ)

3月

<3月13日‐3月19日>

13日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表

13日 ウクライナ2月CPI発表

13日 米英豪首脳会談(米西部サンディエゴ)

13日 参院予算委員会で集中審議、岸田文雄首相と関係閣僚が出席

13日 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)総会で第6次統合報告書を議論(スイス・インターラーケン、17日まで、報告書は20日に公表予定)

13日‐3月17日 麻薬委員会 第66回会合(ウイーン)

13日‐3月23日 ILO、運営組織とその委員会、第347回会合(ジュネーブ)

13日‐3月23日 米韓合同軍事演習「フリーダムシールド」開始

13日‐3月24日 包括的核実験禁止条約機構準備委員会、第16回会議作業部会B及び非公式・専門家会合(ニューヨーク)

14日 米国2月CPI発表

14日 参院懲罰委員会がNHK党のガーシー参院議員懲罰案を審議

14日 英国労働市場統計(2022年11月~2023年1月)発表

14日‐3月15日 経済社会理事会、開発協力フォーラム(ニューヨーク)

14日‐3月16日 国内人権機関グローバル・アライアンス(GANHRI)第36回セッション(ジュネーブ)

14日‐3月17日 化学兵器禁止機構執行理事会第102回会合(デン・ハーグ)

15日 米国2月小売売上高統計発表

15日 中国1~2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表

15日 フランス2月CPI発表

15日 参院本会議がガーシー議員懲罰案を採決、「除名」処分の公算

15日 政労使会議

15日 米国国際貿易委員会(ITC)の米国通商拡大法232条および1974年通商法301条に基づく対中追加関税の米国産業に対する影響に関する報告書の議会提出期限

16日 陸上自衛隊石垣駐屯地開設

16日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)

16日‐3月17日 韓国の尹錫悦大統領が初来日、岸田首相と首脳会談

16日‐3月17日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する(TRIPS)協定理事会

17日 ユーロスタット、2月CPI発表

17日 ロシア中央銀行理事会

17日 ブラジル1月全国家計サンプル調査発表

17日 CIS経済理事会

17日 自民、公明両党が追加物価対策取りまとめ

17日 米国国際貿易委員会(ITC)の米国のアフリカ成長機会法(AGOA)に関する報告書のUSTRへの提出期限

19日 カザフスタン議会選

19日 モンテネグロ大統領選

<3月20日‐3月26日>

20日 イラク戦争開戦から20年

20日 EU外相理事会

20日‐3月24日 国連拷問犠牲者任意基金評議員会 第57回会合(ジュネーブ)

20日‐3月31日 強制失踪委員会 第24回会議(ジュネーブ)

20日‐3月31日 宇宙空間平和利用委員会法律小委員会 第62回会議(ウイーン)

20日‐3月31日 ICSC、第95回会議(ニューヨーク)

20日‐3月31日 国際海底機構理事会、第28回会議前半(キングストーン)

21日‐3月22日 米国FOMC

21日‐3月22日 ブラジル中央銀行、Copom(金融政策委員会)

22日 英国2月CPI発表

22日 国土交通省が2023年公示地価を公表

22日 ウクライナ1月貿易統計発表

23日 統一地方選・知事選告示

23日 メキシコ1月小売・卸売販売指数発表

23日 英中銀金融政策委員会が金融政策と議事録を発表

23日‐3月24日 EU首脳会議(ブリュッセル)

26日 キューバ人民権力全国会議(国会)議員選挙

26日 統一地方選・政令市長選告示


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問